スマートフォンネイティブが見ている世界

小中高は再開したのにどうして?--オンライン授業が続く「大学生」たちの悲鳴

 「大学に行ったこともないし、同級生の顔も知らない。せっかく勉強して合格したのに…」。新型コロナウイルス感染拡大を受けてオンライン授業が続き、大学に入ることも許されない事態が続き、大学生が悲鳴を上げている。

 デジタル・ナレッジの調査(2020年7月)によると、新型コロナウイルス感染拡大を機とした大学のオンライン授業実施率は97%に上った。2020年4〜5月に一気に導入が進んだ形だ。東京都などで感染拡大が続く中、青山学院大学や中央大学、立教大学など少なくとも10以上の大学が、後期の授業も原則、オンラインで行う方針を決めている。

 「大学に行きたい、対面で授業が受けたい。普通の大学生活がしたい」と多くの大学生は言う。コロナ禍における大学生の今についてお伝えしたい。

大学生だけ始まらない日常

 「#大学生の日常も大事だ」というハッシュタグをつけた東京の美大に通う大学生による漫画がTwitterで話題となった。漫画では、大学には一度も行けず、同級生の顔も知らず、一人部屋で画面に向き合いオンライン授業を受ける日々が綴られている。

 「小中高も会社も再開してるのにどうして大学は始まらないの?」「旅行には行ってもいいのに大学に行ってはいけないの?」「消えるのは授業日数と変わらない学費」と、切ない心のうちが描かれている。

 確かに大学生の方が小中高生などよりオンライン授業を行う環境が整っている。また、大学には県をまたいで長時間通学してくる学生も多いこと、教室・設備・時間割・座席などが固定ではなく移動が多いこと、活動範囲が広く、バイトやサークル活動、飲み会をするなど拡散させるリスクも高いことなど、オンライン授業が続く要因はさまざまあるのかもしれない。

 小中高校生や会社員などは、感染してもクラスターが起こらない限り学校名や会社名などは明らかにされないことが多い。一方で大学生が感染すると、多くの場合大学名が報道される。行動範囲が広い大学生が感染を拡大したと言われることもあり、大学や大学生に批判が集まることも少なくない。

 大学が再開しないのは「感染を広げないため」と誰もがわかっている。しかし、わかっていても、ひたすらPCの画面を見続ける生活が続き、孤独と不安に押しつぶされそうになっている大学生が多数いることも事実なのだ。

課題ばかりのオンライン授業

 大学の学びは、オンライン授業でできるものばかりではない。しかし、理系学部の実験、医療系学部の実習、美術系学部の制作なども多くは制限されている状態だ。十分な学びが得られず、不安と不満をいだいている学生は少なくない。

 「友だちとも遊ばず、大学生生活を夢見て受験勉強をがんばってきたのに、まさかこんな生活になるとは」。ある大学生は、一人暮らしで実家にも帰れず、ただひたすらオンライン授業を受ける日々だという。

 時間になったらオンライン授業を受けるものの、ベッドの上で転がりながら受けているうちに眠ってしまうことも多いという。コンビニと家の往復くらいしか外出せず、人と話すこともなく、ただひたすらPCの画面を見つめる日々で疲れているそうだ。

 教員側からも学生の顔が見えないため実感に乏しく、ついつい課題が多くなる。その大学生は、毎日夜中までひたすら課題をこなす日々だという。「設備がいいから選んだのに、大学に入ったことも一度だけ。後期は大学に行けると思ってがんばってきたのに、心がやられてしまいそう」という。「わからないことがあっても相談できる知り合いもいないし、心細い」

 「オンデマンドの授業は質問を送っても返事が遅いことも。ほとんど授業をせず課題だけ出している先生もいる。大学の設備は使えないのに学費はそのままだから、親がため息をついている」

 もちろん、オンライン授業の方がいいという学生もいる。「何度も見返して復習できるのはいい」「チャットなら先生に質問しやすい」「もともと不登校気味だったけど、オンライン授業なら参加できる」などの肯定的な意見もある。しかし、多くの学生は大学に行きたいという強い願いを抱いているのだ。

大学生の交友最後の砦?「大学垢」

 大学に入ったときに大学専用のTwitterやInstagramのアカウント「大学垢」を作る人は多い。入学前に情報が得られると評判なため、「#春から○○大」などのハッシュタグで同じ大学や学部の学生同士でつながることはとても多い。

 大学垢は同じ大学の同級生とつながる最後の砦となりつつも、やはり顔を合わせられないため機能不全に陥っているようだ。「大学垢のタイムラインが、課題終わったとかばかりで何も楽しいことが出てこない」「遠隔授業ばかりで今更大学垢作ったけれど何も起きない。資料持ってる人?と書いても誰も反応なかった」「大学垢は必須と思って作ったけれど、オンライン授業で知り合いが誰もいないから本音は絶対につぶやけない」などの若干ネガティブな投稿も少なくない状態だ。

 頼みのサークル活動も画面越しに説明を受けただけで行けないなど、大学からすべてのサークル活動中止の連絡がきたところもある。大学垢ではなく、むしろ高校までの友だちと会って写真を撮り、「久しぶりに日光浴びた」などと投稿している女子大生もいる。

 今の大学生たちは、満足な学生生活が送れていない中でがんばっている。完全対面は難しくても、学生たちの心をケアした上で、学びをしっかりと保証できるようになることを願う。周囲の大人たちは、ぜひ学生たちを支えてあげてほしい。

 

高橋暁子

ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディア等の記事の執筆、企業等のコンサルタント、講演、セミナー等を手がける。SNS等のウェブサービスや、情報リテラシー教育について詳しい。
元小学校教員。
『スマホ×ソーシャルで儲かる会社に変わる本』『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(共に日本実業出版社)他著書多数。
近著は『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)。

ブログ:http://akiakatsuki.hatenablog.com/

Twitter:@akiakatsuki

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