日本の“匠の技”を踏襲した工場AIを開発--タイ市場に挑むスカイディスク

 ここ1年ほど、タイのAIベンダーは盛り上がりを見せている。中でも、日本からの製造業AIのスタートアップの参入が注目を集めている。日本の“匠の技術”を踏襲した、世界にも類をみない独自のAI技術は、欧米のAI技術者たちにとってもユニークな存在であり、求人に応募するリクルーターもあとを絶たないようだ。

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スカイディスク 海外戦略室長の末永善彦氏

 世界でも注目度の高い日本のAI技術、特に製造業のAIにフォーカスした日本のスタートアップであるスカイディスクの海外戦略室長を務める末永善彦氏に、バンコクで開かれた国際テクノロジー展「Techsauce」の会場で話を聞いた。

“匠の技”を踏襲した工場AIを開発

 スカイディスクのTechsauceへの出展は今回が初めて。ブースにはひっきりなしに現地のエンジニアなどが訪れ、タイでのAI技術への関心の高さを伺わせた。末永氏は「タイは日本から大体2年ほどゆっくりした速度でビジネスのトレンドが訪れる印象。2019年以降、タイではAIベンダーが加速度的に進化すると踏んでおり、我々はその流れの本流になると確信している」と話す。

 クライアントとスカイディスクの技術者は、基本的に協業でAIを開発している。コンサルティングの内容と、工場のデータの分析結果を鑑み、AI構築のサービスに反映するというフローが組まれているのだ。スカイディスクの強みは、日本で過去に積まれた自動車メーカーなどとの実績を、タイの工場のAI構築に踏襲できることにある。多種多様な実績の中から、クライアントのオーダーの近似値を選び、一旦半パッケージ化したのちに個別最適化を図れることが特徴だ。

タイの国際テクノロジー展「Tecsouce」
タイの国際テクノロジー展「Techsauce」

 「世界中にAIベンダーはあるが、製造業に特化した企業はことのほか少ない」と末永氏。クライアントといわば二人三脚の関係性を保ち、現場と連携しているAI事業者は非常にまれだという。「下町ロケット」のような町工場でも高い技術を保ち、それを誇るような“匠の技”への畏敬の念は、AI開発の世界において特殊であり、日本人特有の思想だという。

 末永氏はこの日本独自の思想こそ、欧米との差別化を図り、またアジア圏というフィールドのタイでAI技術が花開く礎になると確信を持っているという。“タイランド4.0”が目指す未来に向かって、タイ人とともに幸せなビジョンを切り開いていかんとばかりに、意欲的にビジネスを展開中だ。

Ph.D(博士号)を持った技術者が9名在籍

 スカイディスクには、Ph.D(博士号)を有している技術者が9名在籍しており、その中には物理学や数学の博士号を所有している人も含まれている。冒頭でご紹介した通り、欧米各国でAIの技術者として活躍している人が、スカイディスクをはじめとする日本のAIベンダーの求人に応募するケースが増えているようだ。一筋縄ではいかない「匠の技を踏襲した工場AI開発」というお題は、世界中の技術者たちの知的好奇心を満たし、挑戦しがいのある難問だと認識されているのだろう。

 同社が開発する技術の一例として「スカイサウンド」を紹介しよう。これは車のパーツを検品するAIだ。車の騒音は今まで定量化できず、良い音なのか、不快な音なのかはすべて人間が判断していた。しかし、ドアを開ける音、バックミラーを動かす音、それらひとつひとつを“官能検査”し、AIにその匠の技術を踏襲することによって、例えば“高級感ある車”という演出を効果的に再現できるようになったという。

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「スカイサウンド」のイメージ

 このように、人が潜在的に選択している様々な感覚に関することに対して、コンサルティング+分析を通じた解決へのアプローチを模索するため、クライアントとスカイディスクの協業で開発された技術が活用されている。

 「現在、製造業AIのレベルは何も知らない新入社員のようだとよく言われているが、人間のように途中でやめてしまったり、リタイアすることもない。未来にはもしかしたら、AIのトレーニングコーチが新入社員をコーチングしているかもしれない」と冗談交じりに末永氏は話す。スカイディスクの今後のタイでの躍進が期待される。

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