ソフトバンクグループは8月11日、2021年3月期第1四半期の決算を発表した。売上高は前年同期比2%減の1兆4501億円、純利益は前年同期比11.9%増の1兆2557億円となった。
同社の代表取締役会長 兼 社長である孫正義氏は決算説明会の冒頭、「防御は戦うために重要なもの」と話し、その防御策は現金だと説明。前期にコロナ禍で投資先企業が株価を大きく下げ、過去最大となる営業赤字を記録したことから、保有資産の売却などによって1年間で4.5兆円の現金の確保するとしていた。
その上で、現時点ではT-Mobileやアリババ、ソフトバンクなどの保有株式を一部売却することにより、短期間のうちにすでに4.3兆円の資金を調達が完了したことを明らかにし、保有株式の現金化が難しいとの懸念を払しょくして、順調に資金調達できていることをアピールした。
そのため、当期純利益の増加要因にも、米SprintとT-Mobileの米国法人の合併にともなう一時益だけでなく、そのT-Mobile株式の売却も含まれているというが、アリババの株価が上がったことでアリババ株の先渡取引にかかるデリバティブ損失が発生しており、それが純利益を押し下げる要因にもなっているとのこと。
一方でソフトバンクグループは今期より、営業利益を非開示としている。その理由について孫氏は、自ら事業をしていない投資会社にとって、営業利益が適切な実態を示していないためと説明。売上高や純利益にも「どれだけ意味があるのか疑問」と話し、重要な指標はあくまで株主価値だと強調した。
その株主価値に関しては、アリババやT-Mobileの株式のうち2.8兆円を、対象となる株式以上の返済義務を負わないノンリコースのアセットファイナンスで実行したことから、純負債と保有株式からそれらを控除する形になると孫氏は説明。控除後の保有株式は30.2兆円、純負債は3兆円となることから、決算を発表した8月11日時点の株主価値は24.4兆円であるとし、保有株式に対する純負債の割合は11%と、平常時の上限である25%を下回る健全な運用ができていることをアピールした。
また孫氏は、同社が保有する主要企業の動向についても説明。アリババ、ソフトバンクはコロナ禍でも好調な業績を記録しているほか、Sprintに関しても多額の借り入れで買収し、立て直しに大変苦労したとしながらも、株主価値は買収時の0.4兆円から1.9兆円と大幅に伸ばしたことで「成績としては悪くない」と話す。
さらに孫氏は、売却すると一部で報道されているARMについても言及。ソフトバンクグループでは当初、高額な5Gスマートフォン向けのチップセット販売が大きく広まる2023年にARMを再上場する計画を立てていたそうだが、「(ARMに)興味を持つ相手が現れた」と話し、ARMの一部またはすべての株式を売却することも選択肢の1つとして検討していることを明らかにした。
ただ、現時点では買収を持ちかけた相手や、上場と売却、どちらの選択を取るかは明らかにしておらず、最終的な判断はぎりぎりまで検討するとのこと。また売却の検討などにともなってARMのIoTサービス事業を分社化し、ARM自身は本業である半導体の設計に集中する方針としている。
一方、現在ソフトバンクグループが注力しているソフトバンク・ビジョン・ファンドに関しては、投資した86社のうち価値を上げた企業が29社、価値を下げた企業が48社になるとのこと。それらの評価損益を合計すると、約0.2兆円の投資利益が出ているという。さらに、そのうち上場した8社の損益を合わせると1.3倍の成果が出ており、7月に上場したAI技術でタンパク構造解析をしているバイオベンチャーのRelay therapeuticsの評価を加えると、1.5倍の成果が出ているとのことだ。
そのため、前期まで大幅な赤字を記録していたソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資益も、今四半期は2966億円にまで回復。コロナ禍は終わっていないとしながらも「着実に最悪の状況は改善された」と孫氏は説明する。今後はソフトバンク・ビジョン・ファンドや、ソフトバンクグループ自身が投資した企業が上場、あるいは上場準備をすることで、大幅に回復していくとの見通しを示した。
さらに孫氏は、新たに投資運用子会社を設立したことも発表している。余剰資金の運用と、資産アセットの多様化を進めるのが狙いであり、流動性が高く現金化もしやすいIT関連の上場株を中心に運用していくとのこと。ソフトバンクグループが67%、孫氏が33%を出資するなど、孫氏自身がリスクを取る形を採っているとのことだ。
なお孫氏は、かねてより60代で引退すると宣言していたが、「当初計画を立てた時よりも、医療ははるかに進化し平均寿命も延びた」と回答。健康に自信がなければ引退するとしながらも、70代になっても経営者を続ける可能性を示唆した。
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