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アドビのマクリディ社長が尽力するイノベーション浸透と次期人材

阿久津良和 別井貴志 (編集部)2018年12月25日 07時30分
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 アドビシステムズは2018年2月9日、それまで代表取締役社長を務めてきた佐分利ユージン氏の退任と、新たな代表取締役社長Jim McCready(ジェームズ・マクリディ)氏の就任(2018年4月)を発表した。McCready氏は元プロ野球選手としてニューヨーク・メッツにピッチャーとして在籍するなど、多彩な経歴を持つ。また、12月10日には、日本法人の代表を務めるジェームズ マクリディが日本およびAPAC(アジア太平洋地域)の代表に就任したことを発表された。今回McCready氏にお話を聞く機会を得たので、その経歴やアドビシステムズのこれからをうかがった。聞き手は朝日インタラクティブ 編集統括 CNET Japan編集長の別井貴志が務めた。

アドビ システムズ 代表取締役社長 Jim McCready(ジェームズ・マクリディ)氏
アドビ システムズ 代表取締役社長 Jim McCready(ジェームズ・マクリディ)氏

――歴代の日本法人で社長を務めた方にインタビューしてきましたが、McCready氏の経歴に興味があります。スポーツの世界で活躍してからテクノロジー業界に入られたのかお聞かせ下さい。

 良い質問です。プロ野球選手時代、2カ所の怪我(けが)に見舞われました。1つは肘、もう1つは肩。野球を続けるには致命的な怪我で、その時は非常に落胆しました。その時、ある友人から紹介されたのが、ストレージの巨人と言われるEMC(現Dell EMC)です。その友人はEMCで働いており、(ビジネス)キャリアを構築できるとのアドバイスを受け、テクノロジーの基礎を学ぶ経験を重ねてきました。

――スポーツ選手が最先端のテクノロジー企業に加わる判断を下すのは難しいと思います。学生の頃からビジネスの世界に興味をお持ちでしたか。

 私が在学したBentley University(ベントレー大学)はスポーツ分野よりも学問で知られた大学でした。ハイレベルな高等教育を受けてもスポーツに挑戦できるのが米国社会の面白いところです。両親もスポーツ中心の大学生活を送るよりも、学術に優れた大学に入学することを推奨していました。理学士の学位を取った上で卒業した経験が、ビジネスの世界に活用できたことは幸いです。また、プロ野球の世界で学んだ経験もビジネスに活用してきました。

――プロ野球選手時代に学んだ経験とは何でしょうか。

 まずは「チームワーク」。素晴らしいチームメイトと共に協力して、個人単独では成し得ないことをチーム全体で達成することです。次は「成功とは簡単に得られない」ということ。苦労を重ねて自ら勝ち取ることで、初めて成功に至ります。また、「決して諦めない」こと。さまざまな困難があっても克服する姿勢が必要です。

――EMC入社後はどのようなトレーニングを受けてきましたか。

 そうですね。製品やIT業界など、非常に多くのトレーニングを受けました。顧客に最適なサービスを提供するためには、しっかりと顧客を理解しなければなりません。その上で初めて、どの製品・ソリューションが顧客に役立ち、彼らを支援できるかが分かります。

――アドビシステムズに入社するきっかけは何でしたか。また、入社前と入社後の印象もお聞かせください。

 先ほどのEMC入社と似ていますが、ユージン(佐分利ユージン氏)は友人の1人でした。彼の紹介でアドビシステムズに入社しましたが、ユージンは尊敬している友人ですし、アドビシステムズという企業の価値観が自分のそれと一致しています。また、入社後は素晴らしいスタッフが多く、優れた人材を持つ企業だと理解しました。

 アドビシステムズと聞くと多くの人はPhotoshopやPDFを連想しますが、幅広い分野の製品を備えています。クラウドだけでもCreative Cloud、Document Cloud、Experience Cloudと3分野で展開してきました。また、企業文化も優れており、アドビシステムズは人を大切に考えつつ、Adobe全体に広がるイノベーションを求める精神も大きな要素。常に会社のどこかでイノベーションが起きているのはエキサイティングです。例えばiPadで使えるPhotoshopの登場や、Document Cloudの電子サインサポートなど。この精神が企業文化の中核を成しています。

――EMC JapanではCOOなどを務めてきたのでご存じかと思いますが、日本もしくはAdobeがターゲットとする日本市場の印象をお聞かせください。

 はい。Adobeは35年の歴史を持ち、そのうち25年も日本で展開し続けてきました。顧客もアドビシステムズのソリューションを情熱的に使い続けています。現在、デジタルデバイスは多様化していますが、それは我々の目の前に圧倒的なチャンスが広がっていることを意味します。同時にクラウドビジネスが成長するための好機も広がりました。驚くべき数字ですが、日本では3分の2がスマートフォン(以下、スマホ)を利用し、デジタル化が人々の生活スタイルやコミュニケーションを変化させているのは印象深いですね。

――McCready氏のAdobeにおけるミッションは何ですか。

 Adobeはデジタルトランスフォーメーションで世界を変える使命を持っていますが、アドビシステムズは顧客を支援し、デジタルの世界で成功を収めるように顧客を支援することを使命としています。そのため我々は正しい戦略と実行プランが欠かせません。顧客の注力分野に沿ったスタッフを必要としています。

――それをブレイクダウンしますと、3つのクラウドにつながると思います。3つのクラウドに関する戦略をお持ちですか。

 そうですね。Creative CloudはPhotoshopやIllustratorなど、あらゆるデバイスを通じてクリエイティビティを発揮してもらうプラットフォームです。また、我々はデータドリブンオペレーションマネージメントを推進しており、顧客が必要とするソリューションを発見し、提供することを可能としています。

 Creative Cloudは絶大な人気を誇り、トータルのサブスクリプション数は100万人を超えています。既存顧客の期待値を超えて、より良いものを提供していくことが、継続的に求められている重要なポイントと言えるでしょう。また、アドビ製品を使ったことのない方に対する啓発活動を行い、我々の顧客になってもらうチャンスも広がっています。

 Document CloudはPDFを用いたセキュアなデジタルワークフローを提供します。特に日本においても効率性を高めるため、紙からデジタルへの移行が進み、そこにもビジネスチャンスが広がります。Document Cloudの活用で顧客のコスト削減と効率性向上を支援できるでしょう。実際により多数の企業が紙からデジタルへのワークフロー移行に成功してきました。

 Experience Cloudですが、予見性の高いリアルタイムのデジタル体験を提供するものです。多くの人々がスマートデバイスを使い、その環境でコミュニケーションやビジネス、商品やサービスを消費するようになりました。日本は顧客サービスに対して世界に冠たるもの。それは広く知られています。優れた顧客サービスをデジタル体験まで拡張する部分にチャンスを見いだしています。

 製品サービスに関しても、顧客のロイヤルティを向上させることに注力してきました。これらの点からもアドビシステムズに参加することはエキサイティングです。コンテンツ作成からデリバリー、そこからインサイトを得て、顧客体験が新たな体験を提供する。また、正しいタイミングで行っているか確認し、インサイトを構築できる点で唯一の企業だと思っています。

――本来はCEOのShantanu Narayen氏に伺うべきですが、そもそもExperience CloudもOmnitureの買収から始まった話ですし、やはりAdobeはM&A戦略で成長した企業と見えます。話せる範囲で構いませんから、マルケトの買収についてコメントを頂きたい。

 そうですね。買収戦略もAdobeのイノベーション精神を現したものだと思います。これまでの買収事例を踏まえても、大きなビジネスチャンスが広がっているのは確かでしょう。革新的な技術を基盤に持つ企業を買収することで新しい要素を積み増し、さらに成長を加速できることは、過去の例でも明確だと思います。

――外から御社を見ていると、イノベーションという文脈で最先端にあるのはAIエンジンとも呼べる「Sensei」だと思います。米国本社であるAdobeは頑張っていますが、日本のアドビシステムズは営業部隊が中心となる販売会社のように見えてイノベーションを興す気概が少なくなっている気がします。その点についていかがお考えでしょうか。

 いいえ。私の目からは、充分なチームが稼働しているように見えます。セールスもコンサルティングも、R&Dチームもあり、アドビシステムズ内にも継続的な改善精神、イノベーション精神は根付いています。好機であると同時に課題ですが、日本市場はアドビシステムズの活動を正確に知りません。その点からも日本のメンバーには、我々が単にPhotoshopやIllustratorだけではなく、3つのクラウドを日本中に届けようという、非常に強い情熱を持っています。

 また、優れた人材の確保と同時に、キャリア開発も重視しています。アドビシステムズ内はもちろん、アドビ卒業後も素晴らしいキャリアパスを構築できる仕組み作りに注力して来ました。今年2018年は20%の人員強化を行いましたが、このトレンドは今後も続きます。

――ワールドワイドのAdobeにおける日本リージョンは売上高や成長率が高いと伺っています。McCready氏から見ると日本法人の課題は何だとお考えですか。

 1番の課題はブランド認知だと思います。いまAdobeが何をやっているか知られていません。最新の調査によると日本のエグゼクティブ層の8割がユニークなデジタルエンゲージメントを高めたいと考えています。しかしながら実現しているのは数パーセント。デジタルマーケティングを推進する人材の不足や、ITシステムの老朽化で難しいという課題があります。

 私が考えるにブランド認知度を高めるには、メディアの協力が欠かせません。是非我々の活動を発信して下さい。それを目にしたエグゼクティブは、3つのクラウドに対する構造を知ってもらえれば、より深く学びたいと申し上げてくれます。繰り返しになりますが、日本にはAdobe製品を使ったことがない方が少なくありません。啓発活動を通じてビジネスチャンスを広げたいと考えています。

――お話を伺うほど、4つめのクラウドサービスがあってもいいのではと思います。個人的な考えではCRM分野で新たなサービスを立ち上げると思っていました。

 世界中の企業でCXM(顧客体験管理)の優先度が高まっています。我々の3つのクラウドは包括的であり、顧客体験を高める企業努力を支援できると認識しています。

――最後にアドビシステムズの中長期的な目標と、McCready氏個人の目標をお聞かせ下さい。

 そうですね。何をするにも重要なのは顧客中心主義です。常に顧客を考え、パートナーコミュニティを大事にしています。私の夢としては、今以上に素晴らしいチームを構築することでしょうか。リーダーにとって重要なのは素晴らしい人材を雇い、育てることです。そのため、顧客成功と共にチームメンバーも成功を感じて、成長を遂げていくように、社内で次世代を担うリーダーを育成します。

 私はすぐに辞めたりしませんが(笑)、私がアドビシステムズを去るときの後継者はアドビシステムズの中から出てきた日本人になって頂きたい(日本法人の社員から。これまで日本法人の社員から社長になった人はいなかった)。だからこそリーダーシップチームの全員が一丸となって、次世代リーダーの教育に取り組みます。

「後継者は日本人から」とMcCready氏。そのために人材育成にも尽力。
「後継者は日本人から」とMcCready氏。そのために人材育成にも尽力。

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