宮崎県日南市は、ここ数年日本各地の自治体から注目を集めている地方都市だ。地域資源である飫肥杉を世界にアピールするためクラウドファンディングを実施したり、シャッター街と化していた油津商店街にIT企業を誘致し生まれ変わらせたり、と常に先進的な取り組みを続ける。
再生を率いたのは、2013年に日南市長に就任した崎(漢字は立つ崎)田恭平氏。就任当時は33歳(現在は40歳)の若さで、日南市長としては過去最年少。「失敗しても果敢に取り組んでいく」という崎田氏は、日南市を数年でどうやってここまで復活させたのか。そして、日南市は次にどんなことに取り組んでいくのかについて聞いた。
――現在、多くの自治体から注目を集めている日南市ですが、市長に就任された当時の印象は。
日南市には海岸、城下町、飫肥杉と地域資源は潤沢にそろっていますし、住み、働いている人の潜在能力も高い。しかしそれらを活かしきれていないなと感じました。役所、観光、商店街とそれぞれセクションごとにがんばってはいるのですが、横串が刺さっていない状態でした。
油津商店街は、1970~1980年代は人通りも多い、町のメインストリートでしたが、店舗が少しずつ減り凋落していった。当時は「猫も歩かない」という形容もあったほどです。これではいけないと誘致を繰り返しましたが、補助金がなくなると撤退してしまう。この状態が続いていました。
――どんなところから着手されたんですか。
実は、私が市長に就任した時に「会社を辞めて、一緒に働いてほしい」と口説き落とした人がいまして。それが、日南市のマーケティング専門官 ローカルベンチャーコーディネーターをしている田鹿(田鹿倫基氏)です。元々民間企業に勤めていた彼に民間企業と私たちの通訳的役割をしてもらいました。私は宮崎県庁の職員から市長になったので、民間視点で物事を見られる人が必要だったのです。油津商店街に関しては、さらに地域再生請負人として木藤亮太さんというスペシャリストに公募によりきていただき、取り組んでもらいました。
――人材をそろえるところからはじめたと。
そうですね。ただ、商店街を実際に歩いていただくとわかりますが、現在も決して人通りが多いわけではないんです。でも、シャッターは降りていない。どういうことかというと、商店以外を商店街に誘致しているからなんです。現在、油津商店街には11社のIT企業が入居しており、加えて、飲食店やゲストハウスなどがあります。7月には角地に多拠点居住のコリビングサービスである「ADDress日南」もオープンしました。
IT企業は従業員が定着しないという課題がありましたが、日南市に誘致することで、従業員を確保できます。商店街は店舗だけではだめで、消費する人が同時にいてくれる場作りが必要です。空き店舗にIT企業が入居することによって、人が増え、飲食店などにも活気が出てきました。商店街には商店と思いがちですが、インターネットが普及した今、商品力ではECサイトに勝てません。現代の商店街は、働く場所や子育てできる場所を併設することで、滞在人口を増やし、その結果、飲食店や商店が潤うという仕組みづくりが必要だったんです。
――商店街にIT企業を入居させる発想がすごいですね。
ここまでくるには大変でした。泣かず飛ばすだったこともありますし、行政は何かやったら成功しなければならないというプレッシャーも大きいです。ただ、失敗しても果敢に取り組んでいくことは大事だと思っていて、それができる理由があるんです。
それは行政予算を使わないこと。予算を使わず、シェアリングエコノミーの発想でリソースを街なかや地域に求めるんです。そうすれば、失敗しても「無駄遣い」にはなりません。ただ、潤沢な資金が集まるわけではありませんから、常にスモールスタートでいくことを意識しています。
このやり方にはほかにもメリットがあります。資金やリソースを周りの人から集めている分、みなさん「自分ごと」として取り組んでくれます。それだけ真剣味も増しますし、アイデアも出てくる。行政で何かを始めようとすると「予算をつけて」と言いがちですが、やり方一つで変えられます。
IT企業の誘致は現在も取り組んでいますが、油津商店街にはすでに多くの入居企業がいますので、最近は飫肥まで拠点を広げるなど、新たな展開も見せています。
――新たな町づくりが進む一方で、よそからの入居を快く思わない人もいるのではないでしょうか。
油津商店街についてはそのフェーズは過ぎたと見ています。元々、開放的な人が多く、日南の人は新しい人や物も柔軟に受ける入れる潜在能力が高いと思っています。新たな取り組みができたのも、地域性による部分が大きいですね。
もちろん中には反対される方もいらっしゃいましたが、そういう人とはきちんと話し、理解してもらうことが大事だと思っています。実際に話しをすることで、納得していただけたこともあります。町づくりは仲間を見つけ、理解者を増やしていくことなのです。
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