トイレやお風呂、キッチンなどの水まわり製品と窓、ドア、インテリア、エクステリア、タイルなどの建材製品を開発、提供しているLIXILは、2011年にINAXやトステムなど国内トップメーカー5社が統合してスタートした企業だが、グループ企業は約300社におよび、約150の国と地域で商品・サービスを提供するグローバル企業の顔も持つ。そんなLIXILは新規事業に挑戦中だ。今回は新規事業の責任者である同社 理事 LIXIL Water Technology Japan 新規事業推進部 部長 浅野靖司氏に取り組みの心意をうかがった。聞き手は朝日インタラクティブ 編集統括 CNET Japan編集長の別井貴志が務めた。
――まずは新規事業に取り組み始めた背景をお聞かせ下さい。
今、日本は人口減少社会を迎え、新築の住宅着工戸数も当然のように減少します。我々の業界にとって大きな変化点と言えるでしょう。そのためメインのビジネスは新築ではなくリフォームなどストックに対して仕掛けていく形に変化し、それがLIXILにとって重要な継続的成長の鍵となります。起業家精神を持ちながら新しいことにチャレンジするのが我々の使命です。
昨今はIT化やテクノロジの進化が早いものの、我々の業界は、新たな製品が登場しづらい環境と言わざるを得ません。そのため新規事業推進部では、実験的なアプローチを加えながら、ユーザーの価値につながる製品やサービスを、販売方法も含めて取り組んで行きます。また、水回りの事業は長年手掛けていますので、その経験を生かしながら、取り組みます。
――長い歴史を持つ企業が、新しい取り組みを行うのは簡単ではありません。新規事業推進部はどのように取り組みますか?
一般的に、各事業部が持つ既存ビジネスの一方で、成功する約束がない状況下でリソースを切り出し、新規事業創出に取り組むのは難しいでしょう。だからこそ、新規事業推進部を新たに設けた経営層の意思だと捉えています。我々は与えられた条件で、できる限り小さくスタートできるかが(新規事業を創出する)鍵だと認識しています。
――具体的に新しい商品の開発スタイルを教えて下さい。
例えば、新規事業推進部では、過去にデザイン部や研究所が生み出したものの、小規模なターゲットになるためお蔵入りした中から、新たな商品の強みとなる技術を見つけたりします。そして、特定少数の顧客に絞り込み、新たな製品開発や販売方法に挑戦していきます。
具体的には、アイデアを形にする試作作りから始まり、モノを見てから是非や市場と合致するか判断します。そして少しずつ最終形に近づける「アジャイアル開発」を取り入れています。多くの機能を盛り込まずに最小限に抑えて、顧客から「○○はできないの?」と問われたらバージョンアップ。商品を育てていくもの作りに挑戦します。
――商品開発の具体的なプロセスやアイデアの創出方法はいかがでしょうか。
先ほど述べたように社内からピックアップするケースもありますが、スタートアップや異業種など技術を持つ企業と協働しながら一緒に企画を作り込んだりもします、異業種という意味ではモーター系企業などにも話を伺いました。その理由は「LIXILが1番やっていないことに取り組もう」と考えているからです。
そして、すべてはユーザーの価値に寄り添える製品開発のためです。そのためには、自社工場の開発だけにこだわらず、パートナーによる開発も視野に含めてユーザーの価値を追い求めます。「アセットライト」な手法を取り入れます。
小さな実験を沢山やりたいものの、必ずしも成功するとは限りません。そこで課題となるのが投資額です。額が増えると失敗時のリスクも増加します。最初はどの程度売れるか分かりませんから、初期投資は可能な限り抑えます。メーカーが実験する上で重要なのは、最初の作り方に対する工夫でしょう。
――つまり顧客の「価値ファースト」ですね。改めてお伺いしますが、新規事業はLIXILという事業範囲で取り組むのでしょうか。また、商品ドメイン以外の展開は?
LIXILのドメインは変えずに取り組んでいます。そしてユーザーの新しい価値創造と同時に我々はLIXILのテストマーケティング部隊という顔も供えています。
さらに商品だけではなくサービスを売るという切り口なども試みていくことで、同じ顧客に対しても広がりが生まれると考えています。
――販売実績が見込めるか否か分からない商品を広めるのは一苦労です。今後第一弾の製品をリリースすると伺っていますが、概要と合わせて苦労話などもお聞かせください。
第一弾の商品はデジタルで認知度を高めようと考えました。
「[ONDEMAND ECOCARAT]」は顧客が選んだ写真をオンデマンドで印刷して、タバコやペットの匂い、湿気を吸収するオリジナルの「タイル」を作れる商品です。ユーザーは、特殊な接着剤やモルタルを使わず、磁石で簡単に取り付けられる仕様にしました。利用者は貼り付けも貼り替えも自由にできます。また、壁に飾る写真がないという方のために、Getty Imagesさんと連携し、あらかじめ用意した写真印刷も可能にしました。
――おもしろい商品ですね。「ONDEMAND ECOCARAT」の企画はどのように生まれましたか。
以前の私がタイル工場を訪れたとき、写真を印刷したタイルが飾っていました。そこに着目したのが企画の種です。釉薬(ゆうやく)を定着させる技術は工場に、タイルと磁石と掛け合わせる技術は開発部門にありました。そこを組み合わせ、顧客とダイレクトに対話しながらオンリーワンな商品を開発できるという観点から「ONDEMAND ECOCARAT」は誕生しました。
「ONDEMAND ECOCARAT」は専門のオンラインショップで注文できます。タイルは焼くと色味が変化するため、シミュレーション機能も追加しました。またサイズと画像を選んで頂ければ、後は宅配便で送付します。絵図に飽きたらポスターのように貼り替えることも可能ですし、タッカーや水平器も付属させ、不慣れな方でも挑戦できるようにしました。価格はサイズによりますが、3×3タイルで4万円程度。(以下の写真にある)5×3では7万円を超えるぐらいでしょうか。
これらの価格設定はアート作品を購入するユーザー層を調査しています。一般的なアート作品では10万円は下らないため、それより手軽かつ安価に設定しました。納期は現在3週間程度です。
――LIXILはその他にも、アクセラレータプログラムや異業種とコラボレーションしたスマートキッチンイベントへの参画、またCEATEC出展など、多岐に渡り新しい活動を行っています。どのようなお考えで実施されていますか?
我々以外にも新規事業に取り組んでいる部署が複数あり、部署ごとに異なるスタイルで(新規事業創出に)挑戦しています。これら各部署で情報交換をしていくことで、有益性も高まっていきます
これらはLIXILグループの行動指針である常に正しいことをする「Do The Right Thing」、敬意を持って働く「Work with Respect」、実験して学ぶ「Experiment and Learn」のに大きく関係しています。
社員全員が正しいこと・やるべきことを理解していることが(新規事業への取り組みをスムーズに進めることが出来る点で)LIXILの強みだと感じています。
――各企業に取材を重ねていると、みさなん口をそろえるのが、新規事業に対する事業評価と人事評価の難しさですです。LIXILではどのように行われていますか?
正に難しいところですね。新規事業が一定の成功を収めても、LIXILの規模から見れば大きくはありません。今回は実験的に取り組んでいるため、LIXIL全体の物差しではなく独自の物差しで判断しています。
弊社の場合、たとえ失敗したとしても、誰も真似できないような挑戦であれば評価されます。もちろん「失敗しても学ばないのはダメ」と釘を刺されています。だからこそ、LIXILのスタイルが変化するような思いで、チャレンジし続けていくつもりです。
そのため私の使命はテストマーケティング部隊であり、そこから得られた価値・成果をLIXILの成長につなげることです。後から(浅野氏の役割が)大きかったと言ってもらえると嬉しいですね。
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