ソフトバンクグループは11月6日、2020年度3月期第2四半期の決算を発表した。売上高は前年同期と横ばいの4兆6517億円、営業損益は1555億円と、前期から一転して15年ぶりの営業赤字へと転落している。
その理由は、前期まで利益拡大に貢献していたソフトバンク・ビジョン・ファンドによる、出資企業の企業価値が大きく落ち込んだため。出資先であるUberなど上場した企業の評価損に加え、WeWorkが上場を目前にして問題が多発し、経営危機にまで陥ったことが大きく影響している。
実際、WeWorkに関する損失は、ソフトバンクグループが47億ドル(約5100億円)、ソフトバンク・ビジョン・ファンド投資分が34億ドル(約4000億円)に達している。そのため同社の代表取締役会長 兼 社長である孫正義氏は、同日に実施された決算会見の冒頭で、「ボロボロ、真っ赤っ赤の大赤字。まさに大嵐といった状況だ」と業績について語る。
その一方で、孫氏は「2つの事実がある」とも説明。1つ目は、アリババ・グループ・ホールディングの株価増などにより、株主価値が1.4兆円増えていること。孫氏はソフトバンクグループが投資会社となって以降、株主価値を重要な指標としていることから、株主価値という視点で見ればソフトバンク・ビジョン・ファンドの損失が与える影響は「株主価値全体の1%程度」(孫氏)だとしている。
そしてもう1つは、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの累計投資の成果として利益を出していることだ。投資した企業のうち37社が企業価値を向上させ1.8兆円の利益を生み出した一方、22社が評価を落として6000億円の損失を出しており、結果としては1.2兆円の投資利益を出しているとのことだ。
そのため孫氏は、「金額でいえば3対1で、むしろ価値を増やしている会社の方が大きい」と話し、世界のベンチャーキャピタルの平均より高いIRR(内部収益率)を出していると説明。投資ファンドとしては大きな成果を出していると強調した。
では、ソフトバンクグループは大きな損失を出す要因となったWeWorkに対して、なぜ新たな投資を実施し、再建の手助けをしたのか。その理由について孫氏は、「救済ではなく、投資した株式の価値が高すぎたことを反省し、株価をもう少し安く仕入れた形に洗い替えしたかった」ためと説明する。
孫氏によると、WeWorkには2020年4月に新たに1株あたり110ドルで15億ドル(約1600億円)の追加出資をする契約になっていたという。そこで今回の騒動を受け、これを2019年10月に前倒し、なおかつ1株あたり11.6ドルと、10分の1近い水準に下げるよう交渉。さらに信用枠を与える対価として17%の株式を追加取得するなどの交渉をしたことで、実質的な取得単価を下げるとともに、ソフトバンクグループの持ち株比率も12.8%から41.2%に上昇したという。
しかし、WeWorkに関する一連の問題は、創業者であるアダム・ニューマン氏の独善的な企業統治が大きく影響していた。そこでソフトバンクグループは、米通信子会社Sprintの再建にも貢献したマルセロ・クラウレ氏を同社の会長にするとともに、取締役10人のうち、5人をソフトバンクグループとソフトバンク・ビジョン・ファンドで押さえることによって、企業統治を改善するとともに再建を進めるとしている。
その具体的な策は、オフィスビルの数を増やすのを一時的に止めることだという。WeWorkはビル数を急速に増やしたことで、その4割が赤字となるなど先行投資がかさんでいた一方、ビル建設後13カ月以上経つと高い稼働率を実現し、利益が出ることが見えたという。
そこで、ビルの新規開発を一時的に止め、既存のビル開発と運営に専念して経費を抑えることで、その後は時間が経てば利益が拡大し、業績を改善できると説明。WeWorkに関して「プロダクトが悪いという批判はほとんど聞こえてこない」(孫氏)と評価しており、その再建にも自信を示した。
ただし、一連の問題で投資会社としてのソフトバンクグループの信頼が揺らいだことは確かだ。孫氏は、アダム・ニューマン氏に対する評価について「彼のいい部分を見過ぎてしまった。マイナス面もたくさんあったと思うが、多くは目をつぶってしまった」と反省の弁を述べるとともに、ソフトバンクグループとしての投資基準を改めて説明。「投資先はあくまで独立採算。彼らが赤字になったからといって休止するような投資はしない」と話し、WeWorkのような措置は今後実施しないとしている。
さらに孫氏は、約20年前のインターネットバブルで大きな損失を出した過去を振り返り、「当時も現在と同じように『ビジネスモデルが成り立っていない会社を高値掴みしている』と言われたが、今や世界トップ10のうち7社がインターネット企業で、トラフィックも伸び続けている」と説明。
それだけに、AI関連企業の価値も今後、インターネット企業と同様に大きく成長すると話し、「AI革命はまだ始まったばかり。体制に異常なし」と、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの2号ファンド設立や、さらなるAI関連企業への投資に一層の意欲を見せた。
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