ネット宅配クリーニングサービス「Lenet(リネット)」を展開するホワイトプラスが、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)、YJキャピタル、ラクスルの3社を引受先とした第三者割当増資と、みずほ銀行からの融資を合わせ、総額約15 億円の資金調達を実施した。エンジニアの採用やアプリの開発などにあてるほか、プロモーション費用などに活用する。
ホワイトプラスは2009年に設立。「リネットはビジネスモデルを150個くらい挙げた中の一つ。中にはリネットよりも収益が出そうなものもあったが、テクノロジーの知見を生かすだけのビジネスに人生をかけなくてもいい。もうかることよりも世の中を変えるようなビジネスを作り出したかった」とホワイトプラス 代表取締役社長の井下孝之氏は当時を振り返る。
リネットは、ウェブやアプリで注文ができる衣類の宅配クリーニングサービス。インターネットで注文から宅配手配まで完結でき、集配は早朝、深夜対応をしているほか、しみ抜き、毛玉取りといった衣類のケアも通常の料金に含まれる。
「クリーニングの持ち帰りを宅配にしただけではなく、注文からお届けまでを一括サポートしていることが特徴。同様のビジネスモデルを展開している会社はおらず、現在、競合はいない状態」(井下氏)とこの市場で独走を続ける。
その理由は高い参入障壁にある。クリーニングはクレーム産業と呼ばれるほど、運営が難しいビジネスの一つ。その土地に根付いたクリーニング会社も多く、新規参入もしにくい。「クリーニングの現場を体験しながら、どの部分の工程をデジタル化すれば業務効率がよくなり、どこを残すことで、現在の品質を保証できるかを考えていった」(井下氏)と一つずつ積み上げながらビジネスモデルを確立していったという。実際、井下氏自身も起業前にクリーニング店で働いた経験があり、現在も新人教育としてクリーニング工場研修を組み込んでいる。
そこまでクリーニング業界にこだわるのは「ネットが当たり前になった今、次にネットが染み出していく領域でイノベーションが起こる。クリーニングにテクノロジーを取り入れることで、今までとは全く違うクリーニング体験をユーザーに届けられる」(井下氏)と考えたからだ。
実際のビジネスモデル確立には、約2年を費やした。「このビジネスの難しいところは、クリーニングという実業部分とネットやアプリといったデジタル部分の両方があること。例えばウェブサービスであればABテストをしてみて、良い結果を採用できるが、リネットにはABテストという概念自体がない。事前調査をみっちりとやり、クリーニングを手掛ける取引先とお客様の声を聞き取る。言語化できない生の体験を汲み取りながら作る必要がある」とトライアンドエラーを積み重ねる。
衣類につけるタグ1つとっても現場の声、お客様の声を重視する。「衣類にシミがついている場合、シミがついている場所をタグで示し、しみ抜きをして対応していたら、『それでは本当にシミがついていたかどうかわからない』とお客様から声が上がった。そこで、しみ抜き前と後の2つのタグをつけることで、納得していただけた」と改善に努める。
井下氏は「ネットで完結しないビジネスだから難しい。チケットや宿泊予約などネットで完結できるもののネット化はすでに終わっている。これからは、ネットで完結できないものがネット化されていく時代。これは『ネットを起点にしたオペレ-ションの組み換え』。ネットとリアルの両方が絡む生活領域のビジネスは、今後このオペレーションの組み換えが必要」と今後を描く。
今回の資金調達では、アプリの開発に注力する。「通常のオペレーション構築に時間をとられ、アプリの改善が万全ではない状態。しかし、ここにきてアプリのダウンロード数が上がってきており、利用頻度は高い。アプリであれば2ステップでクリーニングを申し込める簡便さが特徴のため、この部分をさらに強化していきたい」。
エンジニアの採用が困難と言われる昨今だが「ホワイトプラスの業務内容を知ってもらえるとかなり引きがあることは事実。社内でもエンジニアとそのほかのスタッフが積極的にやりとりできる環境を作り上げているし、風通しはかなりいいはず」と自信を見せる。
同時に新たな生活領域のサービス開発にも乗り出す。2019年12月には、ハウスクリーニングのマッチングプラットフォーム「kirehapi(キレハピ)」を正式ローンチ 。加えて「例えば花の定期便など、一つのサービスでは収益化が難しくても、クリーニングを届けるタイミングで花も届く、ハウスクリーニングで家がきれいになり、新しい花も飾られるといった組み合わせであれば、成立するビジネスもある。生活を豊かに便利にするサービスを作り上げたい」と新たな展開を模索する。さらに「日本のクリーニング品質は世界でもトップレベル。この品質の高さを武器に宅配クリーニングのビジネスを海外でも展開していけるはず」と海外展開にも興味を示す。
「クリーニングの工程で特に重いのが衣類の検品。どこにシミがあり、ボタンがとれているのかという現状を見極めること。この部分をホワイトプラスで担う『ベース』と呼ばれる検品センターを始めた。ここを私たちで担うことで、新たなクリーニング工場と組むことができた」と独自の取り組みも進める。
リネットではクリーニングや宅配部分は協業相手を迎え、申し込みやアプリといったネット部分を自社で抱えることでサービスを構築する。「今までは、検品センターをクリーニング工場の一部として構えてもらっていたが、検品センターを自社で持つことで、業務提携のハードルが下がる」と提携工場の拡大にも積極的だ。
現在の課題は宅配クリーニングサービスが浸透しきっていないことだ。井下氏は「宅配と聞くと来るまで待たなくては、というネガティブなイメージを持つ人もいる。リネットは、早朝・深夜に1時間単位で時間指定ができるプレミアム便を用意するなど、使いやすいサービスを構築している。すでに10年以上使ってくれているユーザーもいて、一度使ってみると便利さが伝わるはず。その便利さをより多くの人に伝えていきたい」とした。
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