視聴者に「離脱されない」オンラインセミナーの作り方は?--スライド準備や話し方にも注意 - (page 2)

 「OBS」などの配信ツールうまく使えば、画面の一部にテロップやワイプ、資料を出すなどいろいろ凝った見せ方できますし、何かしら工夫した方がいいと思うのですが、やりすぎると小さい画面で見ている人にはストレスです。アニメーションやテロップを過度に入れたり、動画を流したりすると配信帯域を圧迫しますし、だからといってZoomそのままの画面で登壇者の顔だけを並べた形でセミナーをやってしまうと、「これはリハーサルなのかな?」みたいに視聴者が戸惑ってしまうこともある。何事もやりすぎるのは良くないですね。

 ただ、少なくとも基本的な絵作りの仕方として、登壇者の顔が1人だけ暗い、ということはないようにしたいところです。登壇者本人が所有しているカメラの画質があまりに低いとか、照明が弱いとか、そういう場合は僕から機材をお送りして使ってもらうこともあります。また、最近は仮想カメラツールなどで、自分の映像を加工できるソフトも増えてきました。OBSなどもYouTuberなど個人の配信者のニーズから広まりましたが、今後はビジネス用の「映像加工ツール」も充実してくると見込まれます。

——オンラインセミナーの本番についてもお伺いしたいのですが、スムーズに進行させるために必要なこと、意識していることはありますか。

 まず、いわゆる「カンペ」をどうするかですね。当日は関係者間のやり取りが煩雑になるので、あらかじめチャットで“楽屋”を作っておくことが大事です。SlackでもFacebookメッセンジャーでもいいですし、普段よく使っているチャットツールでいいと思います。チャンネルやグループを作って、誰が何を担当しているのかをはっきりさせておき、そこで台本や資料をやり取りする。イベント最中の「音が出ていない」「顔が見切れている」などの連絡もできるようにしておくといいですよね。

 登壇者によっては直接連絡を取ることが難しく、秘書や広報の人が間に入ったりすることもあるかと思います。もちろん秘書、広報の方と常に連絡を取れるようにしておくことは必須ですが、最近は完全オンラインでなくてもいい場合もありますので、スタジオにその登壇者だけ呼んで直接コミュニケーションできるようにする方法もありますね。

——スライドの操作についてはどうですか。たとえば、事前に登壇者からファイルを送ってもらい、モデレーターが一括してページめくりをするといった方法などもありますが。

 スライドのページめくりはなるべく登壇者本人にやってもらっていますね。もちろん、トラブルがあって表示できなくなるのが怖いからバックアップとして自分の手元にも用意しておきますが、やはり登壇者本人のペースでしゃべりつつ、その人が思うタイミングでめくったほうがスムーズにいきますから。

——なるほど。このほか、オンラインセミナーならではの登壇者が注意すべきポイントはありますか。

 僕がよく言っているのは、オンラインの方が「視聴者に解像度高く見られている」ということ。画面解像度の話ではなく、登壇者1人1人の所作が細かく見られているという意味です。リアルイベントだとステージと観客席の間に距離があったり、参加者が全体を俯瞰で見ていたりして、登壇者それぞれの顔や動きに注目することは実はあまりなかったと思うんです。

 でも、オンラインだと顔が映った状態がずっと続くし、場合によっては録画されていたりもするので、登壇者はずっと見られているという意識をもって集中している必要がある。だから、他の人が話している時の表情やうなずき方にも注意しなければいけません。リアルイベントに登壇する時は洋服のコーディネートを考えたり、猫背にならないように気を付けたり、散髪してきたり、と気を使う方もいらっしゃいますが、オンラインでも同じように、背景を含めて見えるところについてはイメージを悪くしないように気を付けています。

——たしかに画質はそれほど良くなくても、常に登壇者の顔は見えているので、動きは気になってしまいますね。

 話し方についても、リアルに比べて癖が目立ちやすくなることに注意したいですね。人によってはイヤホンで聞いているので、より声に集中しやすい。よくある「えーと」のような前置きが多いとか、早口でしゃべるとか、語尾がわかりにくかったりとか、そういうことが頻発すると視聴者はイライラしてしまいます。受信環境が良くなくて聞き取りにくいことも重なると、視聴者は一気に離れてしまいます。

 ただ、話が得意な人にも注意が必要です。そういう人はしゃべりすぎる傾向にあって、登壇者が複数人いても会話のキャッチボールができず、1人でしゃべり続けてディスカッションにならなかったりします。そこでいかにキャッチボールできるようにするか。オンラインの場合は会話のリズムを掴みにくい傾向もありますから、他の人が途中から入ってこられる、入っていけるようにすることが大事で、最初にキャッチボールしやすいアイスブレイクを設けるなどの配慮も必要ですね。

日比谷氏が理事を務める一般社団法人Public Meets Innovation主催イベントの様子
日比谷氏が理事を務める一般社団法人Public Meets Innovation主催イベントの様子

 オンラインのカンファレンスやセミナーだと、今までのリアルイベントでは登壇していなかった人が登壇する機会もありますし、そういう人にこそスポットが当たりやすくなっている状況でもあります。オンライン化で時間や場所の制約がなくなり、登壇しやすくなったのが理由だと思いますが、そうするとしゃべり慣れているスポークスパーソンばかりではなくなってくる。掛け合いがうまくいかなかったり、しゃべりすぎたりするのを見かけることが多くなっているので注意したいですね。

アンケートやチャットの機能は実は必要ない?

——オンラインでは単に映像を見せるだけでなく、登壇者と参加者が直接やり取りできるツールもいろいろとありますが、ツールで盛り上げたい時の工夫はありますか。

 視聴者の参加をどこまで許容するか、というのは悩みどころですよね。ハッシュタグでツイートしてもらうとか、配信システムが備えるチャット機能でコメントできるようにするとか、投票機能を使うとか、いいねを送ってもらうとか。それをどうコンテンツとして取り込むかは、あらかじめきちんと決めておくべきですね。

 たとえば、チャットで意見を受け付けたとして、視聴者がコメントしているのに運営側が一切活用していないようなら、視聴者としては相手にしてもらえていないように感じて冷めてしまう。でも、きちんとコメントを拾って話題のなかに織り交ぜていたりすると、登壇者との距離を近く感じてもらえたりする。意見できる仕組みにするのなら、コメントを読み上げることはもちろんですが、もし運営側にとって回答が難しい質問なら、他の視聴者に助けを求めて代わりに回答してもらうようにするのもアリだと思います。

——アンケートやチャットのような機能を使う時の注意点などがあれば教えてください。

 アンケートは事前に集めてコンテンツにしっかり盛り込む方法と、イベント中にリアルタイムでアンケートをとる方法の2パターンがありますよね。ただ、特に後者のリアルタイムの場合は、画面にアンケート回答用ページのQRコードを表示させても、視聴者がすぐにアクセスできない時もあるので注意が必要です。ツールによっては視聴している画面内に投票ボタンを表示して簡単に回答できる場合もありますが、まだ視聴者が素早く反応しにくい仕組みの方が多いと思いますので。

 ただ、言ってしまうと、アンケートの回答自体には実は意味はないと思うんです。あくまでも視聴者に注目してもらう、もしくはそのイベントのテーマについて思いを巡らせてもらって本番前に気持ちのセットアップをしてもらう、という目的の手段の1つだと考えています。

 リアルイベントでもこれは常套手段になっていて、たとえばアイスブレイクに「朝ご飯食べてきた人?」と聞いて手を挙げてもらったりしますよね。それだけでイベントに参加している感じが出てくるわけです。アンケートから真面目にデータを取ろうとするのではなく、視聴者の気持ちをこちらに向けて集中力を保ってもらう、インタラクティビティを出す、という程度のものとして考えるのが大事です。

 そういう観点で言うとチャットも同じで、ぶっちゃけあってもなくてもいいと思っています。でも、チャットのいいところは、議論している話が難しかった時に、補足説明を入れたり、誰かが感想をつぶやくことで他の人も理解がより進んだり、共感や安心感につながったりすることです。あくまでも補助コンテンツだなと僕は考えています。

——Q&Aはどうでしょうか。個人的には質問の声があればできるだけ拾って回答したいと思ってしまうのですが。

 僕はQ&Aというのが実は苦手です。おっしゃるとおり、来たら全部返してあげなきゃとか、真面目に回答しなきゃとか思ってしまうのですが、それで予定時間よりオーバーしたり、細かな各論に入って他の参加者にとって無関係な視点が入ったりしてしまうんですね。Q&Aはあくまでもインタラクティブ感を出すためとか、視聴者の解釈を助けるためのものと考えて、これも100%答えることはしなくていいと僕は思っています。

 ちなみに、最近はQ&Aをいかにセレクトするかを考えています。視聴者からは漠然とした質問や、質問文をじっくり読み込まないと理解できない質問、意味がわからないまま聞いてくる質問がよくあります。なので、僕とは別に質問対応の人を用意して、その人に回答すべき質問を絞り込んでまとめ直してもらい、それを楽屋チャットに送ってもらうようにしています。

——質問があまりにも多いと選別だけでも大変なので、質問専用のスタッフを用意するのは大事ですね。ところで、数多くのオンラインセミナーを開催している日比谷さんですが、これまでに大きな失敗などはありましたか。

 システム系における失敗と、コンテンツにおける失敗という2つがありますね。システムについては、リハーサルをしっかりやったのにも関わらず、本番で正常に配信されなかったことです。リハーサルの時とは環境が少しだけ変わってしまい、その影響で配信URLが知らないうちに変更されていました。10分以内にリカバリーできましたが、その焦りを引きずったままモデレートしたのでボロボロでしたね。テクニカルな部分も含めてきちんとリハーサルをやること、テクニカルが得意なスタッフも用意して油断しないこと、ということを改めて肝に銘じました。

 コンテンツの方は、構成のミスです。あるテーマについて幅広い視点で話してほしいと思い登壇者を4人設定したのですが、冒頭で1人ずつ直近のレポートについて10分間話してもらい、後半のパネルディスカッションでも3つあるテーマを15分間で話す、みたいな内容にしたら時間が全然足りませんでした……。構成によって伝えられる内容はガラッと変わることを痛感したので、それ以来時間配分は丁寧に吟味するようにしています。

——読者の中には、これから初めてオンラインイベントやセミナーを開催しようとしている人もいると思います。そういった人たちに向けて、最初に使うのはどういったツールがいいのか、おすすめや考え方のポイントがあれば教えてください。

 オンラインでは、特に初心者の方にとっては想定外のことがたくさん起こるはずです。ですから、リハーサルは自分でなるべく多く経験しておくといいと思います。とにかく練習して場数を踏むこと。そういう意味では、無料で始められるツールから使うのがいいのではないでしょうか。たとえば、ZoomやYouTube Live、Facebook Liveなどですね。また、視聴者の環境によって発生するトラブルを避けるためにも、視聴に専用アプリを使うものは極力避けるべきです。

 ライブ配信と併用するツールについては、視聴者のリテラシーによってきます。もしくは課金するのか、ログをどれだけ取りたいのか、録画したいのか、スポンサードコンテンツの場合は資料などをダウンロードさせたいかなど、そういったニーズによってもツール選びは変わってくるかと思います。また、視聴者向けのアンケートやチャットの機能は必須じゃないけれど、運営をスムーズにするためのインカム代わりの楽屋チャットはマストですね。コンテンツも大事ですが、インフラや運営のリスクやストレスを極力減らすことが、本番のリスクを下げることになると考えています。

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