グロービス・キャピタル・パートナーズは4月16日、第6号となる新ファンドを設立し、一次募集を約360億円で完了したことを発表した。1社あたり最大50億円を投資することで、新たな“ユニコーン”の創出を目指す。
主な一次募集出資者は、ジャパンビンテージファンド 2019 投資事業有限責任組合(三井住友トラスト・グループ)、日本政策投資銀行、独立行政法人中小企業基盤整備機構、東京海上アセットマネジメント、損害保険ジャパン日本興亜、三井住友銀行、横浜銀行、そのほか企業年金基金・金融法人・大学基金などを含む国内外大手機関投資家。最終的なファンド総額は375億円を予定しており、6月末の最終募集に向けて順調に募集完了となる見込みだという。
同社は、1996年設立の1号ファンド(5億4000万円)、1999年設立の2号ファンド(200億円)、2006年設立の3号ファンド(180億)、2013年設立の4号ファンド(115億円)、2016年設立の第5号ファンド(160億円)を経て、今回の6号ファンドを設立(375億円予定)しており、設立から23年間での運用総額は累計1000億円を超える。
グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの仮屋薗聡一氏は、「独立系VCとして我々は圧倒的に最長なので、経験の蓄積は何よりも効いてくる。かつグロービス経営大学院という教育機関もあり、そことの連携によるネットワークの広がりは、独立系とは似て非なるもの。経済界の方々や政府機関とも親交があり、自動運転やFinTechなど最新テクノロジーに対する制度設計に対しても、スタートアップの意見を提言できると思っている」と同社ならではの強みを語る。
累計投資先社数は150社を超えており、過去にはメルカリ、ビープラッツ、すららネット、ユーザベース、アカツキ、ブイキューブ、オイシックス、ライフネット生命保険など、多数の上場企業を輩出しているという。
今回の6号ファンドは同社にとって過去最高額になり、これまで20億円だった1社あたりの投資額も最大50億円(追加投資含む)に増やした。投資戦略としては“First to Last”を掲げ、シード・ラウンドから時価総額1000億円を超えるユニコーン・ラウンドまで、継続的に投資支援をしていく方針だ。
グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナーの今野穣氏は、「ユニコーンを生み出さなければ日本は今後、国際競争で勝てないと思っている。10年で兆単位の会社をスタートアップから作るには、7~8年前には1000億円規模になっている必要がある。ユニコーンが100億円を調達すると考えると、そこでリードインベスターになるにはその半分くらいは出せないといけない」と、1社50億円の方針を掲げた理由を語る。
今野氏によれば、6号ファンドは2018年11月から募集を開始し、わずか3~4カ月という短期間で360億円の資金が集まったのだという。機関投資家や既存投資家から、前号ファンドより継続して資金を提供してもらえたことが大きいと話す。「長年ファンドを運用してきた信頼や、これまでのパフォーマンス(実績)を評価していただいたのでは」(今野氏)。
6号ファンドは、企業年金基金や金融法人、大学基金などを含む大手機関投資家が、ファンド全体の約8割を占めていることも大きな特徴だ。日本ではまだ珍しいが、米国では当たり前の比率だと仮屋薗氏は指摘する。
米国では1974年に制定された「エリサ法」によって、年金基金の資金を中長期の雇用や新産業に対して投資できるようになり、それから40年近く投資が続けられてきた。そのため、米国ではVCへのリスクマネー供給の3分の2近くが、年金基金や大学基金、金融法人によるものだと説明する。「VCにはリターンのいい時と悪い時のボラティリティがあるが、継続投資していくと慣れてきて、基本的な収益の超過利益をとれるようになる」(仮屋薗氏)。
一方、日本のVCの多くは事業会社が資金を提供している。そのため、事業が安定している間は新規事業やアライアンスに対して積極的に投資するが、景気が悪化すると一転して中長期的な戦略投資から手を引く。つまり、日本のVCの歴史は景気や大企業の投資余力に連動していた。そのため、リーマンショック後は日本のVCは資金調達が難しくなり、5年近く“冬の時代”を過ごした。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がVC投資を組み入れ対象にしたのも2018年が初めてだ。
仮屋薗氏は「米国では2018年に14兆円がスタートアップに投資されたが、日本は3800億円にとどまる。イノベーションへの投資の機会はまだまだ増えるべきだ。今回のチャレンジは機関投資家からの資金を業界がどれだけ獲得していけるか。我々がこの規模で年金基金や大学基金から資金を集められたのは、日本や国内VCを次のステージに上げるための大きな潮目だと思う」と思いを語る。
6号ファンドでは、AI、ビッグデータ、FinTechといった最新テクノロジーのほか、建築や介護といった“対面市場”に変革を起こす企業にも積極的に投資していく方針。すでに、建設現場向けの施工管理ツール「&ANDPAD」を展開するオクトに対して3月に出資している。
6号ファンドでは、従来より手がけてきた投資先への経営・戦略面の支援に加えて、採用支援や投資先同士のコミュニティ作りなどもしていきたいという。また、大企業のパートナーとして、カーブアウト(事業分離)案件やMBO(経営陣による買収)案件にも積極的に取り組むとしている。
「我々は投資先の社外取締役になり、経営メンバーになる。社長にとって心理的に一番近い外部の存在であること、起業家に寄り添っていることが大事。近くで相談に乗ることで我々自身のノウハウも溜まっていく」(今野氏)。実際、今野氏は3月の出資にあわせてオクトの社外取締役にも就任している。
6号ファンドの投資戦略として掲げた“First to Last”には、入り口であるアーリーステージからIPOやM&Aに導くまで、リードインベスターとしてイニシアチブをとっていきたいという思いが込められていると仮屋薗氏は話す。
「『時価総額が100億円になったら上場だね』というのが、平たく言えば日本の現実だった。それ以上の時価総額をカバーできるVCが国内にはいなかったからだ。私たちも4号ファンドでメルカリへの投資を2回スキップしなければいけなかった。やはりそれでは日本のイノベーションを支えるVCとして力足らずと感じた。ベンチャーからしても、投資家が出たり入ったりすると、事業に集中することが難しい。最初から最後までパートナーになれる用意ができたという意思の表れだと思っていただきたい」(仮屋薗氏)。
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