logo

平井一夫×麻倉怜士インタビュー総集編--ものづくり復活へと導いた商品愛とわがまま(第2回) - (page 2)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

魔法のヘッドホンアンプ「DMP-Z1」誕生を裏で支えた平井氏の言葉

 こう言い切れるまでには、超えなければならない壁もあった。2015年CESでのインタビューでの、コストと感動価値についての話だ。

麻倉 ある雑誌で高級ウォークマン、ZX1の開発ストーリーを取材したのですが、とても印象に残ったことがあります。それはリーダーが開発の始めに「この開発ではコストのことは絶対に考えてはだめです。部品は高くても良いものを使うこと。すべて音質のために技術をつかってください。価格はコストの積み上げでいきます」と、宣言したというのです。ポータブルオーディオプレーヤーは激しい競争にさらされているのに、そこまでやったことに驚きました。

平井氏 それは私にとって、とてもうれしい話ですが、社内ではまだまだそういう体質にはなっていません。ある一定以上の商品にはコスト指向はやめなさいと言っているんですが、ちょっと目を離すと、ついコスト優先になってしまいます。去年はとってもきれいなパッケージだったのに、今年は何でこんなになっちゃうのかというケースがけっこうあるんです。感動価値が全然下がっていると指摘すると、いやコストがどうのこうのと言い訳をするのです。でも一部でも、「コストのことは絶対に考えないでください」と言えるような環境になってきたことは、とてもうれしいです。

麻倉 なぜ、なかなか社内はそうはならないのですか。

平井氏 これまで、コストがすごく重荷になってきたからです。技術者と飲みに行って、こだわってもいいんだから、これがソニーの文化なんだからと激励しているのですが、なかなか浸透しません。でもなんとか少しずつ変えていこうとしていて、その成果は少しですが、出始めています」。

 2015年というと、まだまだ平井改革の道半ばの段階であった。その後、2016年の後半から、平井氏が目指したハイエンドの世界が花開いていく。前述したデジタルオーディオプレーヤー・ヘッドホンアンプであるDMP-Z1が天晴れなのは、ハイエンド的な中味だ。ちゃんとお金を使うべきところに使っているのだ。

「DMP-Z1」
「DMP-Z1」

 DMP-Z1はなぜにすごい音なのか。私は2つのポイントを指摘する。1つは、まさにお金を使ったことだ。ボリュームに贅を尽くしたのである。音量を制御するボリュームはアンプには絶対必要なデバイスだ。しかし音質を劣化させる要因でもある。そこで、現在入手可能な最高品質のボリュームを採用したのである。それが数十年前から、オーディオ設計者の間で「ハイエンドアンプのボリュームならこれに限る」と言い伝えられてきた、アルプス電気製の最高級ボリュームだ。

 そこにウォークマン的なフレーバーも加えた。ハイエンドなウォークマンでは銅メッキや金メッキを施し、それが音質の鍵になっていた。そこで、アルプスのボリュームにも銅と金メッキを付加した。その霊験はたいへん顕かだったという。

  第2がこれほど大きなサイズ(高さ68.1mm✕幅138.0mm✕奥行き278.7mmで、重量約2490g)なのに、バッテリー駆動なのだ。据え置きオーディオ機器は家庭のAC電源から取るのが普通だが、実は音はバッテリー駆動の方が圧倒的に良い。バッテリー電源は抵抗が低く、信号の動的レベル変化に対し、極めて追随性が高い。つまり音が急に立ち上がった時、瞬時に大電流を供給でき、ハイスピードに音を再生できる。

 ポータブル機がバッテリー電源なのは当たり前だが、据え置き機器でも理想はバッテリー駆動。これは高音質を求めるなら論理的な帰結だ。しかし古来、オーディオ機器でバッテリー駆動が試されてきたものの、成功した例はたいへん少ない。理論的には優れていても、使い方がたいへん難しいからだ。しかしDMP-Z1の開発者はすべてウォークマンの技術者だ。バッテリーの使いこなしでは、百戦錬磨だ。

 聴き慣れたハイレゾソースから、聴いたこともない新鮮なサウンドを再生する、魔法のヘッドホンアンプDMP-Z1の誕生を、平井氏は陰で支えた。

 第3回は「新事業の揺籃」を紹介する。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]