東京都港区竹芝に誕生する「東京ポートシティ竹芝」は、最先端のオフィス、商業施設、住居が隣接するスマートシティだ。全館に5Gを導入したオフィスビルは、エレベーターや共用スペースの混雑状況がリアルタイムで把握でき、レジデンスでは入居者向けの専用アプリを使って、エアコンや照明、給湯器といった家電の一括操作を実現する。最先端が詰まった都市型スマートビルの中身について、東急不動産 都市事業ユニット都市事業本部ビル事業部主任の藤井秀太氏に聞いた。
東京ポートシティ竹芝は、地上40階、地下2階のオフィスタワーと地上18階のレジデンスタワーから構成される。オフィスタワーは都市型スマートビルとして2016年に着工し、2020年5月に竣工、9月14日にオープンする。
東急不動産では、東京・渋谷「渋谷ソラスタ」を始め、これまでも数々のオフィスビルを建設。東京ポートシティ竹芝がそれらのオフィスビルと異なる最先端を実現しているのは、ソフトバンクとの協業により、リアルタイムデータ活用や全館5G導入などを実現しているからだ。
「Wi-Fiや警備用カメラといった通常のオフィスビルの機能に加え、スマートビルを構築するために、1000台を超えるセンサーやカメラを設置し、ビル内のデータをリアルタイムで活用している点が東京ポートシティ竹芝の最大のポイント。従来までは、混雑状況などのデータを取得していない、またはデータは取れていても、それを分析した後から課題解決にいかすなどしていた。今回はそのデータをリアルタイムで活用している」(藤井氏)と違いを説明する。
各種センサー、カメラからは、混雑状況、気温・湿度といった環境情報等あらゆるデータを取得。それらデータは、入居者向けに配信するシステムを整え、混雑回避などに活用できるという。
例えば、エレベーターホールでは3Dセンサーが混雑状況を検知し混雑が緩和する時間帯をワーカーに提案。分散出勤を促す。トイレは扉の開閉センサーにより空き情報が可視化でき、別の空いているトイレを探したり、待ったりというストレスを軽減する。
「新型コロナウイルスの感染拡大防止により、密を避けるという意識が高まり、ニューノーマルな働き方が求められるようになってきた。ビルのプロジェクトが始まったのは約7年前の2013年頃だったが、リアルタイムでのデータを活用できることで、今の時代に即した働き方をサポートできる」とする。
データ活用はオフィスワーカーだけにとどまらない。オフィスタワーの商業エリアである1~3階に出店する飲食店などにも提供する。AIカメラやWi-Fiデータで施設利用の傾向を分析。各店舗テナントへレポートを提供し、店舗利用者向けの施策や来店者用ツールに活用することで、「数値に基づいたマーケティング」を支援する。さらに、施設全体の利用者傾向情報や店舗ごとの利用者データを分析することで、「売り上げ予測」や「在庫管理最適化」にも役立てる。
リアルタイムデータは、オフィスワーカーはウェブアプリから見られるほか、館内約30カ所に設置されたデジタルサイネージにも表示。来館者にも広く提供する。
センサーで取得したデータのリアルタイム活用を進める一方、ビル内にも数多くの最新設備を導入。次世代型コンビニ「ローソン Model T 東京ポートシティ竹芝店」には、ロボットの設計・製造・オペレーションを担うTelexistenceと東急不動産が共同で、陳列業務にロボットを採用。清掃ロボット「Whiz」(ソフトバンクロボティクス)や自律移動の警備ロボット「SQ-2」(SEQSENSE)などロボットも積極的に取り入れる。
「ロボットの活用は人手不足を解消するために進めている。警備ロボットは、三菱電機のロボット・エレベーター連携システムを使うことで、上下階の移動ができ、ロボットの課題だった縦移動を実現した」と数多くの企業と連携し、課題解決に取り組む。
一方、2020年6月に竣工したレジデンスタワーには、顔認証とスマートロック機能により、エントランスからエレベーター、玄関までタッチレスでの開閉を実現。ソフトバンクのグループ会社であるエンコアードジャパンが提供するIoTサービス「コネクト」をカスタマイズした居者専用オールインワンアプリにより、フィットネスルームなどの共用施設の混雑状況可視化から、家電の操作、電力使用量の可視化まで、20種類以上のサービスを1つのアプリにまとめる。
「家電の操作や電気使用量の見える化など、家庭におけるIT化は進んでいるが、それぞれのアプリをダウンロードし、別のアプリを操作しないといけなかった。レジデンスタワーで1つのアプリにこれらの機能を集約することで、さまざまな機能がこのアプリだけで操作できるようになった」と使い勝手の向上を目指した。
レジデンスタワーには賃貸住宅とシェアハウス、サービスアパートメントを設け、総戸数は262戸。入居者300~400名に向け専用アプリを提供する。
最先端のシステムを取り入れながら、エネルギーマネジメントへも配慮する。通常の電力に加え、地域冷暖房(DHC)サブプラントとガスコジェネレーションにより熱、電気のスマートエネルギーネットワークを構築。耐震性のある中圧ガスを取り入れることで、災害時でも非常用発電機との併用により、通常時の80%の電力を5日間供給することが可能だ。
「照明自体にも人感センサーを付け、人がいない部分は電気を消すなど細かな取り組みもしている。災害時は、オフィスロビー等の低層部共用空間を一時滞在施設として提供する予定。6350人が3日分過ごせる防災物資を完備する」など、入居企業の事業継続性もサポートするだけでなく、地域の防災拠点としての役割も担う。
5Gの導入や、各種センサー、リアルタイムのデータ活用と最先端の設備をいかし、今後は実証実験の場としても広く提供する計画だ。2019年10月には東京都の「MaaSの社会実装モデル構築に向けた実証実験」の実施事業者として採択。MONET Technologies、一般社団法人竹芝エリアマネジメントなど7者とともに新たなモビリティサービスの実装に向け取り組む。
「今までのスマートビルは、エネルギーマネジメントなどに重きが置かれていた。しかし東京ポートシティ竹芝はリアルタイムデータを活用し、人間のパートナーになれるようなビルを目指している。人に寄り添うスマートビルを作るというのが今までのビル建設とは大きく異なる」と藤井氏は話す。
竣工直前には、新型コロナウイルス感染拡大を受け、リアルでのミーティングをオンラインに切り替えるなど、大きな影響も受けた。藤井氏は「東京ポートシティ竹芝は東急不動産と鹿島建設、入居していただくとともにリアルタイムデータ活用をはじめとするシステム構築を担当していたいだソフトバンク、そのほか多くの企業の方との連携によってつくりあげたもの。通常のオフィスビル建設以上に多くの方に関わっていただいた。はじめての取り組みが多く苦労の連続だったが、それでも関わる皆さんのチェレンジする気持ちが強く、大変やりがいがあった。今後も実証実験の受け入れなど、さらなるチャレンジを続けていきたい」とした。
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