新規サービスを続出させる三越伊勢丹--新たな顧客関係や価値創出に向けて

別井貴志 (編集部) Emi KAMINO2019年12月23日 13時00分

 2011年4月に日本を代表する老舗百貨店ブランドの2社が合併して生まれた「三越伊勢丹」。百貨店を取り巻くビジネス環境が近年厳しさを増すなか、「最高の顧客体験の提供」を旗印に、従来の百貨店ビジネスモデルからの脱却を目指し、2018年度からデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの開拓に力を注いでいる。現時点までの進捗状況や今後の展開などについて、デジタル事業部 事業企画・管理ディビジョン長の北川竜也氏に聞いた。

 三越伊勢丹 デジタル事業部 事業企画・管理ディビジョン長の北川竜也氏
三越伊勢丹 デジタル事業部 事業企画・管理ディビジョン長の北川竜也氏

 同社は、2018年度から2019年度にかけて、立て続けに複数の新規事業を開始している。まずは2018年6月に「ISETAN DOOR(イセタンドア)」を立ち上げた。オイシックス・ラ・大地と提携した定期宅配サービスで、同社が提供する日常的な食材に加えて、伊勢丹セレクトの幅の広い食材(ディリー品からデパ地下まで)を届けることで、“ちょっといいモノ”を求める食通の消費者に百貨店クオリティの付加価値をもたらす考えだ。全国の子育て中の共働き世帯を中心に支持され、立ち上げから1年半年足らずで会員数は約1万5,000人を超える好調な出だし。

 北川氏は「今後も会員数は順調に伸びていく予測で、最大の効果は定期会員と継続的に月平均3回の顧客接点を持てることが大きく、この定期宅配という事業を通じて、既存の三越伊勢丹の持っているサービスに限らないサービスコンテンツ(現在食材以外の物販の実施、将来的にはコトビジネス)へ拡張することがロイヤリティの高い顧客作りに繋がる」と話す。

 2018年は、このほか富士通との協業でドレスシェアリングサービス「CARITE(カリテ)」を6月にトライアル検証として始め、11月に継続展開を決めた。アプリを使って結婚式や会食などの“晴れの日”の装いを手軽にレンタルできる。

 次に2019年2月には、化粧品のECサイトである「meeco(ミーコ)」をローンチした。シミュレーション機能やビジュアル検索機能を備え、約10,000種類の品揃えで、自分に合う商品が見つかるコスメ専用サイトとしてスタートし、 11月15日からは“プチプラ”と呼ばれるバラエティ(雑貨系)コスメ約1,300種類を中心に展開するmeeco variety(ミーコバラエティ)サイトも立ち上げ、「ラグジュアリーコスメ(meeco)とプチプラコスメ(meeco variety)」が同時に購入できる、今までにない化粧品サイトという点が特徴だ。敷居をあえて下げることで、“デパートは高級”というイメージを払拭し、若年層など従来は接点が薄かった顧客層を取り込むかまえだ。

 そして、2019年3月に三越伊勢丹初のECブランドとして立ち上がった「arm in arm(アーム イン アーム)」は、バイヤーとファッション好きが集うコミュニティ的な場所を提供する。SNSやリアルの場を通じて、ユーザーコミュニケーションを取りながら新商品の開発・販売に結びつけ、「“共感者”として顧客との関係を構築する、次世代の我々と顧客との1つの在り方なのではないかと期待している」と北川氏。2019年9月には、検索キーワードなどのビッグデータを統計化し、それをAIで解析して企画した商品を発売する試みも行われ、「無駄を生まない生産体制で、百貨店クオリティの洋服をリーズナブルな価格で届けられるのも魅力だ」という。

 2019年度は、これまでに5つのサービスがローンチしている。中でもユニークなのは、10月末に始まったワイシャツのオンラインカスタムオーダーサービス「HiTAILOR(ハイ・テーラー)」だ。採寸から生地、デザインの選択、注文までをオンラインだけで完結し、約3週間で商品を届ける。中国のTOZIが開発したAI採寸技術「1 measure(ワン・メジャー)」を採用し、スマートフォンで身体の正面と側面の2枚を撮影して採寸を行い、身長・体重のデータを入力し、三越伊勢丹が保有する過去20万件のオーダーデータと採寸データを組み合わせることでフィッティングの精度を大きく高めた。約90種類の生地や、襟の形やボタン、カフスのデザインの組み合わせで約25万通りのバリエーションを用意し、ワイシャツ1枚が8900円(税別)からという百貨店にしてはリーズナブルな価格設定もポイントにしている。

 この他にも、現役のスタイリストがチャットでカウンセリングし、パーソナライズされた洋服を定期的に届ける「DROBE(ドローブ)」や、相手の住所がわからなくてもSNSやメールでバイヤー厳選のギフトを送れるミレニアルズのためのオンラインギフトブティック「MOO:D MARK BY ISETAN(ムードマーク バイ イセタン)」、三越伊勢丹クオリティの商品を集めた「三越伊勢丹ふるさと納税」、単日・短時間に特化したアルバイト求人情報提供アプリ「ONEDAY WORK(ワンデイワーク)」を展開している。

続々とローンチした「オンラインビジネス」(三越伊勢丹グループ 2019年度第2四半期決算説明会資料より)
続々とローンチした「オンラインビジネス」(三越伊勢丹グループ 2019年度第2四半期決算説明会資料より)

 同社がこれほどまでにデジタル領域の新規事業に取り組む理由について、北川氏は次のように説明した。

 「逆説的な表現になりますが、会社として強みとしているアナログを強化するためにも、アナログ依存から脱却しなければならない状況で、これまでにも百貨店事業をデジタル化する取り組みをいろいろとやってきました。ただ、既存の百貨店事業の枠組みと仕事のやり方の中に無理に新たなデジタル施策を入れてしまうと、どうしても定着せず、一過性の取り組みで終わってしまいがちです。ビジネスモデルそのものやお客様へのリーチの仕方等が現状の百貨店事業を超える、もしくは補完するものでなければ、新しい顧客の獲得や、新しい顧客体験や価値の創出までには至りません。いずれの新規事業でも“三越伊勢丹”のブランド名を前面に強く押し出していないのは、そのためです。特にこれまで課題のあった若年層のお客様へのリーチにおいて、ライトに接触機会を増やし、“百貨店=高級で手が出しづらい”というイメージの壁を取り払う狙いもあります」

 2020年度からは実店舗とオンラインのサービスをシームレスに融合する取り組みがいよいよ本格的にお客様に使って頂ける状態になっていく。もっとも大きな取り組みは、現在は別々に切り離されている三越と伊勢丹のオンラインショッピングサイト、店舗情報サイトの統合だ。それと同時にアプリを刷新して、グループで乱立したアプリの統廃合も進め、最終的にはウェブサイト、アプリの中でも、店舗と同様のショッピング体験、サービス利用ができるような状態を実現していくことを目指しているという。

 さらに、北川氏は、“循環型社会”の実現に向けて、エコや社会貢献といった観点を超え、そこに取り組まないと“ビジネス”そのものが成り立たない、という流れが確実に来ている」と分析。「そこにはいろいろな形があると思いますが、ビジネスを成長させることが、結果的に社会課題の解決につながっていく、そういうビジネスモデルを我々がどう実装できるかが、今後の課題です」と語った。

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