固定の住居を持たず、全国にある拠点を移りながら暮らす「アドレスホッパー」。そんな新しい暮らし方を実践する人向けにサービスを展開しているのが、コリビングサービスの「ADDress」だ。
しかし、住民票は?荷物は?通販での買い物は?と謎は多い。4月から優先会員向けに開始されたADDressを使い、約半年間に渡り、アドレスホッパー生活を続けている、細川哲星さんと西野誠さんに、現在の暮らしぶりを聞いた。
細川さんは、体験型観光のウェブサービス「TABICA(たびか)」を手掛ける関係で、元々住まいのある東京にいたのは月の半分程度。「東京の家がもったいない」と思ったのが、アドレスホッパーになったきっかけだったという。一方、西野氏は5月に会社勤めを辞め、デンタルスタートアップ「自宅で歯並び矯正 Oh my teeth」の起業に携わっている。パソコン1つあればどこでも仕事ができるエンジニアという職業柄、「好きなところで仕事ができたら楽しい」と考え、ADDressに登録した。
2人は住んでいた自宅を解約し、現在はADDressの拠点だけで暮らしている。拠点先で知り合って意気投合し、取材時は、九州の拠点を渡り歩いている最中だった。荷物はバックパック1つというコンパクトさで、「最小限で好きなものだけを持っている状態」(細川氏)だという。
細川氏は「物が減ったことがADDressを使い始めて感じたこと。今までは使っていないものがたくさんあった」と話す。今すぐに使わない冬服などは、年間契約ができる固定ベッドのある拠点のスペースに置いているほか、レンタルスペースなどを活用している。
西野氏も固定ベットのあるスペースに荷物を保管。固定ベットのある拠点は住民票の登録もできるため、郵便物や宅配便などはそこに届く仕組みだ。「郵便物が届くと『家守り(やもり、拠点の管理者)』が、写真を撮って送ってくれる」(細川氏)こともあるという。
元々旅が多い暮らしをしていた2人だが、旅行と拠点を移り変わる現在の暮らしは大きく異なる。「旅行が好きで、好きなところに旅する感覚でADDressを始めたが、いい意味で裏切られた。旅行は確かに楽しいが、旅先の人との関係性はその場限りになってしまいがち。しかしADDressでは、より濃いつながりができ『また今後会いましょう』が実現する」(西野氏)と話す。
そこまで、地元に密着して暮らせるのは家守りの存在が大きい。管理者である家守りは、ADDressに暮らす人と、地元の人の交流を促すハブ的存在。「家守りがいるおかげで、地元の人を紹介してもらえる。初対面でいきなり知り合いになるのは難しいが、家守りを介することで、信頼してもらいやすい。エンジニアという職業を家守りが地元の人に紹介してくれ、地元の人から、パソコンを教えてほしいと言われ、そのお礼にお酒をごちそうになったこともある」(西野氏)など、思わぬ出会いもあったという。
もちろん、"同居”する人同士の交流も活発だ。「知り合いが滞在していることもあるし、家守りと食事にいくこともある。実はこの前にいた拠点では、ベッドがいっぱいで利用できなかったが、家守りと一緒に夜ごはんだけたべてきた」(細川氏)と、密な付き合いを続ける。
関東に固定ベッドを確保しながら、ADDres拠点を移り変わる2人。ADDressでは、1拠点における最大使用日数を7日間に限定しており、「固定ベッドに帰るのは、月の3分の1程度」(細川氏)と、拠点を渡り歩く暮らしを楽しむ。
「仕事が忙しい時は、外に遊びに行ってしまわないようにリゾート地に近い場所は避けている」(西野氏)、「集中して仕事をしたいときは、静かな環境の田舎の拠点を選んでいる。逆に打ち合わせが続くときは、首都圏にいるようにしている」(細川氏)と、状況に応じて拠点を使い分ける。
会社員として働く細川氏だが、「社内はリモートワーク体制が整っているなど、出社義務がないため、アドレスホッパーになると伝えて、会社側からの了承を得ている。当初は周りの人から『大丈夫なの』と言われたりしたが、今までと変わらない働き方ができている」とのこと。一方、西野氏は「打ち合わせなどはオンライン会議などで対応しているため、仕事に支障はない。それ以上にADDressで暮らす楽しさのほうが大きい」と、ADDressでの暮らしを満喫する。
困ることはないのだろうか。「料理をするのが難しい。拠点に冷蔵庫や調理器具はあるが、スーパーで食材を大量に買ってみたいなことはしづらい」と細川氏。西野氏は「拠点はどんどん増えているが、交通費が意外とかかるという印象。ただ家賃などは確実に減っている。拠点がさらに増えれば、より効率よく移動できるようになり、その時を楽しみにしている」とした。
西野氏は「ADDressの拠点で暮らしていると、その場所にまた行けて、地元の人にまた会える。旅行は次にいつ来られるかわからないため、欲張りなスケジュールになりがちだが、またここにくればいいだけ。本当に自分の家だなと思える」と話し、移り変わる暮らし方を最大限に楽しんでいた。
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