ブロックチェーン選挙で日本が変わる - (page 2)

加納 裕三(bitFlyer Blockchain 代表取締役)2020年08月14日 10時00分

 株主総会は投票の方式が事前に提出する「委任状」以外は、会場での「拍手」や「挙手」だったりします。随分といい加減な運用のように見えますが、実は委任状で過半数(特別決議なら3分の2以上)が見込まれているので、議長(通常は代表取締役)の判断でこのような運営となっています。

 でも本当にそうなのでしょうか?仮にそうだとしても、すでに議長を含む運営側である会社(同時に総会の決議に従う必要がある当事者である)は勝負を知った状態で株主総会に挑むことになります。株主は野球で言うところの消化試合を見せられているのです。株主と取締役会が対立するとプロキシファイトと呼ばれる委任状争奪戦となります。しかし、運営を一方の当事者が行い、一部の人が結果も知っている状態で開催される株主総会。これは公正なのでしょうか?

 私は株式会社bitFlyer Holdingsの筆頭株主ですが、最近は委任状を提出していません。会場で取締役に質問をさせていただき、株主のエージェントである取締役がフィデューシャリー・デューティーを果たしているのかを確認した上で投票しています。信憑性がないなど説明が納得できないのであれば反対票を投じます。それがガバナンスの根幹であり、株主として責任ある対応だと考えています。

 逆に私が議長の株主総会は、会社法に則り、誠実に質問に回答し会社の代表として説明責任を果たすよう努力いたします。

 正確な投票と透明性のある運営が担保される株主総会が求められています。

ブロックチェーン株主総会

 すでにご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、ビットフライヤーでは「bVote」を利用し世界初のなりすまし防止機能付きブロックチェーン株主総会を行いました(無事議案は可決されました!)。

 ブロックチェーンとは、簡単に言うとデータが改ざん(記録を不正に変更すること)できない新しいデータベースです。それ以外にも中央集権的な管理者がいなくても動くこと、一部のサーバーが不正侵入されても動き続ける(ビザンチン耐性)など非常に高いセキュリティーが保証されています。

 ビットコインのブロックチェーンは過去10年間、中央の管理者がいないにも関わらず一度もシステムダウンをしたことがありませんし、改ざんされたこともありません。もし改ざん耐性がなくビットコインの残高が書き換えられてしまうとすると、今のような価値を維持することは不可能でしょう。

 ブロックチェーンの高い信頼性と改ざん耐性を利用して、株主総会を行うことで、投票の正確性や集計の透明性を担保し、株主総会が不正に運営されるリスクを軽減することができます。

 もし、ブロックチェーンの改ざん耐性により関心のある方は、カレンシーポート代表取締役‎の‎杉井靖典氏が執筆した解説記事をご一読ください。

株主総会と選挙の違い

 株主総会は適法にブロックチェーン投票を実施することができました。株主総会と選挙の違いは何でしょうか?現在は、公職選挙法の規定によりブロックチェーンどころか電子的な方法で選挙を行うことはできません。

 冒頭の総務省でのレポートには以下の投票の基本原理が記載されています。先程述べた通り株主総会は会社の最高意思決定機関であるにも関わらず、以下の投票の基本原理に沿って設計されてはいません。(2)一人一票ではなく(基本的に)一株一票なのは資本主義の根源ですね。

 「所轄官庁が違うから?」それは「投票によって意見集約する場合における基本原則はどうあるべきか」と一般化した時に株主総会と選挙の差異に対する説明になっていません。株主総会は拍手で投票、選挙の本人確認は、名前を呼ばれて「はい」と言うだけ。何か重要な「主義」が抜けていると感じませんか?私は「本人主義」を追加して、株主総会も選挙も本人が投票して本人の意志が表現されていることを担保することが重要だと考えています。

 入場整理券を手に入れて、「はい」と返事すれば投票できる状況では、他の基本原則の意義が薄れてしまいます。

    投票の基本原則
  1. 投票主義
  2. 一人一票主義
  3. 秘密投票主義
  4. 投票当日投票所投票主義
  5. 選挙人名簿登録主義
  6. 投票用紙公給主義
  7. 単記自書投票主義

ブロックチェーン選挙に向けて

 ブロックチェーン選挙は、普通の電子投票と何が違うのでしょうか?

 ブロックチェーンに構造的な改ざん耐性があり、またデータをインターネット上に公開しても大丈夫なセキュリティーが担保されています。そしてビットコインを見ても分かる通り、コンピュータが分散されているので、システムダウンする可能性が極めて低い。このような性質を利用したブロックチェーン選挙は電子投票よりも優れていると考えています。

 公開されると言っても、投票者は「66a97f8b990cc37ed3854410055」のようなIDに置き換えられます。住所氏名は当然公開されません。投票内容も暗号化されます。でも、「小池 百合子」を暗号化したら、同じような暗号になるから秘匿性が担保されないでしょうか?いえ、「小池 百合子」も人によって変えることが可能です。「3cu5RqdVvG9uz」であったり、「8ee02b04431a0665」であったり。

 暗号を駆使したブロックチェーンであれば、それでも集計ができるのです。データは改ざんできないので、自分の投票内容が不正に書き換えられることがなく、集計結果に嘘を付くこともできません。自分自身の投票を公開されたブロックチェーンで確認することで、不正がないことを確認できます。もし誰かに不正が見つかったら騒ぎになるでしょう。多くの人がそのようなチェックを行うことで、投票と集計に問題がないことが確認されます。

 集計が公開されることは大きな信頼性を獲得できるかと思います。

 もちろんマイナンバーカードを利用した本人確認を行い先程の(電子的な)入場整理券を取得して投票券を行使することで、よりセキュリティーが上がるのは間違いありません。

 ブロックチェーン選挙を導入するには、公職選挙法の改正という大きなハードルがあると認識しています。まずは「党首」を選出する選挙など公職選挙法に該当しない選挙で実証実験を始めるのはどうでしょうか?アイドルの総選挙もブロックチェーンでやってみては?もっと小さく始めるのであれば、町内会会長や学級委員でも良いです。リーダーを決める会議は日常に行われています。そして私はブロックチェーン選挙が導入され、多くの人が日本の未来がどうあるべきかについて真剣に議論をし、次世代を担う40歳台以下の得票率が上がることで若者の意見がより政治や行政に反映されるような日が来ることを夢見ています。

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