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神戸市が「アフリカ」で起業体験プログラムをする狙い--挑戦したい“日本の若者”に機会を

藤井涼 (編集部) 阿久津良和2020年02月25日 09時00分
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 神戸市は、経済の持続的成長を実現する上で重要となる「神戸でチャレンジしたい若者」を増やすための施策として、米国のシード投資ファンド「500 Startups」と連携したアクセラレータープログラムをはじめ、スタートアップエコシステムの構築に向けた様々な取り組みを積極的に進めてきた。

起業体験プログラム「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」
起業体験プログラム「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」

 その中でも、一際ユニークな取り組みが、2019年から開始した起業体験プログラム「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda (神戸スタートアップアフリカ)」。“アフリカの奇跡”と呼ばれ、IT国家として急成長しているルワンダ共和国に、日本の大学生などを派遣し、ビジネス視察と起業体験をハイブリッドに提供するプログラムだ。

 実は神戸市はIT分野でもルワンダと親交があるが、そもそもなぜ神戸市はルワンダと交流をするようになったのか。また、この起業体験プログラムを通じて、どのようなビジョンを描いているのか。プログラムの担当者である神戸市 医療・新産業本部 新産業課長の多名部重則氏に話を聞いた。

神戸市 医療・新産業本部 新産業部 課長の多名部重則氏
神戸市 医療・新産業本部 新産業課長の多名部重則氏

神戸市には「ルワンダの留学生」が多い

——起業体験プログラムについてお伺いする前に、神戸市がルワンダとIT交流をすることになったきっかけを教えてください。

 ルワンダとの交流は2014年までさかのぼります。当時、ルワンダ大使を務めていた小川和也さんが、2014年10月に久元喜造市長に表敬訪問したことで、私たちはルワンダの状況を知りました。

 具体的には、1994年4月に発生した「ルワンダ虐殺」では、全国民の10〜20%が犠牲になりましたが、その後は国の立て直しに成功して、治安の良いビジネス環境が生まれています。また、東アフリカは汚職が少なくありませんが、ルワンダは綱紀粛正によって汚職がない状況が続いています。

 世界銀行が毎年発行している、Doing Businessレポート(2019年度)によれば、ルワンダは29位で、39位の日本を大きく上回っています。さらに、IT産業の振興や海外投資などによる、急速な経済成長を遂げた「アフリカの奇跡」といった現状を、久元市長に説明されました。

 そして、翌年2015年には、神戸情報大学院大学にアフリカの留学生が多く在籍していることを久元市長が知りました。関心を持って尋ねたところ、当時在籍していた約50人のうちルワンダ出身者が12人と最も多かったんです。

——神戸市にそんなにもアフリカ、その中でもルワンダの留学生がいるのは意外でした。

 その理由を調べてみると、ルワンダのIT産業復興という背景と、同大学が掲げる「課題解決力×ITスキル」の影響が大きかったようです。同大学は教師も民間企業経験者が登壇するため実践的で、おそらくルワンダの方からも、社会課題解決の観点などから選ばれたのでしょう。

 加えて、2013年6月に安倍晋三首相がTICAD(ティカッド: アフリカ開発会議)で提唱した「横浜宣言2013」(アフリカを世界成長の原動力に変容させるため、5年間で3兆2000億円の資金出資などを行う取り組み)も大きかったのでしょう。

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 この中にアフリカの民間企業に勤めている方や官公庁の方々を日本に送り込み、大学院修士課程で2年間学ぶか、日本企業でインターンシップ(就業体験)を経験してアフリカに帰るという人材育成が含まれていました。

 こうした動きもあり、久元市長のルワンダへの関心が一気に高まり、2015年3月に「多名部君、ルワンダに行ってくれませんか」と指示を受け、私は2カ月後の2015年5月に現地視察へ行きました。

ルワンダとシリコンバレーは「同一直線上」にある

——実際に、多名部さんが現地に行かれたんですね。

 ルワンダでは4泊しましたが、正直感動しました。事前情報通りで治安も良く、女性が夜の22〜23時にスマホを持って普通に歩いていました。もう1つ気付いたんですが、国自体が若いんですね。前述のようにルワンダ虐殺の影響で、人口の78%が35歳以下という人口構成(当時)のため、若い方が重要な仕事に従事しています。

 さらに、ルワンダの経済成長率は年6%で推移しています。たとえば、ルワンダでハイヤーを契約すると1日1万円程度ですが、翌年には1万600円、翌々年は1万1500円と物価がどんどん上昇しているんですね。日本では体験できない感覚です。

 2016年4月にはルワンダとの経済交流を施策の1つと定め、日本企業とルワンダ企業の現地交流、あるいはルワンダのビジネスミッションとして、機会に応じて神戸市内の企業とのマッチングをしています。それを3年ほど続ける中で、昨年2019年に学生のルワンダ起業体験プログラムを企画してみては、という意見が出てきました。

 神戸市では2015年4月からスタートアップ育成を積極的に推進する施策を実行しています。たとえば米国の大手ベンチャーキャピタルである500 Startupsを招いたアクセラレータープログラムを開催したり、行政のオープンデータをスタートアップと行政職員が協働する「Urban Innovation KOBE」、さらに2015年8月からは、学生をテクノロジー最先端のシリコンバレーに派遣して、起業家やベンチャーキャピタリストと交流するプログラムにも取り組んできました。

 一方でルワンダは社会課題を多く抱えている国です。たとえば日本国内は街中にATMがあり、銀行口座から手軽に現金を引き下ろし、日銀ネット(日本銀行金融ネットワークシステム)経由で送金も可能です。しかし、アフリカはATMもほとんどなく、日銀ネットもありません。その中でケニアなどで「M-Pesa(エムペサ)」(携帯電話を利用した決済・送金サービス)などが広がってるのは、日本のような社会インフラもなく、稼いだ給料をモバイルマネーに変換して日常の支払いに使っているからです。M-Pesaは必要に迫られて生まれたのでしょう。

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 その他にも、日本では当然なことでも、ルワンダでは不便を強いられる場面は少なくありません。医療水準も日本と比較すると低く、ドローンで血液製剤を運搬する「Zipline(ジップライン)」が成立するのも当然でしょう。我々は現地で借りたランドクルーザーで移動しますが、未舗装の道路で2時間かかる距離をドローンならば10分で届けられます。ルワンダは不便ながらも、テクノロジーを活用して社会課題を解決するビジネス機会が多く、学生が訪れても安心という意味では世界一。私の中では「ルワンダとシリコンバレーは同一直線上」にあり、本プログラムに着手しました。

第1回で見えた課題と第2回への期待

——2019年にプログラムの第1回を開催したそうですが、そのときの成果はいかがでしたか?また、気付きなどがあれば教えてください。

 第1回の前半の1週間はZiplineや英国の医療系スタートアップのオフィス、キガリ虐殺記念館などを訪れるインプット期間。後半の1週間はフィールドワークとして、10数名を複数のチームに分けて、新しいビジネス機会の発見や、ルワンダの課題解決に役立つプロジェクトを考える期間にしました。ただ、学生中心のチームにしすぎたため、課題が多かったように思います。

 たとえば、ある卓球好きの男子学生が、コミュニケーション促進の一環として「卓球バーや卓球カフェを作れないか」と提案しましたが、残念ながらルワンダの人々には刺さりませんでした。そもそも卓球で気分転換をするというニーズがなかったんでしょうね。

 また、流通の課題に挑んだ人もいました。ルワンダの流通システムは未発達で、農家が栽培したバナナを複数の仲介業者を介して都市部の市場に並んでいますが、ある男子学生が取り組んだのは「農家と消費者の直結」でした。首都のキガリは英語が通じるものの、田舎の方はキンヤルワンダ(ルワンダ語)しか話せない方も多いため、通訳を探さなければなりません。苦労した結果、バナナ30キロの買い付けまでは成功しましたが、そこで終わってしまいました。取り組んだ課題の規模が大きすぎたんですね。

 社会人がチームに参加していれば、その辺りの見極めもうまいので、前回以上に社会人を混ぜたチーム編成にすることで、そうした前回の課題を解決できればと思っています。

——その中でも、第1回の取り組みで結果が出たチームはありましたか。

 一番良かったのは「宇宙ビジネス」ですね。ルワンダのポール・カガメ大統領は人工衛星が撮影した画像から農地を観測し、農作物の成長率や収穫率を可視化する取り組み、あるいは遠隔教育や遠隔医療を人工衛星で実現させるという構想を持っています。ルワンダは道路インフラが未整備のため、宇宙からの視点は効果的でしょう。

 しかし、学生たちが仕入れた事前情報によれば、宇宙ビジネスに批判的な国民が少なくないようです。ルワンダ国民にとって宇宙ビジネスは「先進国の贅沢な取り組み」に映るらしく、税金の投資に不満を覚えているとのことでした。そこで学生たちは宇宙ビジネスを啓発するプロジェクトに取り組みました。

 最初に考えたのは、夜の学校や駐車場でプロジェクターに映画を投影する仕組みで、宇宙ビジネスへの理解度をうながす「星空映画館」でしたが、最終的にたどり着いたのは、とある中学校でペットボトルロケットを作って、ロケットの原理を実演するというものでした。日本国内で同様の取り組みをするには、教育委員会や学校側などの調整に多くの時間を要しますが、ルワンダではICT商工会議所の事務局長経由で、中学校の校長先生に許可を取り、翌日には生徒約30名の前でペットボトルロケットの打ち上げに成功しました。

——発想も面白いですし、そのスピード感はルワンダならではですね。では、今回の第2回は、どのような取り組みになるのでしょう。

 第1回は尻切れトンボになることも想定していましたが、今回は参加する社会人が「ルワンダでビジネスしたい」と考えておられるので、後に続く可能性が高いと思います。さらに参加予定のある女子高生は「コーヒーのカスから石けんを作りたい」と話していました。彼女は高い行動力を持ち、神戸の萩原珈琲を紹介したところ、すぐに石けんを作ってしまうような方なので、ルワンダで石けん製造に関する一定以上のニーズがあれば面白くなるでしょう。

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——最後に、神戸市としてこうした活動を通じて、どのようなビションを描いているのか聞かせてください。

 日本は人口減少社会に陥っており、神戸市も2011年をピークに人口は減少してきました。他都市を見ても横浜市は2019年がピーク、東京都も2025年がピークとされています。そんな日本に必要なのは新しいことへの挑戦です。経済が収縮すると挑戦しにくくなりますが、生き残るのは挑戦した企業だけです。その土壌を神戸の街に作りたいという思いから、先鋭的かつ他都市が着目しない活動としてこのプログラムも考えました。

 一般的には大学を卒業したら企業のサラリーマンを選択する方が大半ですが、起業家のように己の能力を信じて、「世の中を変えたい」「自分のアイデアから生まれたものを世界中で使ってほしい」という思いを持った方や企業に選ばれる街を目指したいと思います。また、神戸市で働く方々や学んでいる方々が挑戦しやすい環境を作り、ゆくゆくは成功者が後輩を教えることで、エコシステムが生まれる。その一貫としてルワンダとの交流も始めました。

 我々は「実験都市」を標榜していますが、やはり一般的な自治体の海外交流先として選択するアジアや欧州ではなく、未着手の国に挑戦できるのは面白いでしょう。私たちはこうした活動を支援し続けたいと思っています。

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