漫画家・荒木飛呂彦氏が考える「紙とデジタルの違い」--一問一答インタビュー - (page 2)

 まず、絵って何を描いてもいいと思うんですよね。すごく自由で。よく、ペン線は何とか、ペンの先にGペンなんだとか、カブラペンだとか、いろいろあるんですけど、僕はその作家の好きな線が出れば、デジタルだろうがただの鉛筆で描こうが、いいと思うんですよ。

 その中で僕は手で描いているんですが、色を塗ったときにね……例えば料理をしているときに「この味なんだろう」っていう、驚きがあったりするじゃないですか。あれが絵の中にあるんですよ。手で描いてるとね、「おお~!」って思う時があって、あれが好きなんですよ。その連続というのが手描きの魅力で、いまのところ僕は、あまり(フォーマットが)決められているデジタルデータでそれを味わうと、ちょっと楽しみがなくなってしまうので使っていないんだと思います。

——手描きならではの感動が得られる瞬間について、もう少し詳しく聞かせてください。

荒木飛呂彦氏

 (大阪展のキービジュアルであるディオのイラストの背景を指差しながら)例えばここで、黄色やオレンジを組み合わせようって頭の中では思ってるんですけど、実はここにちょっと緑とかが入ってるんですよ。そうするとね、「あ、何かいいなぁ」というか。あとこの朱色(しゅいろ)は、歴史を感じる朱色なんですよね。何だか、平安時代の神社にあるような色っていうんですか(笑)。

 そういうちょっと神がかった絵になった時が好きというか、それは予想ができない。塗ってみて「ああ!」ってくるものなんですよ。料理で「もう少しオリーブオイルを足しておこうかな」みたいな。塩いくか、レモン汁いくかみたいなそういう世界ですよね。絶妙な、二度と作れないものがあるんですよね。

——ちなみに荒木先生は、過去にデジタルツールを使われたことはありますか。

 そうですね。ただ、下手なせいか時間がすごくかかるんですよね。手で描いたほうが速いというか。でも、自分はこれがダメとかそういうことを言うつもりはなくて。何年か前に漫画術(2015年に発行された「荒木飛呂彦の漫画術」)という本を書いたことがあるんですけど、そこにも何ペンを使えとかは書かなかったんですよ。漫画はこう描くんだってことは。それは何をしようが、その作家先生が思うことだし、絵も上手いとか下手っていうのは、何を基準に言ってるんだろうなというのもあるし。その先生の思い入れがあればいいんです。だから、デジタルとかコンピューターはアイテムですね。ペンと同じだと思ってます。

荒木飛呂彦氏

——荒木先生は作品内で多彩な色使いをされていますが、色同士が喧嘩してしまうことはあるのでしょうか。

 あ~、そこを何とかするんですよね、ギリギリのところで喧嘩しないように。で、もし喧嘩したら、ちょっと塗り直したりもすると思います。何か気持ち悪いなぁとか、あとダサさが出てきたりとか。そうすると変えたりしますね。

——2012年頃から、ジョジョのキービジュアルに「承太郎×富士山」の組み合わせが増えています(雑誌「JOJOmenon」の表紙や、2012年、2018年の原画展のキービジュアルなど)が、その理由を教えてください。

 2012年に絵画展をやらせていただくことになった時に、日本をテーマにキービジュアルを描くことになりました(ジョジョのキャラクターたちと、日本を感じられる風景を組み合わせた8枚のカラー原画を描き下ろした「ジョジョ日本八景」)。それで、富士山を当然入れるってなった時に、承太郎に合うというか、イメージが富士山と承太郎で気に入ったというか。何て言うんだろう……日本最高峰と最強のパワーっていうんですかね。それで何枚か連作してるんだと思います。何か頼まれると、あの組み合わせがいいなって。それとは別に、桜とジョルノっていう連作もあるんですけどね。

今回の原画展のキービジュアルにも「承太郎×富士山」が描かれている
今回の原画展のキービジュアルにも「承太郎×富士山」が描かれている (C)荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

——以前、先生は富士山について「普遍的なもの」と表現されていましたね。

 そうですね。絵画の世界でも富士山というのはありがたいものという存在でもありますし、気に入っているんです、あのモチーフが。

——今回の原画展のために描き下ろした、2メートルの大型原画を12枚並べた新作「裏切り者は常にいる」の製作期間や、使用した画材などについて教えてください。

 製作期間はギュッとしたら1カ月ちょっと。ただ下書きしたり、(現在連載中の)ジョジョリオンの連載に戻ったりしながら、その合間に描きました。制作場所は自分の仕事場と、(サイズが)大きいので集英社の秘密の倉庫みたいなところで。画材は、ケント紙を貼ってもらったのかな。漫画用の原稿用紙にもいろいろ種類があって、何種類か大型にできる紙があって、そこから選びました。絵の具は「リキテックス」というものと、普通のカラーインクですね。

新作の大型原画「裏切り者は常にいる」 (C)荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
新作の大型原画「裏切り者は常にいる」 (C)荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

——大型原画の制作で最も苦労したことは何でしょう。

 やっぱり、地球に重力があるんだなってことがすごく分かって。というのは、絵の具が垂れたり、水たまりができたりするんですよ。(キャンバスのサイズが)小さいとできないんですけど、どんどん寄ってくるっていうんですかね、乾く前に。そういう、重力がこの地球にあるっていうところが、大型の圧倒的なところですね。あと、画材屋さんの絵の具を全部買っても(量が)足りないんですよ。

——大型原画は荒木先生にとってもチャレンジだったと思いますが、次に挑戦してみたいことはありますか。

 いや~、もしかしたらまた大型原画を描かなきゃ許されないかもしれないですね(笑)。でも、彫刻とかにはいかないと思います。やっぱり漫画家なので、あくまでも漫画で。これを発展させていけたらいいですよね。

荒木飛呂彦氏

——もし、世界中のどこにでも絵を描いていいとしたら、どこに描きたいですか。

 やっぱり紙がいいですね。壁とかはあまり好きじゃないんです。やはり、紙とかキャンバスみたいなところがいいです。

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