投資会社となったソフトバンクグループの決算--NVIDIA株を売却、今後の投資方針も説明

 ソフトバンクグループは2月6日に、2018年度第3四半期の決算を発表。売上高は5.2%増の7兆1685億円、営業利益は61.8%増の1兆8590億円と、増収増益の決算となった。

ソフトバンク上場後、初となった決算説明会に登壇したソフトバンクグループの孫氏
ソフトバンク上場後、初となった決算説明会に登壇したソフトバンクグループの孫氏

 今四半期からソフトバンクが上場したことで、ソフトバンクグループは純粋な持ち株会社となり、それぞれの事業はソフトバンクやヤフー、米Sprintなど傘下の企業が担うこととなる。そのためか、同日に実施された決算説明会で登壇した代表取締役社長兼会長の孫正義氏は、業績について「大事な数字ではあるが、最も重要な数字ではない」と話す。

 その上で、投資事業として力を入れているソフトバンク・ビジョン・ファンドの現状について説明。今四半期の業績だけを見ても、同ファンドの営業利益は前年同期比5724億円増の8088億円と大幅に伸びており、ソフトバンクグループの営業利益の4割以上を占める重要な存在へと成長している。

営業利益はソフトバンク・ビジョン・ファンド関連が大幅に伸びる形で、約62%の大幅増益となっている
営業利益はソフトバンク・ビジョン・ファンド関連が大幅に伸びる形で、約62%の大幅増益となっている

 利益急増の要因は、インドでEコマースサービスを展開するFlipkartの株式売却のほか、UberやWeWorkなど投資先の公正価値が増加した影響であるという。その一方で、出資先企業の1つであったNVIDIAに関しては、時価総額が前四半期の281ドルから134ドルへと急落し、40億ドルの評価損となっている。

 だがソフトバンク・ビジョン・ファンドでは、NVIDIAの株式が好調な時にカラー取引を実施し“保険”をかけたことで、実際は218ドルで売却できたことから純利益で30億ドル程度取り戻し、「差し引きではほとんど影響はなかった」と孫氏は話す。同ファンドではNVIDIAの株式を2019年1月に売却しているが、同社の株式が105ドルの時に29億ドルをかけて購入していることから、218ドルでの売却によって55億ドルを回収できたとのことだ。

エヌビディアは前四半期から時価総額が、281ドルから134ドルへと半減しが、カラー取引によって実際の売却額は218ドルであったという
エヌビディアは前四半期から時価総額が、281ドルから134ドルへと半減しが、カラー取引によって実際の売却額は218ドルであったという

 そのうちソフトバンクグループの投資額である7億ドル分は、成果に連動して配当が増える成果連動型の普通株であることから、売却後に同社が回収した額は33億ドルに達しているとのこと。保険をかけながら安全に回収する投資スタイルを確立していることをアピールした。

 一方で孫氏は、ソフトバンクグループの株主価値についても説明。株主価値は企業価値から負債を引いたものであり、ソフトバンクグループはこれまで、有利子負債の大きさが株価を押し下げるなど、不安要素とされてきた。だが孫氏は事業会社が独立したことで、それら企業が持つ7兆円の有利子負債は事業会社が責任を持つものであり、連帯保証をしていないソフトバンクグループの責任下にはないと説明。グループ全体が抱える有利子負債17兆円のうち、現預金の6兆円と事業会社の負債を除くと、同社が抱える負債は4兆円に過ぎないと話す。

ソフトバンクグループ自体の有利子負債は17兆円とされているが、事業会社の負債を含まないことから、現預金などを差し引いて実際は4兆円程度だと説明
ソフトバンクグループ自体の有利子負債は17兆円とされているが、事業会社の負債を含まないことから、現預金などを差し引いて実際は4兆円程度だと説明

 企業価値に関しては、アリババやソフトバンクなどの保有株式総額が25兆円に達していることから、そのうち負債の4兆円を引いた21兆円が株主価値になるという。にもかかわらず、ソフトバンクグループの時価総額は現在約9兆円であることから、「この差は何なのか。私は安すぎると思っている」(孫氏)と話す。

 そこでソフトバンクグループは1株当たりの価値を高めるため、過去最大規模となる6000億円を上限とした、自己株式の取得を実施すことを発表。2020年の1月まで約1年をかけて自己株買いを進め、発行済み株式総数の6.5%を償却するとしている。その財源にはソフトバンク上場で調達した2兆円の資金の約3分の1を費やし、残りは財務改善のための負債の返済と、将来の投資資金に7000億円ずつ費やすとのことだ。

ソフトバンクの上場で得た資金のうち6000億円は自社株の買い付けに使用し、残りは負債の返済と、将来の投資に7000億円ずつ用いるとしている
ソフトバンクの上場で得た資金のうち6000億円は自社株の買い付けに使用し、残りは負債の返済と、将来の投資に7000億円ずつ用いるとしている

 最後に孫氏は、投資会社となったソフトバンクグループの方向性について説明。孫氏は著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏のようなキャッシュフロー型の投資家とも、最近増えているコンピューターによるアルゴリズムを駆使した投資グループとも異なる、ビジョンに基づく投資を組織的に展開していくと話す。

 そのビジョンについて孫氏は、これまでコンピューターのパラダイムシフトとともに事業を進化させてきた経緯から、「いま最も大きなパラダイムシフトだ」とするAIに注力する方針を示す。その例としてニューヨークの五番街を通る乗り物を例に挙げ、かつては馬車だった移動手段が、自動車の登場でパラダイムシフトが起き、さらにAIによるパラダイムシフトによって、「今から十数年で、AIによる自動運転になると思っている」と話す。

AIに注力する姿勢を示す孫氏、今から十数年後、ニューヨークの五番街はAIによる自動運転になると話す
AIに注力する姿勢を示す孫氏、今から十数年後、ニューヨークの五番街はAIによる自動運転になると話す

 孫氏はその理由として、コンピューターの3大要素であるCPU性能とメモリ容量、通信速度が過去30年で100万倍となったが、今後30年のうちに現在のさらに100万倍に達するためと話す。「インターネットは広告と小売りを再定義したが、AIはありとあらゆる産業を再定義する」と孫氏は話し、コンピューターの処理速度向上によってAIが人間の脳を超え、多くの産業を塗り替えていくことこそが、自身が信じているビジョンだと説明する。

 その上でAIを活用し、既存の産業を塗り替える筆頭となり得るユニコーン企業に出資し、企業連合を構築するAI群戦略を展開していくという。「20年前には資金がなかったが、今はソフトバンク・ビジョン・ファンドで10兆円の投資資金を手にした」と話し、AI関連の企業に今後も積極投資をしていくと意欲を示した。一方で出資企業に関して、「伸び続ける頃は(株式を)持ち続けるが、成熟して独自で歩んでいく、卒業というのはいずれかの時期にやってくる」とも話し、適切な時期を見て売却していく方針も示した。

 また同ファンドは急ピッチで投資を進めていることから、新たなファンドの設立や、今後の資金調達に関しても注目されている。孫氏は「いずれかの時点で次の投資資金を募る」としたものの、その出資先が再びサウジアラビアとなるのかについては、「まだ時期尚早。その時になって十分条件を交渉し、考えていきたい」と説明するにとどまった。

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