9月12日に突如発表された、ヤフーによるファッションEC「ZOZOTOWN」を手がけるZOZOの買収について、創業者であり前代表取締役社長兼CEOの前澤友作氏、新代表取締役社長兼CEOの澤田宏太郎氏、ヤフー代表取締役社長の川邊健太郎氏が登壇。経緯を説明した。ヤフーでは、TOBを実施。ZOZOの株式50.1%を約4000億円で取得することで、ヤフーの傘下に入ることになる。
ZOZOとヤフーのシナジーについて、川邊氏が説明。「今までのヤフーは広告事業がメインだったが、それ以外にEC事業を大きな柱にしていきたい。キードライバーにしていくと表明した。この戦略に則った形で、ZOZOとの資本業務提携契約に至った」という。また、ZOZOとの提携メリットとして、30−40代(男女比6:4)がメインユーザーのヤフーと、20−30代(男女比3:7)のZOZOが提携することで、補完関係にあると説明。相互送客を実現することで、両社の取扱高・利益が”爆増”すると強調。直近では、ヤフーが展開予定のECサービス「PayPayモール」へのZOZOTOWN出店を計画している。これにより、2020年代前半での国内EC No.1が「射程圏内に入ってきた」と興奮気味に語った。
また、前澤氏は「最後の最後で大きな決断ができたことを大変嬉しく思うのと同時に、ZOZOの成長を心から祈る」との言葉とともに登壇。ヤフーとの提携について「お互いの弱点を伸ばせるような、結婚のような提携」と評価。提携を決めた理由として、「トップダウン・ワンマン経営だとの指摘があるが、自分自身もそう思うことがあった。21年間自分の好きなことを突き詰めてやっていたら、気づいたら社長になっていた。多くのお客さまと多くの取引先さま、多くの株主に支援してもらえた21年間、夢のような時間を過ごすことができた」としつつ、「ここにきてZOZOにいくつか課題が出てきた。これからさらに成長していく上で、ファッション好きだけでなくあらゆる人に服を届けないといけない局面に来た」と語る。
「僕自身の経営手法は感性をメインとしていた。時代の雰囲気や香りを直感的に感じ取った経営手法を取っていた。そのため、読み違えたり、調子が悪いときにいくつか失敗したこともあった」とし、「澤田新社長は感性的なものとは間逆な手法。データや繰り返し行われるテスト、機械的でロジカルな経営戦略手法を得意としている。感性的な面は、現場のスタッフが助けていくことになる。チームワークや総合力がZOZOに問われると思う」と説明。前澤氏は、「チームワーク、総合力を自分自身は生かしきれなかった。ワンマンなので、現場の権限や裁量を十分に与えられなかったこともあった。ZOZOは経営の考え方や抜本的に変えないといけないタイミングだった。ヤフーとの提携、澤田社長でのスタートが切れることを期待している」と、会社としての潮目だったと語る。
真逆の経営手法となることで、“つまらない会社”になるのではとの意見も聞こえてきそうだが、澤田氏はそれを否定。「我々はただのつまらない大人になるつもりは毛頭ない。やんちゃな大人であり続けたい」と宣言。「私が経営者として前澤から学んだことはいろいろあるが、今の時代、非常識、非合理と言われることにトライしないとなかなか成功しない。私は、前澤とビジネスを進めることで何度もその状況を目の当たりにした。これは私の貴重な経験であり、経営者としての私の財産。これを会社に伝えていくことも私の大きな使命」とし、「やんちゃな大人の張本人である、類まれなセンスの持ち主である前澤を失うのは、言葉に出来ないほど会社としてはインパクトがあるが、幸い、突拍子もないアイデアを持つ社員がZOZOにはたくさんいる。そのアイデアの種や精神を経営者として大切にしながら事業を邁進していきたい」と述べた。
続けて、「ハッキリいいます。今後のZOZOは、トップダウン経営から、社員一人ひとりの力を生かし、組織の力を活かす経営に変わる」と力強く宣言した。
前澤氏は、今後について「僕自身多趣味で、ZOZO以外にもいろいろやっている。宇宙に行きたいと発表しているが、具体的には2023年に月への渡航を計画している」「宇宙にどうしても行きたいので、そのためのトレーニングなどに時間を割くことが多くなる」としたほか、「もう一回、事業がやりたい。自宅の6畳間で創業し、家中CDやレコード、洋服であふれる時期もあった。事業を作った体験、あのときの感動をもう一度味わいたい」としており、ZOZOの会社としての潮目以外にも、宇宙と新事業という夢を成し遂げるための一面も背景にあるという。なお、月への渡航前に一度宇宙に行く予定があるとしており、2回宇宙へ飛び立つことも公表した。
また、辞任を決めた際の心境として同氏は、「悩みまくった。一部で『無責任ではないか』『放り投げているのでは』とネットなどで書かれているが、地位や権力に甘んじて、本当に大事な事業の拡大や会社の成長を見過ごして保守的に回る方が無責任な経営と思っている」と主張。「ヤフーとの事業提携は(ZOZOが今後も成長する上で)素晴らしいきっかけになる。それに合わせて、私のワンマンというか自己都合というか、トップダウン経営から、もっと現場の人間が裁量を持ち、まるで自分が社長であるかのように振る舞えるチーム力、総合力のある会社にならないといけない」「後継者の澤田に委ねて、更に成長していく。苦渋の決断だったが、退くことにした」と説明。
加えて、「よく経営者は孤独だと言われるが、素晴らしい社員がいて、ずっと孤独じゃないと思っていたが、最後の最後になって、この決断を一人悩みまくった。経営者って最後の最後で孤独だと気づいた」と、決断までの想いを吐露。社員へのメッセージを伝えようとしたときには、涙を浮かべながら言葉に詰まる場面もあった。なお、家族や恋人である剛力彩芽さんにも辞任の相談は一切しなかったという。
記者会見では、スペシャルゲストとして、ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏が登場。前澤氏は、孫氏を最も尊敬する経営者として慕っており、ヤフーとの提携の大きなきっかけになった人物だと紹介した。
孫氏は、「経営者としても一人の男としても大好きな前澤君から相談が来た。聞いたら、新しい人生をもう一度過ごしたいという話だった。いろいろな話を聞いているうちに、ヤフーとZOZOで提携してやってみるかという話を二人でした」と経緯を説明。前澤氏も、「人生をもっとロックに生きたいという相談をしたら、ヤフーの川邊氏を紹介するから話してみて」と孫氏から紹介を受けたという。もともと、ヤフーとZOZOではさまざまな提携を進めていたが、どうすればより盛り上がるか、改めてテーブルの席を設けることで提携の話が進んだ。
しかし、孫氏は当初、文化の違う会社が2つ一緒になることから、当面は前澤氏が社長を継続したほうがいいとアドバイスしている。それに対し前澤氏は、自身の直感を信じ、「ここで変に数年居座ってもいいことはない。ここで潔くバトンを渡して、キレイに辞任するのがZOZOにとってもお客さま、取引先、株主にとっても大事だと判断した」と断ったようだ。退任を決断したのは9月に入ってからだったという。ほんの2週間前の出来事だ。また、孫氏は前澤氏の人間性についても、「僕も彼も創業者だけど、生き様がかっこいい。自由奔放で、Twitterを見てても言いたい放題。僕はあれほど自由にはかけなかった。会社を始める前、(前澤氏は)ロックバンドをやっていたけど、結局未だにロッカーだよね」と評価した。
なお、ソフトバンクグループ傘下にあるソフトバンクの子会社であるヤフーが、上場を維持しながらZOZOを買収することに対し、「最近親子上場とか孫上場などいろいろ批判も多く、ソフトバンクグループのソフトバンクK.K.の子会社のヤフージャパンの下にZOZOが来るとはなんだとさらに批判が出そうだが、川邊社長には、俺は口出ししない。いろいろ言うと忖度経営とか親子上場とかまた言われる。おまえたちの好きにやってくれ」と指示したという。孫氏は、前澤氏とこれからも友人関係として付き合っていきたいと述べた。
ちなみに、21年間でもっとも”ゾゾッ”とした瞬間について聞かれた前澤氏は、「一時期、ECサイトのプログラミングやデータベースなどを自分でやっていた。データベースサーバーのアップデート作業中にクラッシュして、顧客や商品情報、今までの注文情報など、いちばん大事なデータを失いかけたことがあった」とし、「なんと自動バックアップが前日深夜にかかっていて、スレスレでここに座っている」と、エピソードを披露した。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」