家具のサブスクリプションサービスCLAS(クラス)を運営するクラスが、「家具を買わない、捨てない」暮らしを推進するため、事業を加速させる。5月29日には、独立系ベンチャーファンドのANRI、日本ユニシスのベンチャーキャピタル事業を手がけるキャナルベンチャーズなどから、3億7000万円の資金調達を実施。リペア効率の高いサブスクリプションサービスに適した家具の開発、製造や、物流体制の強化などを進める計画だ。
2018年8月のサービス開始から約10カ月。「予想以上にBtoB事業が上振れして進んでいる」というCLASの現状と、家具の新しいあり方を示す取り組みについて、クラス 代表取締役社長の久保裕丈氏に聞いた。
CLASは、月額税別500円~家具のレンタルができるサブスクリプションサービス。初期費用や追加費用は不要で、ソファやテーブル、ベッド、本棚といった家具をさまざまなバリエーションの中から選び、レンタルができる。
個人向けのほか、法人向けにも展開しており、「思った以上に法人向けサービスの反響が大きく、問い合わせが相次いでいる」状態だという。導入先は、マンションなどのモデルルームに家具や小物を配置して演出する「ホームステージング」用途や、マンスリーマンションといった不動産関連。加えてホテルや飲食店といった店舗など。最近では、オフィス需要に加え、コワーキングスペースからの引き合いも増えている。
久保氏は「当初は個人向けを中心に手がけていくことになると考えていたが、法人向けは予想以上のスピードで進捗している。この要因は2つ。1つは、デザイン性が高く、しっかりとした空間が作れること、もう1つは大幅なコストメリットを提供できること」と分析する。
CLASでは、国内外のブランドと自社ブランドの両方の家具を取り扱う。いずれも質が高く、デザイン性に優れ、あらゆる空間にあわせた家具をチョイスできることが特徴だ。
月額制のため、店舗の開業やオフィスの引っ越しなどにより初期費用を圧迫しないことも大きなメリット。「ホテルに導入した際、通常家具を購入すると一室あたり100万円程度のコストがかかるが、CLASを利用してもらうことによって一室60万円にまで押さえられた」と、コストメリットは実証済みだ。
「オフィス向けでは、特にベンチャー企業への導入に向いている。社員数が増える過程にあるベンチャーでは、オフィスの引っ越しがつきもの。しかし、間取りやスペースが変わると家具は総取り替えになるケースが多い。新たに購入する資金はもちろんだが、今まで使っていた家具を廃棄するにもコストがかかる。引っ越しで家具を買うというチョイス自体がもったいない」と久保氏は現状の家具の在り方に疑問を投げかける。
CLASが家具のサブスクリプションサービスで目指すのは、家具を捨てない仕組みづくりだ。レンタルする家具は、借り主に送る、使う、戻す、リペアしてまた貸し出すといったサイクルを構築。これにより、家やオフィスが変わっても家具を捨てずに使うことが可能になる。
「このサイクルを実現するのに必要なのが、リペアしやすく、ばらしやすく、パーツを交換して長く使える家具。こうしたサブスクリプションに適した家具の開発と仕組みづくりを強化したい」と久保氏は今後の展開を明かす。
CLASでは、多くの家具をリペアしてきた実績を持ち、リペア後は新品同様に生まれ変わらせる技術を持つ。「リペアできると新品と中古の概念がなくなる。リペア技術はすでに持っているので、これから高めたいのはリペア効率。ここを極めた家具を作っていきたい」と久保氏は話す。
リペア効率と同様に注力するのが物流だ。CLASでは、個人向けには一都三県、法人向けには全国で事業を展開。各地の会社と提携し、家具の配送を依頼しているケースが多いという。
「家具は二人一組で運ぶツーマン配送が一般的。この内製化率を高めたい。クラスはオンラインのみの事業なので、お客様との接点が限られてしまう。配送はそのお客様とクラスをつなぐ大切な接点の一つ。届けた家具を開梱し設置する際に、より最適な提案ができるかもしれない。そうしたオンライン、オフラインの両方を通じてコミュニケーションを図るためにも、物流の内製化したい」と話す。
目指すのは「ディズニーランドにいるキャスト」だ。「ディズニーランドにいるキャストは清掃スタッフであっても、地面に絵を描いたり、落ち葉でキャラクターを作ったりすることで、お客様の満足度を上げている。これを物流の部隊で実現したい。一見するとコストセンターに見えるかもしれないが、実はアップセルを狙える部隊。配送の満足度を上げることで、それを目当てにしてくれるお客様を増やしていきたい」と強調する。
クラスでは現在、営業部隊を持っておらず、問い合わせや日頃のお付き合いの中から、サービスの導入が進んでいるとのこと。「今後も営業部といった部署は作らないスタイルで行くと思う。それよりも、社員がクリエーションしやすい環境を整えたり、メンバーを集めたりすることに注力したい。ある意味、お客様と相対する全員がクリエイターであり、営業であると思っている」と独自のスタイルを貫く。
現在、家具のほか、家電、ファブリックなども取り扱う。「家の中にある消費財以外のものをサブスクリプション化していきたい」と守備範囲をさらに広げていく計画だ。
「レンタルの事業をしていると、お客様のライフステージの変化にいち早く気づける。例えば、ベビーカーをレンタルしたお客様の家庭には、赤ちゃんがいることがわかる。ここから、さらに必要なものをお勧めできる環境を整えたい。それはベビーベットのような家具だけではなくて、ベビーシッターかもしれないし、家事代行サービスかもしれない。あるいは学資保険といったことも考えられる。ライフステージの変化は新しいニーズが生まれる瞬間でもある。そこをキャッチできる強みをいかし、プラットフォーマーになりたい。買うのはAmazon、借りるのはCLASという将来を目指したい」と久保氏は将来像を描く。
サービス立ち上げから約10カ月。法人向け事業の好調さもあり、家具のサブスクリプションサービスは軌道に乗ったように感じる。しかし久保氏は「家具のレンタルがマスなサービスとして捉えてもらえた瞬間が、事業として成功できたと確信して言えるタイミング。CLASはまだ知る人ぞ知るマイナーなサービスにとどまっている。マスに広がって、本当の意味で家具を捨てない社会を作りたい」とした。
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