マーケティングでのデータ活用が語られるようになって久しいですが、マーケターがデータをうまく生かせているかは企業によって差があるのが現状です。さらに、活用できるデータソースの幅も急速に増加し、マーケティングは日々高度化しています。本連載では、デジタルマーケティングの現状や問題点から、データドリブンなマーケティングを実現した事例を紹介することで、AI時代のマーケティングの今をお伝えします。
第1回では、Excelを使ったデータ分析の課題や、ビッグデータ時代のマーケティングの考え方について紹介しました。第2回は、AIがデジタルマーケティングで有効となるポイントをお伝えします。
IT部門に蓄積されたデータをマーケティングに利用するには、部門間の連携によって、マーケターが必要なデータを迅速に入手できる体制が求められます。しかし、IT部門はマーケティング部門が使うデータの目的がわからず、ビジネスに役立つデータを抽出できていないケースが大半でしょう。また、連携によって業務が増えてしまい、マーケターが求めるデータ抽出の優先順位は低くなりがちです。
本来であれば、CDO(最高データ責任者)が社内のクロスボーダーとしての役割を果たし、マーケティングに必要なデータを抽出できるよう社内連携を調整するのですが、残念ながらそもそもCDOが在籍していない企業がほとんどです。部門間連携を進めるには、トップダウンで連携を進めることが効率的ですが、それが期待できない場合は、マーケターの知見と経験を元にデータの“お試し利用”を通し、効果があることを証明して理解を促すのが近道です。マーケターがクロスボーダーの役割を果たすのも一手ですが、日々データを収集・分析している現場では、実施が難しいのが現状でしょう。
また、データサイエンティストが在籍している企業もありますが、彼らは売上増加が最優先のミッションであり、レコメンドの改善や新規のサービス開発が主軸のため、マーケティング部門のプロモーションに必要なデータの収集にリソースを割くことはあまりありません。データ活用のプライオリティが違うため、データサイエンティストはいるもののマーケターがやりたいことをカバーできないケースが多いのです。
さらに、大所帯のマーケティング部門は、テレビ担当やSNS担当などと分業されており、データの活用が難しい状況である一方、小所帯のマーケティング部門は、マーケターが各部門を橋渡しすればよいものの、経験やスキルが足りていない状況です。そこで、スキルを持つ人材を採用したり、ツールの導入が必要となってきます。最近では、日本でもアプリのサブスクリプション利用が広がり、気軽にツールを活用できる環境が整ってきました。
どうすれば社内のデータ共有は進むのでしょうか。業種、サイズともさまざまな企業とAI導入に向けたお話をするなかで、データ活用のできる会社の特長がわかってきました。
組織的にデータ活用における方向性が明確な会社は、経営層を含め、データ管理を統括する部署や責任者を配置しています。彼らはデータを使って、事業を推進する方法や課題の解決を目指し、ソリューションやツールの導入に権限を持っています。データを管理する部署の立ち位置は、データの価値をどのくらい認識しているかで大きく差が出ると思います。
特に最先端の技術の導入には課題の明確化とデータの収集が鍵となります。組織横断でデータを収集したり、アプリケーションの統合などを迅速に実施できれば、企業内で常にフレッシュなデータを保有する環境が整います。
AIは24時間365日データ分析を行うことができますが、精度の高い分析結果を得るためには、ビジネスやプロジェクトの進展に合わせて人間が分析すべきデータの選択や経過の検証を進めることが必要です。そのためには、人が正しいデータを選定して入力しなればなりません。同時にAI活用のゴール設定と状況の定期的な確認、そして意思決定者と情報共有と課題の明確化を行うことが、データ活用企業になる方法となるでしょう。
伝統的なマーケティングプロモーションは、過去のデータにもとづく推測から発案されたものです。多くの企業は経験豊富なマーケターの知見や経験によってプロモーションを企画・実行しますが、それらはすでに有効性を失っていたり、拡張性が低くなっている可能性があります。この課題を解決するための一つのカギが、マーケティングでのAI活用です。データから適切なインサイトを獲得し、それをプロモーションに活用できるようになります。
消費者に効果的にリーチするため、企業が独自アプリを展開するケースは一般化しましたが、スマートフォンやタブレット、PCなど消費者が保有する複数のデバイスを横断してマーケティング施策を展開している企業は多くありません。AIは、これらのデバイスと利用傾向の把握を可能とし、企業がリーチしたいオーディエンスとデバイスを特定。メッセージを送ったり、アプリのダウンロードを促進させることができます。
AI活用の一番のメリットは、人間の勘や経験では見つけ出すことのできない新しいインサイトを得られる点です。AIはデータから様々なインサイトを生成し、精度の高いセグメントを行います。手間と時間のかかる分析予測をAIに任せることで、マーケターはキャンペーンやクリエイテイブの質を高めることに集中できます。加えてAIがセグメントした最適なオーディエンスへアプローチできるため、メールなどの無駄打ちが削減でき、施策の効率化が期待できるでしょう。
AIはビジネス上のすべての問題を解決できるわけではありませんが、少なくともマーケティング部門にとって頼りになる存在です。例えば、AIのアプローチを導入したマーケティングチームは、ディープラーニングを活用して消費者のプロファイルとオンライン行動を結び付け、年齢や関心といった主要属性をもとにプロファイルのセグメンテーションを実施しています。このプロセスを通じて、消費者層ごとのメーリングリストを作成し、適切なコンテンツマーケティングを実施。大きな効果を上げています。
また、企業が保有するデータ量が爆発的に増加しており、データ管理の負担やコストの増大、セキュリティへの対応など、ビジネスにさまざまな面で影響を与えています。AIツールを活用したデータ収集・分析では、膨大な量のデータを休むことなく正確に分析できるため、これまでのやり方では不可能だった画期的なインサイトを企業にもたらし、競争優位性を得ることができます。ただし、AIを上手に適用するには、分析に必要なボリュームのデータを収集し、構造化されたプロセスを正確に実行する必要があり、このためにもデータを活用できるための“下地”が重要になるのです。
AIにより、マーケターやプロダクトマネージャーは、自分たちの本能を頼りにする「直感主導」のマーケティングアプローチから離れ、データ主導の戦略に移行することが可能になります。そして、マーケターはデータの収集・分析の負担から解放され、本来の仕事に集中できるのです。データ主導のデジタルマーケティング時代の今日、AIが重要な技術であることに疑いの余地はありません。
小林 慎
Appier Japan エンタープライズソリューションセールス カスタマーサクセスマネージャー
明治大学卒業後、大手SIerで大規模プロジェクトにてPM、SEとして従事。開発工程を上流からリリースまで経験後、スタートアップへ参画。Sharp社のクラウド型Web会議サービス TeleOfficeやタタ・コンサルタンシー・サービシズの初代カントリーマネージャー率いるインド発の文書管理ソリューションでプリセールスやテクニカルサポート等を経験し、2018年1月にAppier Japanへ入社。AI による オーディエンス予測分析を可能にする データインテリジェンスプラットフォーム「Aixon(アイソン)」のカスタマーサクセスマネージャーを担当。
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