LINEは3月26日、宅配デリバリー事業を展開する出前館に約300億円を出資することを発表した。同社は、メッセージアプリ「LINE」内において決済やコマースなど日常使いするサービスを総合的に提供する“スーパーアプリ化”構想を描いており、フードデリバリーがその要になると考えているという。出前館を傘下におくことで、「Uber Eats」などが存在感を強める日本のフードデリバリー市場で、圧倒的なナンバーワンを目指す。
翌日となる3月27日には、出前館の決算説明会が開かれ、同社代表取締役社長の中村利江氏が出資を受けた狙いを語ったほか、LINEの取締役・舛田淳氏、執行役員兼 O2O カンパニーCEOの藤井英雄氏、O2O カンパニーエグゼクティブ CMOの藤原彰二氏が登壇し、フードデリバリー事業の今後の戦略を語った。
LINEは2016年5月に出前館と提携し、同年10月に出前館の約22%の株式を取得していた。LINEは新たに、未来 Fundとともに出前館に約150億円ずつ出資する。未来 Fundは、LINEの筆頭株主である韓国NAVERのグループ会社NAVER J.Hubが90%、LINEが10%出資する投資ファンド。今回の出資により、LINEが約36%、未来Fundが約25%の株式を保有することになり、出前館は実質LINEの傘下になる。
両社は資本業務提携以降、2017年7月にLINEアプリ上から手軽に検索・注文できるフードデリバリーサービス「LINE デリマ」の提供を開始したほか、ユーザーの相互送客などで連携してきた。しかし、Uber Eatsが認知度と取扱店舗数を急速に高めており、中国のDiDiも4月から参入を発表していることから、このタイミングで300億円の大金を投じて対抗したい考えだ。
出前館ではLINEから出資を受けて、(1)直営拠点の拡大や競合他社に対抗できるシェアリングデリバリーサービスの強化、(2)新規顧客開拓のための営業増強、(3)効果的なマーケティング戦略の構築による広告効率の向上、(4)システムの改修、(5)クラウドキッチンの拡大、テイクアウト領域への進出、(6)配達効率の向上を目指す。
具体的には、出前館のユーザー、加盟店、オーダー情報などのデータベースの最適化、トラッキングシステムの最適化、出前館IDのLINE IDへの統合、オーダー数やアクティブユーザー数などのKPIを可視化するBIツールの開発、店舗向けの管理ツールの改修、LINEの8300万人のユーザー基盤を活用したマーケティング、配達代行やテイクアウトサービスの推進などを進めるとしている。
また両社は、「LINE デリマ」事業の名称を「出前館」に変更することや、テイクアウトサービス「LINE ポケオ」を出前館に事業譲渡し、サービスを「出前館」に統合すること、システム担当者やマーケティング担当者をLINEから出前館に派遣することに合意しているいう。
出前館の2020年8月期の第2四半期の業績は、売上高が前年同期比22.7%増の38億円だったが、約10億円の営業損失を出していた。シェアリングデリバリーの拡大にともなう加盟店の拡充や積極的な販促活動によって、オーダー数が増加したことで増収になった。一方で、直営拠点の拡大コストやオペレーションコストの増加、2019年末からダウンタウンの浜田さんを起用した広告宣伝に注力したことなどが減益につながった。
こうした状況の中、出前館は潤沢な資金のあるUber Eatsに対抗するため、より大きな資金を得る必要があった。中村氏は「一生の中でも一番大きな決断だと思う。いろいろと検討した結果、当社に足りない『お金』『システム』『マーケティング』がすべてあるのはLINEだけだった。日本のフードデリバリーはこれから必ず急成長する。その自信を持っての投資になる」と、LINEグループ入りへの思いを明かした。
すでに出前館の社外取締役でもあるLINEの舛田氏は、LINEと出前館のシナジーについて、「LINEがスーパーアプリになるには、どれだけ日常使いを増やせるかが重要になる」と話し、海外ではフードデリバリーアプリから事業を開始し、その後スーパーアプリ化したサービスもあると強調する。
また、当初はもう少し低い金額での出資を検討していたそうだが、「経営陣とディスカッションし、やはり食の領域はわれわれがプラットフォームとして強くなっていくには必要な領域。積極的かつ攻撃的に投資してくと意思統一ができた」と、最終的に300億円という大型出資にいたった経緯を明かした。
また今後、出前館の中村社長は会長に就任し、テイクアウトサービス「LINEポケオ」なども担当しているLINEの藤井英雄氏が出前館の社長に就任する。藤井氏は米国や韓国の大手フードデリバリーサービスと比べると、出前館は取扱高、アクティブユーザー数ともに大きな差をつけられており、「出前館は最大で10倍近いポテンシャルがある」と説明。まだデリバリーに対応していない飲食店をシェアリングデリバリーで補うことで、日本のフードデリバリー市場自体もまだまだ成長すると見ている。
また、LINEの持つ(1)8000万人以上のユーザー基盤、(2)開封率の高い即時性、(3)許諾を得た上での位置情報データを組み合わせることで、日本の消費者にタイミングよく料理をオススメするといったアプローチも可能になると説明。「日本でもデリバリーやテイクアウトを日常化させたい」と意気込む。時期は未定としながらも、将来的にはイートインやモバイルオーダーにも対応したいとしている。
説明会の質疑応答では、競合サービスであるUber Eatsへの対抗策や、新型コロナウイルスによる注文数への影響などに質問がおよんだ。
出前館の中村氏は、対抗策について「愚直に安心安全にやっていく。当社の配達員は必ず拠点に朝出社し、体調や身だしなみをチェックする。また、配達員は大事なお店の料理を届けるため、しっかりとした研修を3時間半受けてもらい、この人なら大丈夫という人にだけ任せている」と語り、配達員のクオリティの高さや、日々の衛生面における徹底したチェック体制を優位点として挙げた。
LINEの舛田氏も、「出前館のポータルとシェアデリバリーをハイブリッドにすることで、エリアごとに合ったやりかたにできることが強み。組織として需要に応じて人数も最適化できる。衛生面も会社として責任を持てる、この出前館が20年やってきた誠実さが強み。これをLINEグループと掛け算して引き上げられる。たとえばLINE IDによって、LINEの嗜好性データを使ったパーソナライズもできる」と、LINE×出前館ならではの強みをアピールした。
なお、新型コロナウイルスの影響について中村氏は、「毎週の注文数は非開示だが、2月末から伸びが顕著。店舗からの問い合わせも通常の3〜4倍になっている。できるだけ早く、多くの飲食店に加盟してオープンしてもらえるように、(同社の)人員を増やしている」と説明。
また、東京都の小池都知事は、3月最後の週末である28日と29日に、不要不急な外出を控えるように都民に要請をしており、フードデリバリーのニーズも急増することが予想される。この対応については、「昨年末からCMを放送し、今年に入ってからは新型コロナウイルスの影響でリピート注文が増えているので、配車、人員、システムをすでに増強している」とコメント。加えて、玄関前の“置き配”も選べる非接触デリバリーにも対応していると説明した。
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