森永製菓とベンチャー企業のスタッフそれぞれ数人ずつが混在するチームを複数結成し、共同で新しいビジネスアイデアを考案するアイデアソン。実施して初めて大橋氏が気付かされたのは、「自分たちが自社製品のプロモーションのことばかり考えている」こと。そして、ベンチャーとは「思考の幅、行動スピードに絶望的な差」があることもわかった。
たとえば、森永製菓側は(マスコットキャラクターの)キョロちゃんを使うアイデアを出す一方で、ベンチャー企業側はサブスクリプションモデルによるお菓子の海外販売を提案した。また、アジア進出を想定したビジネスについては、森永製菓のような大企業だと事前に念入りな市場調査を実施しがちなところ、ベンチャー企業側は実体験に基づいて「現地企業に今すぐ1000通メールを送る」という“近道”を強く訴えた。こうしたことから、同社はアイデアソンを通じて「アイデアより実行」が重要であり、同社に足りないのは「実行力」であると感じたのだという。
では、どうすれば実行できるのか。同氏は、会社から押しつけられたことをやるという意識ではなく、「自分がやりたいことをやって、それを会社の方針にうまく翻訳する」ような進め方が大切だと考えた。マインドセットを変革するのはもちろんのこと、オープンイノベーションやアクセラレータープログラムを通じて「社外の新しいネットワークを作り、凝り固まった思考を広げ、ベンチャーと混ざり合うことで社内に眠っている実行力を覚醒させる」ことも目指した。
こうした結果、実際に生まれた同社の新規事業の1つが、消費者や企業が用意した写真をお菓子のパッケージに仕立て上げられる「おかしプリント」。少量のオンデマンド印刷にも対応できる企業の協力も得ながら実現にこぎつけた。また、置き菓子ではなく健康食品をオフィスに置くサービス「プチ+チャージ」も新規事業として開始し、ヤマト運輸と協業してオフィスへの食品補充の効率化も進めた。プチ+チャージはその後サービスを終了したが、「撤退するのにも大きなエネルギーが必要」であるという経験も得られ、それも成果の1つになったと語った。
その他、新規事業創出の一環として人材育成にも取り組み始めた。子供向け施設におやつを提供する事業を展開しているウィライツに社員を1人出向させ、今どきの子供がどんなおやつを求めているのかマーケット視点から学び、商品開発のヒントを得る場とした。また、それとは別の社員をアフリカのベンチャー企業に出向させ、まだ市場としてできあがっていない地域でお菓子を広めるビジネス開発にもチャレンジした。
新たな領域に一歩踏み出すことで、別の世界が見えてくるようになった、と同氏。「これまではリスクばかりを気にして行動を起こさなかった」と反省し、いつのまにか疑問に思わなくなっていた社内や業界の暗黙のルールを超えて動くことの重要性も痛感した、と話す。
さらに、「自分の会社が何者なのか、やろうとしていることが会社本来の目的と違うんじゃないのか、といったことにこだわっている人が多いのでは」とも同氏は問う。たとえば菓子メーカーである森永製菓においては、新しいお菓子、おいしいお菓子を作っていればいい、と思う人がいまだに多いとし、これは非常に危険な考え方だと説く。
自動車の利用方法に関して、今やカーシェア、リース、レンタル、サブスクリプションなどさまざまな選択肢があることも例に挙げる。これにならえば、菓子メーカーとしても単に商品を作るだけでなく、誰にどんなサービスをどんな形で提供し、どうやって消費者に知ってもらい、実際の商品をどのようにデリバリーし、どうお金をいただくか、といったところまで深く考えるべきだとした。
同氏は最後に、改めて創業からの歴史を振り返って、そもそも最初のヒット商品となるミルクキャラメルまで創業から15年かかっていることを紹介した。「普通ならそれまでにやめろと言われるが、なんとしても子供に……という創業者の思いがあった。15年間、どんどんキャッシュアウトしていく中で戦略なんてなかったはず。戦略の前にどうしても成功させるという思いがあって、その後に戦略がついてくるのではないか」とし、「戦略の前にとにかく実行することが大切なのだろうと思う」と述べ、講演を締めくくった。
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