新型コロナウイルス感染拡大を防止するため、緊急事態宣言が発令されて以来、多くの小中高校大学で休校が続いている。休校ではない自治体もあり、教育格差が広がることを心配している児童・生徒や保護者は多いはずだ。
執筆現在、全国の約9割の学校が休校となっている状態だ。しかし、文部科学省の調査(4月21日)によると、公立小中高校などを休校にしている自治体のうち、双方向のオンライン授業ができている自治体はわずか5%だという。
これから学校におけるオンライン授業はどうなるのか。オンライン授業の現状について解説したい。
「オンライン授業は質問もできるし、家族以外と話せるのがいい」と、オンライン授業を行っている私立中学の生徒に聞いた。このように私立学校はオンライン授業をしているところもあるが、公立学校を見ると実施率はかなり低い。東京都の4月中旬の状況を見ても、オンライン授業を実施していたのは港区のみで、他の区は検討中、あるいは予定なしという。
港区は、各小中学校に1台ずつスマートフォンを配布し、教師が動画を撮影。簡単にできる運動の紹介や教科書に掲載されている問題の解説などをYouTubeで限定公開したという。また、自宅で学習を進めてもらう狙いで、民間のオンライン学習サービスのIDも付与している。
ほかの区で検討中、あるいは予定なしとなっている理由は、「家庭環境の差」「セキュリティ上の問題」「端末の用意」「ノウハウ不足」などとなっている。
すべての家庭にスマートフォン・タブレット・PCなどがあるわけではなく、Wi-Fi環境がない家庭も多い。また、学校側に配信するだけのインフラが整っていなかったり、セキュリティ上の問題でウェブ会議サービスにアクセスできなかったり、教員にノウハウがなかったりすることが、課題となっているのだ。
突然の休校だったため、いろいろと準備が間に合っていないのは当然だ。しかし、前述した以外にも問題はあるのだ。
指導要領には、学年ごとに何の教科を何時間学ばねばならないという標準授業時数が定められている。しかし現状では、オンライン授業を行っても標準授業時数に含まれず、別途対面で内容を補う必要があると規定されているのだ。このことも、腰を重くしている原因だろう。
ただし、今後認めることを検討すると萩生田文科相が4月3日に明言している。さらに文部科学省は、小中高校向けにPCやタブレット端末を使って出題・回答するオンライン学習システムを作る予定だ。今年度中に実証研究に着手し、将来的に教員が問題を作り、出題し、成績評価までできる環境づくりを目指しているという。
今すぐではないのが残念だが、今後このような事態が起きた場合には期待できるかもしれない。
学校教員から、「小学校低学年では端末を扱えない」などの問題もあると聞いた。それなら、授業でインターネットや端末を扱う大学生はどうか。
東京大学は「対面での講義は最小限とし、オンライン化を奨励し推奨する」と発表。それ以外の多くの大学で、卒業式・入学式は中止となり、オンライン授業が行われているが、そこでもさまざまな問題が起きているようだ。
立命館大学では、オンライン授業が始まった4月6日に問題が起きた。オンライン授業や授業用の資料提供の場として活用するはずだった授業支援ポータル「manaba+R」にアクセスが集中し、一部でページが見られない状態になったのだ。大学側のインフラが十分でない実態がよく分かる。
9月まで前期の授業を基本的にオンライン授業形式とした名古屋大学では、「オンライン授業に初めて関わる教員のための教授法(ティップス)」を公開。オンライン授業の方法として、ライブ授業中継、学習資料配信、スライド資料配信、録画授業配信などの種類があること、それぞれを実施する際のコツなどをわかりやすく解説している。
すでにオンライン授業を実施した大学教員の話では、受講する学生のほとんどはスマホを利用していたそうだ。「入学したばかりの学生の中には、PCがまだ準備できていない学生もいる。コロナ騒動で注文済みのPCもまだ届かず、6月到着予定となっていると聞いている」とある大学教員は語る。
また、オンライン授業はZoomやTeamsなどを使う例が多く、通信量がかかることも問題となっているようだ。光回線を引くのが一般的な方法だが、一人暮らしなどでWi-Fi環境が整っていない場合もある。その場合、モバイルWi-Fiを利用するのがベターだが、スマホの契約を大容量にしてテザリングを使ったり、フリーWi-Fi施設を利用する例も少なくない。
実際、大学生や大学教員などにヒアリングしたところ、自宅にWi-Fi環境がない一人暮らしの大学生は少なくないようだ。「Wi-Fiがないし大学に行けないから」と、実家に帰った学生もいるという。学校によっては、学生のIT環境が十分でないとオンライン授業をやめたところもあると聞く。
学生には学ぶ権利がある。現在、義務教育段階の子どもは義務教育を受けるという基本的な権利が得られずにいるし、せっかく合格したのに学校に通えず満足に学べていない高校生や大学生も多い。今こそ変革が求められている時であり、児童・生徒たちの学ぶ権利を守るためにできることを考えていくべき時といえるだろう。
高橋暁子
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディア等の記事の執筆、企業等のコンサルタント、講演、セミナー等を手がける。SNS等のウェブサービスや、情報リテラシー教育について詳しい。
元小学校教員。
『スマホ×ソーシャルで儲かる会社に変わる本』『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(共に日本実業出版社)他著書多数。
近著は『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)。
ブログ:http://akiakatsuki.hatenablog.com/
Twitter:@akiakatsuki
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