シンガポールに本社を置き、十河宏輔氏がCEOを務めるAnyMind Group(AnyMind)は3月20日、屋外デジタル広告をはじめとするタイ最大手のO2O事業者であるVGI Global Media(VGI)および東京センチュリーの2社から、約9億円の資金を調達したことを発表した。これまでの累計調達額は約40億円になる。
同社では、デジタルマーケティングの「AdAsia Holdings」(アドアジアホールディングス)、インフルエンサーマーケティングの「CastingAsia」 (キャスティングアジア)、HRテックの「TalentMind」(タレントマインド)の3社を従えている。今回調達した資金は、屋外デジタル広告(DOOH)や、各事業における戦略的買収、さらに人材やプロダクトの開発・成長に充てる予定だという。
同社が出資を受けたVGIは、1998年に創業したメディア企業で、タイにおける公共交通機関のリーディングプロバイダであるBTS Group Holdingsの子会社。現在は公共交通機関(BTS)、航空、商業施設、屋外、O2O(Online to Offline)などにおいて、約240億円規模の広告枠を保有しているという。十河氏によれば、VGIはLINEをはじめタイ国外の企業と積極的に提携しており、今回の投資もVGIから提案を受けて実現したという。
AnyMindはVGIとジョイントベンチャー「VGI AnyMind Technology」を設立する。AnyMindはこれまでオンライン広告領域を強みにしていたが、今後はタイの約4000万人にリーチできる公共交通機関やビルボード、街中のデジタルサイネージなどと統合した広告ネットワークを構築することで、オフラインとオンラインの垣根のない広告体験を消費者に届けられるようになると説明する。
具体的には、タイの街中にあるデジタルサイネージにカメラを設置して、個々人の好みや状況に応じた広告を表示するという。画像解析や機械学習などのAI技術によって、視聴者の性別や年齢、地域などのペルソナのほか、配信効果などを分析し、それぞれの視聴者に最適化された関連性の高い広告コンテンツをリアルタイムに配信するとしている。
「屋外広告は不動産業と同じで、インフラを押さえているところが強い。VGIは、空港や高速道路、鉄道など国内シェアの約半分を持っている。ただし、屋外デジタル広告のリアルタイムな更新はできておらず、1カ月近くかかることもある。(合弁会社によって)オンライン広告のようにリアルタイムに在庫状況をアップデートできる世界をDOOHでも実現していきたい」(十河氏)。
さらに、AnyMindは同日、タイ最大級のインフルエンサーネットワークを持つ、TV Thunder Public Company傘下のMoindy Digital(Moindy)を買収し、インフルエンサー事業のCastingAsiaを強化することも発表した。買収額は非公開。
Moindyは、デジタルプラットフォームを通じてミュージシャンの収益化を支援する会社として2004年に創業。2014年にYouTuberなどのプロダクションをするMCN(マルチチャンネルネットワーク)事業に参入し、2017年にTV Thunder Public Company傘下となった。現在は、YouTubeとLINE TVに合計500以上のチャンネルを開設し、3000万以上のチャンネル登録者数と月間6億を超える視聴回数を誇る、MCN事業者へと成長しているという。
「我々はこれまで、広告主であるブランドとインフルエンサーのマッチングプラットフォームとしてサービスを提供してきたが、Moindyのグループ入りにより、今後はインフルエンサーのネットワークとマネジメントも強化していく」と、十河氏は買収の狙いを話す。
今回の買収にあわせて、同日にタイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン、マレーシアの5市場で「CastingAsia Creators Network」を立ち上げたことも発表。インフルエンサーやコンテンツクリエイターに対して、チャンネルのモニタリングや最適化、制作サポートやスタジオ提供、コンテンツ制作のコンサルティング、さらにワークショップなどの機会を提供していくという。
すでにCastingAsiaに登録されている17市場の3万5000人を超えるマイクロインフルエンサーがこのネットワークに加わることで、FacebookやTwitter、LINE、YouTubeなど合計1億8000万を超えるフォロワーを抱えるという。なお、2019年内には香港、台湾、日本を含む既存市場への展開も検討していくとしている。
2019年4月で創業から3年を迎えるAnyMind Group。創業したばかりの2016年に約14億円、2017年にその倍となる約28億円の売上げを達成。さらに、アジア11市場に13のオフィスを構えており、2017年4月時点で90名だった従業員数は、現在450名(20国籍)にまで拡大した。LINEや未来創生ファンドなどからも資金調達しており累計の調達額は約40億円におよぶ。
2019年度は、今回開始・強化する「DOOH」「インフルエンサー」の2つの事業の実績を各国に作るとともに、これをアジア全域に広げていきたいと十河氏は意気込む。また、これまでと同様にアジア市場にフォーカスするとしながらも、「日本の事業はもっと伸ばせる」(同氏)と見ており、日本での成長にも注力していきたいと展望を語った。
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