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Apple Watchの登場から4年--スマートウォッチの勝者はアップルとなったのか? - (page 2)

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時計メーカーが作るスマートウォッチの可能性

 では、コンペティターはどのような方向性に向かうのか。いわゆるテック企業の作るスマートウォッチは、Apple Watchを模倣せざるを得ないし、その亜流に留まり続けるだろう。彼らにプラットフォームを提供するのは主にGoogleだが、彼らのスマートウォッチに対する冷遇ぶりは、第三者から見ても奇妙なほどだ。Googleは非凡なポテンシャルを持っているが、彼らはPCやスマートフォンほどに、身にデバイスへの愛情を持っていない。また、スマートウォッチの作り手たちも、Appleほどには時計を理解していない。

 一方、時計メーカーが作るスマートウォッチには、まだしも可能性がある。装着感に関するノウハウを蓄積しつつある上、そもそも、Apple Watchと同じ土俵で戦おうとしていないためだ。Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)で時計部門の責任者を務めるハムディ・シャティ氏は「今後、機能に特化したスマートウォッチが増えてくる」と筆者に予言した。事実、同社のリリースしたスマートウォッチは、旅という機能に特化することでスマッシュヒットとなった。Hublot(ウブロ)やTAG Heuer(タグ・ホイヤー)も同様である。

電車、ホテル&旅行情報「シティ・ガイド」アプリなども備えるルイ・ヴィトンの「Tambour Horizon」
電車、ホテル&旅行情報「シティ・ガイド」アプリなども備えるルイ・ヴィトンの「Tambour Horizon」

 2018年、この2社はサッカーに特化したスマートウォッチを発表し、少なくとも一部の愛好家では話題になった。カシオも、アウトドアに特化したスマートウォッチの「プロトレック」で、ニッチな立ち位置を得ようとしている。ビジネスとしての規模はまだまだ小さいが、成長の可能性はあるだろう。また、一部の時計関係者は、カシオがG-SHOCKでスマートウォッチを完成させたら、アップルウォッチに変わる選択肢となる可能性はあると考えている。もっとも、カシオが、耐衝撃性などの条件を緩和させてまで、G-SHOCKのスマートウォッチ版を作るかは疑わしい。同社は現在、Bluetoothで連携する、簡易型のスマートウォッチに注力しており、スマートウォッチへの注力は、その結果次第になるのではないか。

カシオのアウトドア向けリストデバイス「PRO TREK Smart WSD-F30」
カシオのアウトドア向けリストデバイス「PRO TREK Smart WSD-F30」

 ニッチなスマートウォッチとは奇妙な物言いだが、Apple Watchの完成度を考えると、他のメーカーは、まったく別の路線を選ぶほかないし、少なくとも時計メーカーはそのことを自覚しつつある。やる気のないGoogleというくびきはあるものの、今後、時計メーカーは面白いスマートウォッチをリリースするかもしれない。

Fossilが選んだパートナー

 なおApple Watchの脅威を、もっとも自覚していたのはFossilだった。同社は全社を挙げてスマートウォッチの開発に取り組んだが、2019年には、スマートウォッチ部門(公式にはスマートウォッチに関する知的財産)をグーグルにGoogleに売却してしまった。表向きの理由は、グーグルとの共同開発推進だが、額面通りに取った関係者はいなかった。というのも、それに先立つ2018年、同社はシチズンと業務提携を結んだからである。つまりFossilは、Googleとの協業をあきらめ、シチズンをパートナーに選んだのである。

 そのシチズンは、かつてスマートウォッチに冷淡だったが、これはセイコーウオッチも同様だ。先進的なスマートウォッチメーカーのヴェルトに出資して(※)、そのノウハウを、自社のスマートウォッチに融合させようと試みている。仮にAppleに対抗できる時計メーカーがあるとするなら、かつてはFossil、今はシチズンになるだろう。

 ある分析によると、北米市場では、500ドル以下の時計の半数以上が、スマートウォッチに置き換わってしまったという。シチズンの牙城である北米市場がスマートウォッチに脅かされていることを考えれば、シチズンはスマートウォッチを開発せざるを得ないし、成功せざるを得ないのである。同社はヴェルトのノウハウを投じた「Eco-Drive Riiiver」を完成させ、米国テキサス州オースティンで開催される「サウス・バイ・サウスウェスト 2019」で発表した。日本ではなく、米国で発表したというところに、シチズンの危機感が見て取れよう。

シチズンが2019年秋に発売を予定しているスマートウォッチ
シチズンが2019年秋に発売を予定しているスマートウォッチ

 テック系でいえば、ソニーは興味深い。スマートウォッチの機能をバンドに組み込んだ「wena」は、スマートウォッチに対する新しいアプローチである。製品の熟成次第ではApple Watchに並ぶだろうし、少なくとも第2世代は、十分使えるだけのパッケージングを持つ。ソニーの開発チームは、短期間で装着感を改善することに成功し、それはwenaに成功をもたらす可能性がある。もっとも、より成功を収めるのは、レザーストラップにビルトインしたタイプかもしれない。まだ流通経路が限られているが、今後増えたら、ソニーのプレゼンスは高まるだろう。

 改めて言うと、現時点での覇者はApple Watchだし、当面それは変わらないだろう。もっとも、Appleとて盤石とは限らない。2015年に筆者は、スマートウォッチが飛躍的に良くなるには、バッテリーの進化が必要だと書いた。実際のところ、バッテリーの進化を待たずにスマートウォッチは普及してしまったが、ボトルネックとしてのバッテリーは、相変わらず大きな問題であり続ける。バッテリーの容量を増やすのは容易だが、その場合、装着感は悪化する。着け心地が悪くなったら、Apple Watchは、その大きなアドバンテージを失うだろう。また機能を増やすと、操作性も悪化する。現時点では許容範囲だが、これ以上複雑になると、新製品を好む人たちはさておき、一般の消費者には歓迎されないだろう。

 重要なのはAppleが多機能化への誘惑にどこまで抗せるかだが、テック系のジャーナリストや株主たちは、目に分かる形で進化を強要するだろう。第4世代のApple Watchは、視認性と実用性、そして装着感をぎりぎりで両立させた。しかし、これ以上サイズを拡大したり、機能を増やすと、プロダクトとしての均衡は失われるはずだ。私たち時計関係者は、1980年代から90年代にかけて、日本の時計メーカーが機能を増やしたクォーツ時計を乱発し、結果としてマーケットシェアを失ったことを知っている。しかし、Appleは、そういう経験を一切経ていない。その意味で、次に出てくる第5世代は、Apple Watchの今後を占う試金石として、今まで以上に注目すべきだろう。

【※お詫びと訂正】当初、「子会社化した」としておりましたが、「出資した」と訂正いたしました。ご迷惑おかけしましたことをお詫び申し上げます(2019年5月16日)

広田雅将

時計ジャーナリスト。

時計専門誌『クロノス日本版』編集長。サラリーマンを経て現職。クロノス日本版をはじめ、『LowBEAT』『日経ビジネス』などに執筆多数。共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞社)『アイコニックピースの肖像 名機30』(シムサム・メディア)など。ドイツの時計賞「ウォッチスターズ」審査員。

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