明治時代から続く老舗企業のイトーキは、オフィス家具の製造だけでなく、オフィス空間の設計や、オフィスシステムに関わるソリューションビジネスなども展開している。オンラインセミナーで登壇した同社先端研究統括部 統括部長の大橋一広氏は、そのなかで新しいオフィスのコンセプトにつながる先端技術研究やUX(ユーザーエクスペリエンス)の開発を担い、近年は「物理空間と仮想空間の融合」にもフォーカスし始めている。
数年前からの「働き方改革」の流れもあって、コロナ禍とは関係なしに、遠隔のワークスタイルにおけるソリューションについて長く研究してきた同氏。遠隔にいるメンバー同士が容易につながれるクラウドツールの研究開発ももちろん行ってきたが、現在ではテレワークのトレンドによってそういったツールの使用も「日常化」するに至った。同氏が次に狙いを定めているのは、MR(Mixed Reality:複合現実)だ。
Microsoft HoloLensに代表されるMRは、ゴーグルもしくはサングラス型のヘッドマウントディスプレイを用い、そのガラス面にグラフィックを投影することで、現実空間に仮想空間のオブジェを重ね合わせて見せるもの。たとえば製造業では工場内での作業マニュアルの参照や、自動車などの製品設計における共同作業の効率化に活用できるとして注目が高まっている。
イトーキでは、このMRを「人々の知覚を拡張してコミュニケーションをより豊かにする」キーデバイスとして、オフィスの空間デザインに応用する「HOLO-COMMUNICATION」というプロジェクトを進めている。
大橋氏はその具体例として、遠隔にいる人同士のミーティングにおいて、相手を目の前に立体的に投影して臨場感を出すというソリューションを紹介した。自分の姿を3Dカメラでリアルタイムにスキャンし、その3次元データとカラー映像をクラウドで処理した後、遠隔の相手側のMRデバイスで映し出すという仕組みだ。
現在のビデオ会議や音声会議のような2次元データではカバーしきれない、アイデアを生んだり合意を得たりするような「よりリッチなコミュニケーション」を可能にする手段として、「MRによる3D映像でどのようにコミュニケーションして仕事を進められるか」を検証しているところだという。
「ニューノーマルな時代はオフィスや働く場所が大きく変化することになる」と断言する大橋氏。その変わっていくオフィス空間において、MRやクラウド上のデータをどのように活用して新しい空間デザインに落とし込み、遠隔コミュニケーションを進化させていくか、それが今後の課題となる。「遠隔コミュニケーションが日常化すると、新しい異文化の人との交流も増えるが、互いの信頼関係をつくるところのデザインも重要」と同氏。
そこで注目しているのが、分散型オフィスだ。在宅勤務の「ホームオフィス」、本社周辺もしくは郊外に拠点を置く「サテライトオフィス」や「シェアオフィス」、移動する列車内に設ける「モバイルオフィス」などが挙げられる。
大橋氏は、「同じ場所で、同じ時間を過ごす“対面型”がリッチで贅沢なコミュニケーションであると、コロナ禍でみんなが気付いたと思う。どちらが正しいということではなく、そのバランスを取ってデザインしていくのが我々の務め」と話すとともに、「あらゆる場所、あらゆるツールと(企業)活動とを連携させながら、より豊かなコミュニケーションをつくっていくことに積極的にチャレンジしていく」と抱負を語った。
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