飲料事業の売上構成比が80%以上を自動販売機で占めるダイドードリンコは、自動販売機とその運用ノウハウを資産とし、「Smile STAND(スマイルスタンド)」、レンタルアンブレラ、オフィス向け無人コンビニ「600」との提携など、新規事業を次々に開拓している。社内外から常に新しいアイデアを募り、外部のベンチャーとも積極的に連携を進める取り組みは、いつから始まったのか。自動販売機ビジネスに新たなシナジーを生み出そうとする同社の動きについて、経営戦略部長の笠井勝司氏と副部長の小村厚介氏に話を伺った。
――新規事業の担当は2人で行っているのでしょうか。
笠井氏:私も小村もダイドーグループホールディングス(以下ホールディングス)の国内飲料事業ドメインである、ダイドードリンコの経営戦略部に所属しており、当ドメインにかかわる事業の案件はすべて担当しています。ホールディングス側の担当者から、検討を依頼してくる幅広い案件を事業化につながりそうなら迅速に営業部門につなげる。もう少し検討しようというものは我々が担当します。さらに経営戦略部の中に「事業開発グループ」という国内飲料の新規事業を検討するチームがあり、インキュベーターのように動いています。
――2016年3月にスタートした自動販売機とスマートフォンを連携する「スマイルスタンド」のようなアイデアはどこから生まれたのですか。
笠井氏:弊社は自動販売機ネットワークによりモノを運ぶインフラを持つ会社で、それを活用して何かできないかと常々考えてきました。自動販売機を通じて消費者の方に、何か新しいサービスや楽しいものを提供できないかと検討を始め、2012年には若手社員を中心に全社横断でメンバーを集め、自由にアイデアを考える「未来自動販売機プロジェクト」を実施しました。その後、他にもいろいろなアイデアが出てきたことから、外部の意見も聞きつつ、もう一歩進めることになり、2014年にアクセラレーター・プログラムを立ち上げました。ベンチャーを中心にたくさん応募があり、書類選考に残った1つがスマイルスタンドの前身になるアイデアで、それを進化させて形にしました。
現在スマイルスタンドは9万台設置され、期末には10万台越え、28万台近い保有機の4割を占めるようになります。ソラコムのネットワークを利用してオンライン化された自動販売機はつまりIoT機器であり、まずはスマホを使ったさまざまなサービスを拡げています。LINEや楽天ポイントの提供など一定段階は実現できたので、さらに進化させて次のステップを検討しているところです。そのためのアイデアも引き続きたくさんいただいています。たとえば、地域と連携してエリア限定のサービスが提供できないかとか、企業からも閉鎖商圏で何か一緒にやれませんかとか、いろいろな話があります。10万台のIoT機器があるからできることもあり、一部テスト的に行っているものもあります。
――新しいアイデアを積極的に考えようというマインドや文化は以前から社内にあったのでしょうか。
笠井氏:そもそも弊社のルーツである配置薬業を原型として発展誕生した自動販売機は、当時はとても新しい事業で、社内には新しいことをやろうとするマインドが昔からあったと思います。代表取締役社長が高松富也(高はハシゴ)に変わってからより一層明確になり、効率が良くなるだけでは新しいこととは言えないとし、トップメッセージでも「次代に向けたダイナミックなチャレンジ」という言葉で広く浸透させています。
そのチャレンジのアイデア出しを社内では4年ほど前から定期的に実施しています。これもグループ横断で取り組み、面白いものがあれば事業化まで進めています。2015年からスタートした自動販売機で傘を無償で貸し出す「レンタルアンブレラ」は、現場のルート担当者からの意見を元に始めました。
また、自社内だけは考え方が偏るので、普段から広く考えを提案いただくようにしています。各種イベントやビジネスコンテストなどにいろいろ出向いて、我々から「これをやりませんか」と提案することもあります。エリアも限定していませんし、アイデアの斬新さや将来的な拡がりの可能性も含めて協業を進めています。
――新規事業を考えるときには自社の事業ドメインで考えるのですか。
笠井氏:自社ドメインといえばメインは飲料販売ですが、自動販売機を使った自由なアイデアも自社ドメインによる新規事業だと考えています。社内でよく言うのは「自動販売機周辺ビジネス」は毛細血管のように拡がっていて、直販もパートナーの協力会社も含めた資産であり、新規事業はそうした大きなドメインで行うものだと捉えています。
小村氏:ホールディングスには戦略的な投資を検討するチームがあり、主業である自動販売機のサービス向上や、そこに近い関係のあるベンチャーの方たちと一緒に、変化する時代にあわせて常に新しい価値づくりに取り組んできました。自動販売機事業には企業の事業所に向けて行う私たちが「クローズドロケーション」と呼ぶオフィスなどの設置場所では、担当している無人コンビニ「600」は無人物販という点で親和性が高く、LINEペイを立ち上げたキャリアを持つ久保渓氏が社長で、我々が補うべきノウハウを持っていますし、逆にそれ以外は弊社のノウハウを活かしてもらおうとしています。
今の自動販売機はお金を入れて買うところだけが無人で、それ以外は人を介している状況なので、そこに対するノウハウが無人コンビニのラストワンマイルとして必要だと考えています。「600」に我々のノウハウを提供することでシナジーが派生し、ビジネスの基礎ができるのではないかと期待しています。
――協業も含めて、新規事業に取り組む、新しいことに挑戦する時に何が一番重要だと考えますか。
笠井氏:様々なベンチャーの方とお話しする機会があり、出資もしていますが、私が判断する一番の基準は「消費者にとって便利かどうか」で、それに対して「10年後か20年後に大きなものに変わるベースがあると思えるかどうか」です。加えてベンチャーの側の思いの強さや社長の人柄も大事だと考えています。
小村氏:我々のようなそれなりに歴史も規模も大きい会社が新規に何かやる場合、必要なノウハウを我々が持っていて大きなコアになれるのかが大事です。そのために新しく勉強して強化することを常に続けていかなければなりません。ベンチャー企業といきなり組んで、そう簡単に何もかもうまくいくはずはなく、お互い何が提供できて、どう進化できるかをともに考えなければ話が進みません。
――一般的に新規事業を進めるうえで、しばしば社内から「それ、うちでやる必要あるの?」と言われるケースがあると思うのですが……。
笠井氏:無いといえば嘘になります。事業計画はビジネスである限り当然策定する必要はありますが、将来拡大する可能性であったり、少しだけ内容をひねると変わったりするので、そこまでは見ましょうというのはあって、縛られているわけではありません。とはいえ、難しいところです。ベンチャーはスピードを求めますが企業体には企業なりのスピードがあり、その速度感の違いもありますので。
――これから数年先の未来に、自動販売機や自動販売機ネットワークはどのように変わると想像されていますか。
笠井氏:都心部ではもっと新しいサービスステーション的なものになるのではないかとイメージしていて、無人コンビニ「600」はそうしたモデルの1つだと考えています。現在進んでいるキャッシュレス化の波にも関わるので、それも含めて大きなチャンスだと捉えています。
小村氏:将来ビジョンで言えば、個人的には自動販売機そのものが動いたらおもしろいし、たとえばドローンが飛んできてぱっとものを届けてくれるようになったらいいなと考えています。その時に弊社から、買いやすさやアプローチのしやすさ、事業インフラとして必要なネットワークの構築を並行して提案することもできますし、何も突飛なことではないと思っています。
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