衛星データを無料で活用--“誰でも使える”宇宙データプラットフォーム「Tellus」開始

 さくらインターネットは2月21日、法人個人問わず、誰でも無料で衛星データを解析・活用できる日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」を開始した。敷居の高さからこれまで使われることがなかった衛星データを、新規事業の創出や既存ビジネスでの活用に生かす。

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「Tellus」の主要参画メンバー

 このサービスは、経済産業省の「平成30年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備事業」として同社が受託したもの。これまで高価だった衛星データをはじめ、巨大なストレージ、コンピューティングパワー、解析用ソフトウェアまですべてを、さくらインターネットがクラウド上で提供。利用料は無料で、法人・個人問わず利用可能だ。

 Tellusでは、データや解析環境だけでなく、トレーニングやデータコンテストなどの教育コンテンツ、データ活用のためのドキュメントを提供するオウンドメディアも内包する。クラウド環境は、2000コアのCPU、7TBのメモリ、2PFLOPSのGPU(来期以降デフォルトで有効に)を開放。ジュピター・ノートブックと呼ばれるPythonの分析環境を用意し、タブレット端末などでも大規模データの解析が可能となる。

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「Tellus」の開発貢献と利用促進を目的として組成されたパートナーシップ「xData Alliance」

 衛星データは、ALOS2、ASNARO-1などを実装。気象庁のアメダスのデータや人流などのセンシングデータ、IoTデータを組み合わせることができ、雨が降っている場所と人の動きの相関性や、植生の変化を生かした農地研究、レーダーを使った地形変化による災害の影響解析などが可能。衛星データ自体にはリアルタイム性はあまりないものの、地上で取得できるセンシングデータを組み合わせることで精度を引き上げられる。なお、無料で使用できる衛星データの分解能は、50cm程度としている。

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衛星画像と地図を比較
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こちらは人流データと降雨量(色で表示)を組み合わせて、時間ごとにアニメーションで推移を表示したもの

 Tellusは、マーケットの機能もあり、衛星などのデータを持つ企業がデータを自由に売買することができる。これにより、データの利活用がさらに広まるほか、データが売れるという認識が民間企業に広まることで、小型衛星などを打ち上げて新しいデータを取得しようとするインセンティブも働くのではと、さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏は語る。まずは、無償提供で数多くのユーザーに参加してもい、プラットフォームとしての確立を目指す。

 これまで、衛星データは非常に高価だったほか、データ量が膨大なためそれを解析するために必要なストレージやコンピューティングパワーが不可欠であり、データの加工にも高い専門性や高価なソフトウェアが必要。そのため、産業利用は限定的だった。一方で、EUや米国では似たようなデータプラットフォームはすでに存在しており、衛星データの活用が一般化している。Tellusでは、海外にはない強力な分析環境までを含めた総合プラットフォームである点を差別化ポイントとして強調する。なお、EUなどとはプラットフォームの連携も視野に入れているという。

JAXA山本副理事長「大変斬新なシステム」

 プレーヤーが全く参加せずに役目を終えてしまわないよう、Tellusではデータ分析、コンテスト、人材育成、ビジネス領域などさまざまな企業と提携。「Tellus」の開発貢献と利用促進を目指したパートナーシップ「xData Alliance」を母体に、企業連携を図る。

 ビジネス開発領域では、双日、みずほ情報総研、データ利活用領域では、ABEJA、メルカリR4D、メタップス傘下のスペースデータ、G空間情報センター、九州先端科学技術研究所(ISIT)などが名を連ねる。Tellusを活用するスタートアップへの投資では、ABBALab、IncubateFund、B Dash Ventures、オプトベンチャーズなどが参画。正式運用開始に合わせ、シスコとシャープが加わり、計23組織となった。

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「xData Alliance」参画企業

 例えば、メルカリR4Dでは、農業分野での研究を開始。衛星データを利用して、営農による変化量や効果量を数値化する技術を開発する。スペースデータでは、衛星データをもとにもう一つの地球を作り、リアルタイムの位置情報と同期。位置情報に応じてトークンの配布量をコントロールするなど、仮想通貨と仮想地球を組み合わせた研究を手掛けている。シャープでは、「SHARP 8K Lab」において培った超解像技術を使い、衛星データの高解像度化を実現。Tellusをより使いやすくする。

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メルカリR4Dも参画

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)副理事長の山本静夫氏は、「膨大なデータを集めるだけでなく、データから今まで気づかなかった部分を見つけ出す解析アルゴリズムを、どう開発するかが長年の悩みだった。その解決策がTellusにある」とし、「Tellusは、ビッグデータと解析ツールで新しいプレーヤーを呼び込む大変斬新なシステム。新しいイノベーション利用が生まれてくると信じている。JAXAも貢献したい」と語った。

 JAXAでは、これまで「だいち2号」のデータを用いて、熊本県の土砂災害を分析するコンテストを実施。世界中から、科学者・エンジニア・ビジネスマンなどデータアナリストが競い合って解析ツールを開発したという。

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