リコー初のクラウドファンディングがスタートした。支援を募るのは、ハンディプロジェクター「RICOH Image Pointer」。一見するとマウスのような片手に収まる小ささで持ち運びができ、ボタンを押すと、スマートフォンと連携し、25~80インチの投影ができる。現在、「GREEN FUNDING」と「Kibidango」の2つのサービスでクラウドファンディングを実施中だ。
生み出したのは、リコーのオフィスプリンティング事業本部に勤める和田雄二氏。社内外からアイデアを募る「RICOH ACCELERATOR 2019」に社内チームとして参加し、社内の110あったアイデアの中から、最終的に選抜された5つの中の1チームで、優秀賞にも選ばれた。
RICOH ACCELERATOR 2019は、スタートアップ企業や社内外の起業家を対象としたプログラム。社内外から同時にアイデアを募っていることが特徴で「日本では珍しい、統合型アクセラレーターと呼んでいる」とリコー 経営企画本部経営企画センター経営戦略部でこのプログラムで事務局を務める大越瑛美氏は説明する。
今回は、社外スタートアップ104社、社内アイデア110チームが参加。2019年10月24日に開かれたピッチコンテストでは、スタートアップ8社、社内5チームの計13が選出され、最終プログラムへと進んだ。これら採択されたチームには、約4カ月のプログラムとして、社内外メンター、リコーグループ各社のリソースなど、各チームに合わせたサポート体制が用意される。
和田氏のハンディプロジェクターは、統合ピッチ前の書類、面談選考の段階でプロトタイプが出来上がっており、その具体性が高く評価。社内のピッチイベントでも社員投票による「オーディエンス賞」などを獲得してきたという。
製品の特徴は、スマートフォン画面とミラーリングして、投影ボタンを押した時だけ投影できるというもの。「普段持ち歩いて、スマホの画面を見せたい時だけ見せられる対面時のコミュニケーションツールとして使ってほしい」と和田氏は説明する。
「プロジェクターはモバイルタイプなども出ているが、据え置きで使うことが前提。それでは投影しっぱなしになってしまって、プライベートなコンテンツも入っているスマホとつなぐと見せたくないものまで見せてしまう可能性がある。それを解決したかった」と和田氏はハンディプロジェクター開発のきっかけを話す。
コンセプトは「スマホの画面をそのまま見せるのでは、画面が小さく味気ない。そんな時にハンディプロジェクターを使ってほしい。テレワークやオンラインミーティングなどが推奨されているが、人と人が集まる場所は絶対になくならない。その集まった場を大切にするためのツール」(和田氏)と明確だ。
プロトタイプの段階だが、投影するにはボタンを押し続ける必要があり、三脚穴なども設けていないシンプルな構造。「投影ボタンについては、社内で相当議論があった。でも私は絶対固定しないと言い続けてきた。その理由は尖った商品でありたいと思ったから。実際にスマホ画面を共有すると、プライベートな写真が表れてしまって隠したくなる時がある。そんな時ボタンから指を離せば、瞬時に画面は消える。このボタンはつけるより消せることに価値がある。これは既存のプロジェクターでは絶対にできないこと」(和田氏)と思いを明かす。
クラウドファンディングに先んじてKibidangoでは「プロジェクトの種」として、製品概要を紹介。活動報告をするほか、コメント欄で興味を持ってくれた人たちと意見交換を続ける。
「Kibidangoを通じて意見交換させていただく中でも、固定ボタンのご要望はいただいている。発売前に市場の声を聞けて参考になる」と和田氏はクラウドファンディングでの意見を聞きながら、「固定モードという選択肢はあるかもしれない」と商品の形を模索する。
開発にあたっては、和田氏を中心に5名のエンジニアが参加した。「全員エンジニアというある意味バランスの悪いチーム。面談と最初の選考までは1人チームとして活動していたが、その後チームを編成するにあたりどうしようかと。普段から付き合いのあるオフィスプリンティング事業本部のメンバーに声をかけた」(和田氏)と話す。
リコーには、業務時間の20%を社内の他の業務にあてられる社内副業制度があり、チームメンバーはその制度を活用。チームリーダーはプログラム期間の4カ月間は100%新規事業に打ち込める体制を整える。和田氏は「当初は既存事業と両立しようと思っていたが、始めてすぐに100%に切り替えた。思っているよりやることが多く、とにかく大変。その程度の覚悟では新しいものはできないと思った。上司の理解もあり、所属はオフィスプリンティング事業本部のまま、ハンディプロジェクターに打ち込ませてもらっている」とのこと。
20%の副業制度を使いハンディプロジェクターのプロジェクトに参加したリコー オフィスプリンティング事業本部SP事業センターNP事業推進室の米田優氏は「既存事業はお客様のことも理解し、エンジニアとしていいものを作るという部分に集中していたが、こちらのプロジェクトでは使う頭が違うという感じ。純粋に技術面だけではなく、どう使うか、これができたら面白くなる、といったことから考える。ただ小さなチームだけに意思伝達が早く、アイデアをすぐに形にできたり、その場で修正を加えられたりするのはエンジニアチームならでは」と感想を話す。
和田氏も「プロトタイプを見た時に電源オンのライトが少し弱いと感じた。チームメンバーに『なんとかして』と頼んだら、次の時には修正されていた。エンジニアばかりなので、とにかく早い」とスピード感を持って開発した現場を振り返る。
RICOH ACCELERATOR 2019ではサポーターとして、さまざまな役職と部署の社員が名を連ねており、各チームはこのリソースの活用が可能。「マイクロソフトのグループチャットウェア『Teams』で社内コミュニティを構築しており、問い合わせに答えられる環境を整えている」(大越氏)と、新規事業を全社を挙げて支援する。
和田氏は「知見や経験が足りないと思った段階で、担当するサポーターに協力をお願いした。そのため、特に困ることもなく、現在のメンバーがベストチームだと思っている」と自信を見せる。米田氏も「全社プログラムなので、チーム同士の交流はかなり盛ん。エンジニアの少ないチームなどもいたので、そういう時は助け合ってできる点も良かった」と続ける。
しかし、「ボディが小さいため、熱処理をどうするのか、排気ファンをとりつけるのかは現時点でも悩んでいる。加えてデザインももう少し練りたい」(和田氏)と課題はまだ残る。
実は現在のプロトタイプで第3世代目。「最初のプロトタイプを部署内の人に見せたところ、評判が悪くて(笑)。ただ、販売チームの人に見せたところ『面白いね』と逆の反応が得られた。少ない人の中で、特定の価値観で評価を得ようとすると意見が偏ってしまうこともある。そこでいろんな人に見せたいと思い、少しずつプロトタイプをバージョンアップしてきた。物があるということは、それだけ思いを伝えられる」と、和田氏は形にすることの重要性を説く。米田氏も「形にしてみないとわからないことがある」とし、今回のプロジェクトで得たものは大きいと話す。
クラウドファンディングの目標金額は1000万円。3万4800円~の支援コースを用意する。始まったばかりのプロジェクトだが、和田氏は「クラウドファンディングはまたぜひやりたい。ハードを販売する事業をやりたいと思っているが、社内でできるチャンスは少ない。クラウドファンディングを実施することで、新しいプロダクトを開発し、販売できる仕組みが確保できる」と今後についても思いを話した。
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