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大手企業社員らのサークル活動「つくるラボ」の狙い--新しいことをすぐ具現する力

日沼諭史 別井貴志 (編集部)2018年08月27日 12時30分
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 アイデアと技術を競う場として、あるいはオープンイノベーションの取り組みとして、近年多くのアイデアソンやハッカソンが開催され、盛り上がりを見せている。地域やイベントの大小を問わなければ、それこそ毎日、毎週のように開催されており、なかには優劣をつけずに成果だけ発表するものもあれば、優秀作品に賞金が授与されるものもある。こうしたハッカソンでは、個人で参加し、その場で結成された即席のグループで課題に挑むことも多いが、最初からチームとして参加しているケースもある。国内大手企業の社員が中心となって立ち上げたサークル「つくるラボ」もその1つだ。

つくるラボのアクティブメンバー4名に話を聞いた
つくるラボのアクティブメンバー4名に話を聞いた

 同サークルの所属メンバーは、2018年7月時点で84名の大所帯。アクティブに活動しているのはそのうち20名ほどというが、それでもハッカソンの一般的なメンバー構成であれば一度に数チームは作れるほどだ。しかし、特徴的なのは規模だけではない。勤め先も、肩書きや立場も異なるメンバーが多く集まり、本格的に活動を開始した2017年はハッカソンに28回参加、そのなかで受賞回数は22回を数えるという。

 なぜサークルとして数々のハッカソンに挑んでいるのか。同サークルの発起人である東芝デジタルソリューションズ RECAIUS事業推進部 兼 東芝 デザインセンターの衣斐秀聽氏のほか、サークルメンバーの1人でハッカソン参加のとりまとめ役でもある同じく東芝デジタルソリューションズの松留貴文氏、富士フイルム デザインセンターの石垣純一氏、元大手メーカーで現在は次世代家庭用ロボット「LOVOT」を開発しているベンチャー企業GROOVE Xに勤める小川博教氏の3人に話を伺った。

メイカースペース設置を目指してハッカソンで実績作り

 衣斐氏が個人でハッカソンに参加し始めたのは2015年。それまで自社で仕事をするなかで「デザイン、プログラム、電子工作のどれも、そこそこできる」という自負をもっていたことから、「ハッカソンのチームに足りない役割を自分がカバーできるのでは」との思いでハッカソンに挑んだ。しかし実際には「自分よりデザインも、プログラムも、電子工作もできるすごい人が一杯いる」ことに気付き、衝撃を受けると同時に「会社の環境では得られない経験ができる」という魅力に取りつかれた。

「つくるラボ」発起人の衣斐秀輝氏
「つくるラボ」発起人の衣斐秀聽氏

 「こんなのやりたいな、と想像したものが、みんなの力があれば1、2日で本当に具現してしまう。結果もその日のうちに決まって、アイデアの評価やフィードバックを得られる」。そんなものづくりの醍醐味とも言える経験は、衣斐氏の本業においては、メーカー系の大企業とはいえ、あるいは大企業だからこそ、立場上実感しにくいものだったという。日々の業務ではものづくりに携わっていても、実開発のために自分の手を動かすことは少なく、「自分の本来もっている能力を活かせないフラストレーションもありました」と打ち明ける。

 そこで、昨今は全国各地で増えていると言われる「メイカースペース」と呼ばれるものづくり拠点を、自分たちが業務時間外にいつでも使えるよう自社内に常設することで、ものづくり活動を一層しやすくしたいと考えた。とはいえ、会社側の都合もあってすぐにメイカースペースを作れるわけではない。そのため、当面はハッカソンをメイカースペースに近いものづくりに適した機会と捉え、ハッカソンで作った実績を、メイカースペース設置のための会社に対する説得材料として活かすことも考えた。

 こうしてメイカースペースの設立を目標に、衣斐氏らが「つくるラボ」を立ち上げて本格的にチームで挑み始めたのは2017年1月。サークルメンバーは同氏が個人でハッカソンに参加していた頃に知り合った人たちを中心に集めた。2017年の1年間でハッカソンには28回参加し、そのなかで22個の賞を受賞。これ以外にも、ものづくりに関する勉強会やセミナーなどにも頻繁に参加し、展示会への出展も積極的に行ってきた。

大企業ではできない“ものづくり”があっという間に具現化

 果たす役割の違いこそあれ、元々ものづくりである本業の内容とサークル活動の内容はほとんど同じようにも思える。しかしながら、衣斐氏は大企業がつくるものとサークル活動でつくるものの間には大きな違いがあると言う。「1つのプロジェクトで膨大な売上が求められる大企業のシステムは、特定の消費者が手にとったときにわっと驚くような、おもしろいい物を生み出すのにはマッチしていないこともあると思うんです。せっかく思いついたアイデアも、その企業のドメインになっていないものだったりすると、出口を見つけるのが難しい場合もあります」。

 また大企業では、もし新しいアイデアが受け入れられたとしても、それが現実のプロジェクトとして進まないことが往々にしてある。あるいはプロジェクト化されたところで、発案者と担当者が別になることも少なくない。発案者のもつパッションがプロジェクト担当者に伝わらず、開発が進むうちに“熱量”が不足して商品としての魅力が薄れる、なんてことも往々にしてあるだろう。しかしサークルでなら、自由に発想したものを、自分たちの思いのままに、短期間で形にできる。現在ではパーツなどの小ロット生産を手がける会社もあり、個人レベルでものづくりがしやすい時代になってきているのも実現の大きな助けになっていると衣斐氏は言う。

 本職のデザイナーとしての能力をサークルでも発揮している富士フイルムの石垣氏は、ハッカソンについて、本業では手がけることの少ない「実際に駆動するもののデザインができる」貴重な場だと語る。「プライベートでデザインコンペに参加することもありますが、ある意味絵に描いた餅を競うようなもの。ハッカソンではそれとは違う、電気で駆動するものが作れるのがおもしろいと感じています」という。「しかもつくるラボのメンバーとだとびっくりするくらいものができるんです。やりたいと言ったものはだいたいできる」と、興奮気味に話す。

つくるラボでは主にデザイン周りを担当している石垣純一氏
つくるラボでは主にデザイン周りを担当している石垣純一氏

 GROOVE Xの小川氏は、学生時代からサークル活動でものづくりに取り組み、大手企業に就職。ロボット開発に10年間携わった後、現在所属するベンチャー企業に転職した。「今いる会社では1週間の単位で素早く開発サイクルを回すスクラム開発を行っています。ハッカソンも最小単位で素早く試作して検証する点が似ていて、自分としては本業のトレーニングにもなっていると感じます」と小川氏。「会社ではソフトウェア開発を担当していますが、ハッカソンではハードウェアも扱います。会社ではできない、いろいろなチャレンジができるのもおもしろいところ」と笑顔を見せる。

ソフトウェア、ハードウェア設計などを担当している小川博教氏
ソフトウェア、ハードウェア設計などを担当している小川博教氏

 東芝デジタルソリューションズの松留氏は、同じ会社の衣斐氏と社内のアイデアソンで初めて顔を合わせた。「自分はシステムエンジニアで、漠然とモノづくりへの興味はありましたが、それをかなえるのにどういう場所があるのか、どういう人たちがいるのかわかりませんでした」。しかし衣斐氏との出会いをきっかけに、つくるラボの立ち上げに関わることになった。ハッカソンのとりまとめ役として動きつつ、自身も2017年はほとんど毎回のようにハッカソンに参加した。「いろいろ学べて経験ができ、賞をもらえて、たくさんの人とも出会える。そういう人や場をもっと増やしたいと思うようになった」。そんな思いから、最近はハッカソン自体の運営も手がけようとしている。

ハッカソン活動が会社への貢献につながる

 ハッカソンに参加することで、現在所属している会社に対して何らかの形で貢献できている側面もあるのではないか、とも各々感じ始めている。衣斐氏は自身が関わっている製品をアピールする機会が増えるとして、社内の広報部門にも納得してもらいながらサークル活動をしている。ハッカソンの会場で自分たちの人となりがわかるため、「こんなおもしろいことができる人たちがいる、と興味をもってもらえることで人材採用にもつながるのでは」という期待もある。

 小川氏も、ハッカソンは会社にとって人材採用の面で大きなメリットがあると話す。「ハッカソンとベンチャーでは開発の仕方が似ている、と先ほど言いましたが、言い換えれば、ハッカソンが好きな人はベンチャー企業でのスピード感のある仕事を楽しめる人が多いんじゃないかと。そう考えると、ベンチャー企業がハッカソンをきっかけに優秀な人材の獲得につなげられる可能性は高いと思う」。他にも、企業として活動をバックアップすることで、企業の考えや社風など、魅力を伝えられればお互いにハッピーになれるのではないか、とも考えている。

 ただ今のところ、つくるラボはどの組織にも所属していない有志だけの集まりのため、自分たちの会社や他の企業からの金銭的なスポンサードはない。また、サークル会費も集めていないが、ハッカソンで獲得した賞金を製作費に充当できる場合も多く、メンバー個人の持ち出しも基本的にはほとんどない。さらに、多くのハッカソンで実績を重ねていくうちに、プロトタイプ制作に必要となる3Dプリンターやレーザー加工機、クラウドサーバの貸し出し、作業・会議用スペースの提供などをサポートしてくれる企業も現れ始めている。

 「以前は残業が多かったが、サークル活動を始めてからやらない仕事を決めて早く帰るようになった。結果、残業代が減って年収が毎年洒落にならないほど下がった」と笑う松留貴文氏。「ただ、それでも今の方が充実しているし、仕事にメリハリをつけ、やりたい仕事に集中出来るようになりました」。ハッカソンには意外な効能もあるようだ。

「以前は残業が多かったが、サークル活動を始めてから早く帰るようになった。結果、残業代が減って年収が毎年洒落にならないほど下がった」と笑う松留貴文氏。ハッカソンには意外な効能もあるようだ
「以前は残業が多かったが、サークル活動を始めてから早く帰るようになった。結果、残業代が減って年収が毎年洒落にならないほど下がった」と笑う松留貴文氏。ハッカソンには意外な効能もあるようだ

尖った人たちが集まるコミュニティの特徴を活かしたい

 メイカースペースの設置以外に、つくるラボが最終的に目指すところはまだ明確に定まってはいない。ただ、小川氏が話していたように「企業のバックアップを得られるような体制をいずれは作りたい」と衣斐氏は考えている。さらに「副業として参加できるようにすれば、いろいろな企業の人が集まるコミュニティの場にもなります。さまざまなコネクションがある、尖った人たちが集まるコミュニティという特徴を活かせる形で組織化していくのが理想的かもしれません」とも語る。

 それに対して松留氏は、「安定収入を得る軸足があったうえで、副業などで自分のやりたいことをやれるのが一番いい。今後は所属会社に限らず、能力をもつ人たちを都度集めてプロジェクトチームを走らせる、というような動きが今より増えるのではないかと思います」と予測する。

 業務外における本業に近い活動は、転職や独立、起業につながるといったイメージもあり、企業側にとっては必ずしもメリットばかりではないかもしれない。しかし4人の話を聞いていると、本業は本業として、それとは違う形で新しいものづくりに常に関わっていたい、という熱い気持ちが伝わってくる。

 しかも、ハッカソンには単なるものづくりを超えたまったく別の魅力もあるようだ。「これまでの人生の経験と、感度を高くして仕入れた情報。それに、与えられたテーマ、持っている技術、解決したかった自分のなかの課題がうまく合わさって初めてアイデアにつながる。私の考えに賛同して一緒に活動してくれる仲間にも恵まれ、偶然思いついたおもしろいアイデアをスピーディに実現できるようになり、今ではさまざまなリソースを提供していただき、試作したアイデアの製品化に向けて活動できている。つくるラボの設立から現在まで、すべては人と人との出会いから生まれたものであり、良いタイミングで良い人と出会う“運”をつかめたからだと思う。これまでの活動を通してハッカソンは、人や技術、企業の出会いの場となっていることを実感している。だからこそ、オープンイノベーションを加速するために、東芝にメイカースペースを設置する活動を継続していきたい」(衣斐氏)。

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