「香港問題」で揺れるアップルとNBAの類似点 - (page 2)

 このMorey氏のツイートに対して、中国バスケットボール界を代表する人物といっていい姚明(Yao Ming)氏を引っ張り出してきて、中国政府がNBAに圧力をかけた(あるいは姚明氏のほうから自主的にそうした)。姚明氏はかつてロケッツで活躍したスーパースター選手(名誉殿堂入り)で、なおかつ現在はCBA(中国プロバスケットボール・リーグ)全体の責任者である。あるいは、2008年の北京五輪の時に中国選手団の旗手を務めていた大柄な男性といったほうが話の通りがいいかもしれない。またNBAゲームのネット放映権をもつTencentがロケッツの試合中継を拒否した。そこまでは、もう四半世紀ほどNBAを見てきている筆者にとってさほど意外なことではなかった。

 「そこまでやるんだなぁ」と私が驚いたのは、事件発生の翌週に開催された(ロケッツとは直接関係のない)LAレイカーズ対ブルックリン・ネッツ戦という「特別な意味」を持つ試合に関して、中国中央テレビ(CCTV、日本のNHKに相当)が中継を取りやめた、というところ。「特別な意味」というのは、2019年夏にネッツのオーナーが阿里巴巴(アリババ)のナンバー2であるJoseph Tsai氏に変わったところだった、つまり本拠地のアリーナ(バークレーズ・センター)込みとはいえ、推定34億ドルも払ってネッツを買ったTsai氏への一種の御礼として、NBA側が組んだカードだったということだ。

 Morey氏個人の「失言」により、NBA全体が連帯責任を取らされた格好といえよう。

 今回の件で歯切れの悪い対応をして、あるいは対中国向けと米国内向けに異なる内容の声明を発表するなどして、いっきに株を下げた感のあるAdam Silver氏(NBAコミッショナー)は、先週登場したTIME主催のカンファレンスで、「この件で生じた損失がすでに相当な額に上っている」と発言。また「中国政府からNBAに対して、Morey氏のロケッツGM解任を求める要求があった」などと語っていた。

 さらに、後者の発言についてはその直後に中国外務省が「そんなことはしていない」という否定の声明を出し、さらにこの週末にはSilver氏個人を標的にして「虚をつくなら報復に直面するだろう」との趣旨の、ある種の脅しともとれるコメントがCCTVで流されていたという。

 いま80億ドルくらいあるNBAの年間売上高のうち、中国関連のものがどの程度を占めているか?具体的な数字はわからないが、それでもNikeやAdidasをはじめとするスポンサー企業の分まで含めれば、相当額に上ることは間違いないだろう。

 「自由のために戦おう、香港を支持する」(Fight For Freedom、Stand With Hong Kong)というMorey氏のツイート自体は、表現・言論の自由が憲法で保証された(少なくとも建前上はそれが良しとされている)「自由の国」アメリカの一市民の発言としては極めて当たり前のものだろう。ただ、香港の抗議デモが(新彊ウィグルの場合と同様の)「一部の分離主義者が先導する動き」という捉え方をする共産党政府には当然通用しない。

 このあたりについて触れたBen Thompson氏(テクノロジーブログ「Stratechery」の運営者)は「中国に関する文化的衝突」と題した記事のなかで、Appleに対して、膨大な余剰資金があるいまのうちに中国に代わり得る(サプライチェーンの)代替選択肢を急いでつくったほうがいい、などと記している。

 今回の香港をめぐる問題では、中国政府からAppleに対して、「App Storeからのアプリ削除」とは比べ物にならないほどひどい圧力がかかった可能性なども思い浮かぶ。「比べ物にならないほどひどい」というのは、たとえば香港の警察を追跡する「HKmap.live」アプリをダウンロードしたユーザーの身元を特定できる個人情報(端末の電話番号など)をひそかに引き渡すよう求めるなどといったことだ。

 Appleだから、これまでの経緯を考えれば「そんなことはしない」だろうと思いたいところだが、Googleが例の「Dragonfly」計画でそれに近い条件を飲んででも中国市場に再参入しようと目論んでいたことはさほど昔のことでもない……。

 そんな立場にならないことを誰しも祈りたいところだが、はてして具体的な選択肢はどれほどあるのだろうか。

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