テレワークの動きが広がったことで、オンラインでのビデオ会議は多くの人にとって珍しいことではなくなってきた。とはいえ、リアルの場に集まらないことによるデメリットもあるとそろそろ感じ始めているのではないだろうか。チームメンバー同士の雑談がなくなったせいで新しいアイデアが生まれにくくなり、営業活動の範囲が限定的であるためにビジネス拡大のチャンスが減っている、と嘆く企業も少なくないはずだ。
ところが、そんな状況だからこそ、より一層コミュニケーションやビジネスを活性化できるとして「遠隔ビジネス」にアクセルを踏み込む企業もある。ANAホールディングスからスピンアウトしたアバターロボットプラットフォームを提供するavatarinと、オフィス家具製造や空間設計などを手がけるイトーキだ。
CNET Japanでは、「遠隔」を事業の軸やテーマに据えるこの2社を招き、「コロナで加速する『遠隔』のビジネスやライフスタイル ~距離や身体の“制限”から解き放つ~」と題したオンラインセミナーを開催した。遠隔が当たり前になっていく世界で、ビジネスとコミュニケーションの未来をどう描こうとしているのか、avatarin代表取締役CEOの深堀昂氏とイトーキ 先端研究統括部 統括部長の大橋一広氏がそれぞれの思いを語った。
avatarinは、航空会社であるANAホールディングス内のプロジェクトとして発足し、2020年4月にANAから独立した。avatarinが開発したアバターロボット「newme」は、車輪と画面を備え、PCなどを使って遠隔からアクセスして操作することで、現地の人とのリアリティのあるコミュニケーションが可能になる。
プロジェクトを自ら立ち上げた深堀氏は、newmeによって物理的な身体の移動をともなわず、意識だけを瞬間的に世界中に伝送できるようにすることで、「アバターロボットを使った新しいモビリティインフラ」の構築を目指していると話す。
同社が開発するアバターロボットのコンセプトには、「モビリティ」と「拡張」の2つの軸がある。低コストで、できるだけ多くのアバターロボットを世界中に設置することにより「モビリティネットワークを作り上げて、誰でも遠隔から社会参画できるようにする」ことが1つ。また、人間だと不可能な場所に行ったり、人間には不可能なことができたりすることで、「身体の拡張」という意味も併せ持つ。
たとえば、アバターロボットを使えば、どこからでも街中での買い物や散歩が可能になる。病院や医師の少ない僻地でも都市の専門医が遠隔から診断・診療することができ、ビジネスパーソンが出張するときも自在に動き回れるアバターロボットがあれば、現地に行くことなしに仕事をこなせるかもしれない。アバターロボットを十分に普及させることで、「できない移動、したくない移動はなくなっていく。家族旅行など楽しい移動以外はavatarに変わっていくだろう」と深堀氏は予測する。
実際にこのコロナ禍において、アバターロボットの活躍の場は急拡大しているという。東京・二子玉川の蔦屋家電では、遠隔にいる消費者が店内に置いたアバターロボットを操作して、コンシェルジュにおすすめの本を提案してもらうサービスを展開。酒屋やアパレルショップなどにも同様にアバターロボットを設置し、ユーザーが遠隔操作で店内を歩き回ったり、商品を購入したりできるようにしたところ、ECサイトをもたない地方の商店であるにも関わらず、1日に50万円もの売上を達成したケースもあったとのこと。
さらに5月には、宇宙船で打ち上げられたアバターロボットを、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に搬入したことも明かした。地上から宇宙空間にあるアバターロボットを操作するこの実証実験プロジェクトによって、まさに「人間だと不可能な場所に行ったり、人間には不可能なことができたりする」メリットを体現した形だ。
そのほか、病院、水族館、百貨店、養護施設、全国の自治体などでも導入が進む。単身赴任している家庭にも3年間に渡って設置し、コミュニケーションの活性化に高い効果を発揮することを実証した。
「オンラインツールは効率に特化しているので、偶然の出会い(セレンディピティ)がない。リアルにはそれがあるけれど、デジタルにつなげられないのが課題だった。しかし、アバターロボットは置いた瞬間にそこがオンライン空間になる。セレンディピティをそのまま空間として伝送できるのがアバターロボットの一番の魅力ではないか」と深堀氏は語る。
newme 1台あたりの値段は高く設定しておらず、むしろタダで配りたいくらい、と深堀氏は話すが、avatarinが目指しているのはロボットメーカーではない。あくまでも広く普及させることで「社会インフラにする」のが目標だ。そのなかでは「アバターシティ構想」も掲げており、すでに三井不動産との共同事業で10月から東京・日本橋に100体のアバターを設置する計画も進めている。
深堀氏は「遠隔から好きなアバターロボットに入って散歩したり、ショッピングしたり、ビジネスしたりできる街をつくり、デジタルとリアルを融合させていきたい」と意気込んだ。
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