丸井グループは2月12日、D2Cエコシステムを支援する新会社「D2C&Co.」の設立を発表した。小売店や広告代理店などの中間業者を介さず、直接顧客との接点を持つD2C(Direct to Consumer)の市場は世界中で急速に拡大を見せている。海外ではすでにユニコーンとなるD2Cブランドも誕生しており、これから日本でも急速に市場が拡大していくと予測される。
そんな中、丸井グループはD2C&Co.を設立することで、多角的にD2Cブランドの支援をしていくと発表した。年間2億人が来店するマルイ店舗や700万人を超えるエポスカード会員、質の高い小売ノウハウを持つ人材など、丸井グループが持つリソースをフル活用して業界の発展を狙う。
D2C&Co.の代表取締役に就任した加藤浩嗣氏は、新会社の事業内容は「投資・融資」「出店支援」「キュレーションサイトの運営」だと話した。丸井グループは2016年からスタートアップを中心に投資活動を行ってきたが、今後よりD2Cにフォーカスし、3年で約30億円を出資する予定だ。
初期費用を投資するだけでなく、運転資金を融資する意味合いも大きい。モノづくり企業はインターネット企業と違い、成長するほどキャッシュフローを回すことが困難になりがちだ。そこで、運転資金も融資することで長期的にフォローしていく予定だという。
出店支援は単純にマルイ店舗のテナントを貸し出すだけでなく、店舗運営に慣れた人材を派遣するなどして、出店のハードルを下げる。店舗の内装や物流も支援するといったオプションも用意しているようだ。
キュレーションサイトはD2Cブランドの世界観を発信することで、顧客獲得に繋げることが狙いだ。個性的なD2Cブランドは、その世界観に顧客が共感してファンになっていく。商品の背景にあるストーリーを展開していくことで、顧客との接点を増やしていくという。
多角的な支援をしていくD2C&Co.だが、単体での収益化が目的ではなく、グループ全体とのシナジーを生み出していきたいという。人気のD2Cブランドに出店してもらうことによる集客力の強化や、決済に丸井のクレジットカードを利用してもらうことによるカード事業とのシナジーも狙っているようだ。
発表会の後半には、丸井グループと協業しているD2Cスタートアップとのトークセッションが開かれた。
登壇したのは丸井グループ代表取締役の青井浩氏、Eコマースプラットフォームを運営するBASE代表取締役社長の鶴岡裕太氏、ビジネスウェアのカスタムオーダーサービスを提供するFABRIC TOKYO代表取締役社長の森雄一郎氏、パーソナライズシャンプー「MEDULLA」を販売するSparty代表取締役社長の深山洋介氏。モデレーターはデザイン・イノベーション・ファームTakramディレクターの佐々木康裕氏が勤めた。スタートアップの3名は、それぞれ丸井グループと協業したメリットについて話した。
鶴岡氏:BASEを創業した当初は、リアル店舗を持っている人がオンラインショップを作るためにBASEを利用していた。しかし、今はBASEで商売を始めて、軌道にのったら店舗を持つケースが増えている。店舗を持つといっても常設ではなく、広告のために一等地に短期間だけ出店したいというニーズが増えていた。
その悩みをマルイさんにお話したところ、渋谷マルイにBASEの店舗を出店させてもらえることになった。BASEを利用している80万ユーザーなら誰でも商品を出店できる。D2Cブランドは小さなチームが多いため、足りない機能を補助してもらえる今回の新会社の誕生はD2Cの流れを大きく変えると思っている。
森氏:FABRIC TOKYOを創業したのは2017年で、まだD2Cの認知度が低く様々なディベロッパーに出店を断られていた。しかし、マルイさんに興味を持ってもらえたおかげ、スムーズに出店することができた。今では計19店舗のうち、7店舗をマルイさんで出店させてもらっている。
また、オンラインだけで展開していた時に比べて顧客獲得コストは数十%下がり、顧客単価は約2.5倍に増えた。オンラインだけで展開していたときは顧客単価が1万5000円~2万円ほどだったが、今では4万5000円~5万円ほど。これから丸井さんと一緒にオンラインとオフラインを繋げて、よりよい顧客体験を作っていきたい。
深山氏:Spartyはパーソナライズシャンプーサービス「MEDULLA」を展開している。オンラインだけでも着実に業績は伸びていたが、お客様のコミュニティが作れていないことに課題を感じ、リアル店舗を持つことを検討していた。
しかし、私達はIT人材ばかりで店舗運営のノウハウがない。それをマルイさんに相談したところ、店頭のスタッフを派遣してもらい一緒に店舗を作ってもらえた。ヒト・モノ・カネ全ての面で支援してもらえたのは本当に助かった。店舗を持てたおかげで、商品を買わないお客様ともゆるい繋がりを作れるようになったので、本当にありがたい。
丸井グループ代表の青井氏は、競合に比べてなぜマルイがスタートアップとオープンイノベーションで協業できているのか、その理由を語った。
青井氏:私達がいち早くオープンイノベーションを始めたのは、小売業界の中で一番最初に窮地に立たされたから。都心では売り場面積の大きい百貨店に負けるし、郊外ではショッピングセンターには勝てない。立地という意味では、駅ビルに遅れをとる。そのため、私達は従来から競合たちと違うゲームをすることを迫られてきた。
売るお店では他の競合に勝てない私たちは、『売らないお店』を目指してきた。D2C&Co.の設立で、今後さらにオープンイノベーションを加速させて、ゲームのルールチェンジを図っていく。これまでにないお店の価値を作り出し、未来の店作りをしていきたい。
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