アマゾンの自社物流「Amazon Flex」は誤解されている--ジェフ・ハヤシダ社長インタビュー

 アマゾンジャパンのジェフ・ハヤシダ社長は12月5日、CNET Japanのインタビューに応じ、アマゾンと直接業務委託契約を結ぶ個人宅配ドライバーサービス「Amazon Flex(アマゾンフレックス)」を、2019年4月に日本で正式ローンチした真意を明かした。

アマゾンジャパンのジェフ・ハヤシダ社長
アマゾンジャパンのジェフ・ハヤシダ社長

 Amazon Flexは、スマートフォンと貨物軽車を持つ個人事業主が、アプリで自身のスケジュールに合った時間を選択して、アマゾンの荷物を運ぶサービスだ。米国では2015年から提供されているが、ハヤシダ氏によれば同サービスの日本展開の狙いは、大手運輸業者の値上げといった単純な構造によるものではないという。

ヤマトの値上げは「経営判断として正しい」

——2019年からAmazon Flexを日本でも本格展開しています。米国では2015年から提供していましたが、このタイミングで開始した理由は。

 今回、お話ししたいと思っているのは、Amazon Flexに対する「誤解」があるということです。Flexは、何かに対して対応するためだと、よくメディアで書かれますが、そういうことではないのです。

 労働力不足、再配達の多さなど、ドライバー不足の問題がありますが、アマゾンジャパンとしては「デリバリーパートナーの方の、働き方の制約が多すぎる」ところを考えました。例えば、物量確保のための営業や、時間の制約などですね。物量をある程度運ばなければ収入として魅力がないですし。

「Amazon Flex」
「Amazon Flex」

 ドライバーさんがより働きやすい、自由度の高い働き方を、どういう風にできるかなということを考えた時に、ブロック単位で、自分が稼動できる時間を登録する仕組みを作ったのですね。欧米では、アプリで登録して運ぶ形式ですが、日本では配送資格を持っていて、黒ナンバーで、運転歴があるドライバーさんに、自由度を与えるということで、2〜8時間単位のブロックで提供することにしました。

——2018年冬のテストサービスを含めると1年が経ちましたが、手応えはいかがですか。

 最初は、こういう仕事の仕方を果たして受け入れてくれるのかな、と僕たち自身も懸念ではないですけれど、自信はなかったですね。

 でも、実際に始めてみて、応募してくれる人が来て、オリエンテーションをしてローンチするまで、ドライバーさんの業務上の負荷や、時間のブロックをどのように分ければいいのかなど、どんどん検証していって、今でも答えは出きってはいないのですけど1年が経って、Flexを日本で導入するというのは、ありかなと。

 ドライバーさんのフィードバック、お客様のフィードバックも含めて検証してみて、「もっと進めてみてもいいかな」と考えています。みんなすぐに、宅配料金の値上げのところに繋げたくて、しょうがないみたいだけど(笑)。

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 値上げに繋げるってことは、Flexの場合は、ドライバーさんを安く使えるからって理屈になっていくんですよね。そういう考えはないです。値上げ値上げって、皆さんおっしゃいますけど、僕はヤマトさんを擁護するわけじゃないけれども、ビジネスをやる上で、ドライバーさんの仕事の負担だとか、いろいろ考えた時に、結論から言うと、ヤマトさんの判断は、経営判断として正しいと思っています。

 いま、そういう必然性があるなかで、配送エリアを増やしたり、いろいろきめ細やかなサービスを構築していこうと思うと、配送「料」を横に置いておいても、それを満たすだけの配送「網」というのは、足りていません。

——たまたま宅配料金値上げのタイミングと重なっただけで、自社で配送をすることは自然な流れだったと。

 そうですね。日本のメディアは、時間的偶然をわかりやすい解釈にしてしまって、迷信を作りすぎです。事業を運営するっていうことを本当に考えた時に、そんなに簡単じゃないですよ。逆にそんなに簡単なんだったら、資源と労働力が余っているってことでしょう。いま日本にそんな余裕もゆとりもない。どうやって知恵を使って、組み立てるかということが、重要ですよね。

 いま工夫が欲しいなと思っているのは、たとえば女性。子どもが学校に行ったあと4〜5時間を使って、Amazon Flexで仕事をしていれば、子どもがもっと成長していったら自分の事業を拡大する選択肢になる。そういう意味でも、働く自由度を提供すれば、魅力を持ってもらえるのかな、というのはうちの狙いですよね。

Amazon Flexのサービス内容
Amazon Flexのサービス内容

Amazon Flexは「稼げる?」

——Amazon Flexは地域によっては月額37万~44万円以上の報酬を得られ、「報酬がいい」という声もあるそうですね。

 そう言っていただけるとすごく嬉しいんですけど、僕自身はまだ検証しています。全国へのサービス拡大においては地域別に変わってきますし、連休、曜日、時間帯などでブロックの価値も異なります。またFlexでは、1週間の稼動上限を基本的には50時間、マックスでも60時間として、安全に配慮しているのですが、それで十分に競争力のある月収、年収になるかどうかを逆計算しています。じゃないと続けてもらえないと思うんですよね。

——特別高い報酬を設定しているという認識ではなく、普通に働いて得る対価として、これくらいあるべきだと。

 そうそう、当然、当然です。

——そうすると他の運送会社が安すぎるということでしょうか。

 それは他の経営者に聞いてくれないと(笑)。ただ、一般的には運送、配送の仕事は荷物確保のために営業をするところ、うちにはそれがない。確実に運ばなきゃならない荷物が、常にあるわけですよ。ということは、確実にドライバーが必要なんです。だから、事業予測でドライバーさんを増やすリスクが、ある意味ない。必要な分、必要な人数で運べるから、恵まれていてるのでしょうね。

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——個人のドライバーが荷物を届けることに対して不安に思う消費者もいると思いますが、信頼性についてはいかがですか。

 その質問、よく出るんですよね。じゃあ、タクシーとか電車とか飛行機とかに乗っている運転手の信頼性、確認してますか?

——さすがにそれはないですね(笑)。どちらかというと、Amazon Flexは比較対象として、(料理を個人配達者が届ける)「Uber Eats」をイメージしてしまうのですが。

 ああ、それは違いますね。Amazon Flexで仕事をする人は、来週働くシフトが決まっています。報酬も週払いですし。そうすると、曜日や時間帯で稼動パターンが生まれてくる。ちゃんとした環境を整備すれば、だいたいほぼ同じ時間、場所で配送すると思うんですよね。

 そうすると、ノウハウがたまります。配送の効率を測るテクノロジーとして道具はあるのですが、渋滞や、車を停めにくい時間帯など、ドライバーさんのノウハウっていうのは、絶対に出てくる。ルーチンにして慣れていくドライバーさんは、より効率よく自分のブロックの時間帯を消化するので、彼らにとってもメリットがありますよね。

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 配送の安全がどこから来るのって言ったときに、ドライバーさんの生活に対する安心と自信だと思うんですね。この仕事をして、こういう仕事の仕方をすると、これだけの収入でこういう生活ができる、ということが来月、来年まで見えて、「自分の可能性が分かる」ことが重要なのかなって。

 僕の家にくるAmazon Flexのドライバーは、ここ数カ月同じ人ですね。曜日によって違うって妻は言ってるけど、だいたい同じです。

——確かに、商品を受け取る側も、いつも同じ人が来ていれば個人の宅配パートナーであっても、そこまで不安は感じなくなりそうです。

 ドライバーが見ず知らずの個人だというところでの安全や不安については、本当によく質問されるんですよね。日本の法律で許される限り最大限の確認などはしていますけど、人の悪意を全部防ぐことはできないですよね。

 だけど、たとえばお客様から、態度の問題だとかでフィードバックをいただけば当然検証してドライバーにフィードバックしますし、改善が生まれないのであれば、続けてもらうかどうかを判断せざるを得ないと考えています。

 それと、ここにもう1つ捻りがあるんですが、だから置き配を進めてるんですよ。別にドライバーに会う必要もない。究極的にはお客様の煩わしさを減らすことですよ。(置き配の)全国展開は、3年以内には今よりもはるかに広げていきたいですね。

“実績”は「もうちょっと待って」

——日本におけるAmazon Flexの利用状況はいかがですか。ドライバーの数、配送完了した個数、過去のトラブルなど……こうした実績はアマゾンはほぼ出さないことが多いのですが。

 アマゾンが出さない話は、社長でも出さないですよ(笑)。だけど、隠してるんじゃなくて、まだ、事業実績として話したいレベルじゃないんです。

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 Amazon Flexを運営できているデリバリーステーションの数がまだ少ないし、もう少しデータベースを増やした上で、「こういう風に受け取られている」「こういう風に使われている」ということを、2020年にはちゃんと説明する方向で、約束はできないけど努力はします。

 欧米とはドライバーの登録の仕方が違うから、日本ではこういう風に登録してる、平均どれくらいのブロックの仕事をしている、稼動は何時間が多い、専門でやっている人が何%いるということを、いま整理しているところです。Amazon Flexをさらに拡大して(ドライバーを)リクルートできるような説明をするために、(実績を)発表することは重要だと思っているので、もうちょっと待っててください。

後編に続く

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