コロナが壊した企業内の「コミュニケーションの壁」--テレコラボ前提社会へ

角 勝(フィラメントCEO)2020年05月25日 08時00分

コロナ禍はインターネット黎明期10年分を上回る変化

 このコロナ禍によって一変したビジネス生態系に対応していくためには、スピード感をもって、これまでの事業を見直していくことが必要不可欠です。また、新しい環境にフィットした新規事業を創っていくことも重要でしょう。

 しかしながら、今回のコロナ禍のインパクトはこれまでの不況とは比較にならないスピードで生態系を激変させています。僕が先日会話をしていたインターネット黎明期を知る人は「当時の10年分以上の環境変化が3カ月で起こっている」と表現していました。通り一遍のアプローチでは、今回のコロナ・インパクトに抗うのは難しいといえるでしょう。

人間の歴史は「コミュニケーション進化」の歴史

 少し別の話をします。これは僕の持論なのですが「人類の歴史はコミュニケーション進化の歴史」。そうした見方ができるのではないでしょうか。僕が思うコミュニケーションの進化は次の3つの要素の組み合わせによって進展していきます。

(1)対象範囲の拡大→コミュニケーションが届く範囲(距離と時間)の広がり
(2)応答性の拡大→コミュニケーションによる応答時間の短縮と正確性の向上
(3)対象者数の拡大→同じコミュニケーション手段を使える人(数と密度)の増加

 この3種類のコミュニケーションの進化は、過去の人類の歴史の中で繰り返し起こってきたことです。

 音声言語が生まれて近距離での意思疎通ができるようになり、その後文字として保存できるようになり、活版印刷は時空を超えてコミュニケーションの範囲を広げ、教育の普及による識字率の向上はコミュニケーションの民主化に寄与しました。そして、最近ではインターネットによって(1)と(2)が大幅にレベルアップしましたし、スマホの普及はさらに(3)を急拡大させていきました。

 まさに歴史上稀有なコミュニケーションの圧倒的進化が実現しているのが現在なのだと思います。


 
 

コロナで加速する企業内コミュニケーションの進化

 人類史上稀有なコミュニケーションの圧倒的進化があったにもかかわらず、企業の内部においては、そうした人類の進歩の恩恵が大幅に制限されてきた側面もあるかと思います。

 個人のスマホが社内に持ち込めない会社も多いでしょうし、インターネットが満足につながらないような制限が加えられていたケースもあると聞きます。年号が令和に変わって1年が経っても、昭和のコミュニケーションが存続している会社も少なくない、というのが日本企業の現状だったのかもしれません。

 人間のコミュニケーションは、人間の脳内で起こっている神経細胞の応答と同じ効果を生みます。1つの神経細胞がつながっているネットワークが広がれば広がるほど生み出されるアイデアのバリエーションは増えますし、応答速度が加速すればするほど、そのアイデアの具体化・展開も早くなるものです。

 今回のコロナ・インパクトは、企業間、あるいは企業内に存在していた「コミュニケーションの壁」を強制的に排除しつつあります。

 
 

 文字の読み書きと同じレベルで、誰もがビデオ会議のリテラシーを手に入れた今、かつて「ビデオ会議がいまいちだ」と思われていたのは、結局のところ「社内のリテラシーのバラつき」が原因であったことが明確になってしまいました。

 そして、リテラシーレベルの足を引っ張っていたのが上位職階者であって、そのことが理由でテレワークに踏み込めなかった会社(そういう会社は多いと思います)も否応なくテレワークが常態化していきます。さらに、テレワークでは空気が読みにくくなることから、忖度の上手さよりも、フラットで能力本位の業務プロセスが一般化する可能性が高くなります。

 今では会社員も主婦も公務員も分け隔てなく、オンラインでの飲み会を楽しんでいますし、我が家では小学生の娘もお友達と遠隔でお絵描きをして遊んでいます。テクノロジーとリテラシーさえあれば、小学生であっても、離れた友人と同じ画面に一緒に絵を描くことが容易に実現できてしまうわけです。この事実は、これからのテレコラボの一般化を暗示しているように思えてなりません。

 
 

 こうした誰もがテレコラボできるという前提に立つ時、いったいどんな世界が出現していくのか、その果実の大きさは計り知れないものがあると思います。どうすれば、テレコラボを実践して、このコロナ・インパクトを飛躍のきっかけにできるのか、そのための戦略や具体策について、次回以降お話ししていきたいと思います。

連載第4回に続く

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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