Ponanzaがプロ棋士を破ったのは2013年。「コンピュータが名人に勝ったところ、お葬式みたいな空気になってしまった。神話が死んでしまった」と山本氏は振り返る。しかし、2014年に再度戦って勝ったときには、明るかったという。「AIが人間を破ると最初はショック症状になるが、すぐ人間は慣れる」(山本氏)。
「我々の世界で指数的に上昇するものはほとんどない。でも、ハードウェアやソフトウェアでは普通のことだ。ムーアの法則のように2年間で大体2倍ぐらいCPUが速くなるとか、あるいはソフトウェアのアルゴリズムの進化によってある操作が100倍速くなったとかいうことはごく当たり前に起こる。すでに将棋界では技術的特異点に到達しており、コンピュータ自身で勝手に強くなっている。人間の理解を超えている状況だ」(山本氏)。
山本氏は、未来について話を続けた。「今を第4次産業革命という人もいるが、そんな甘い考えにはならないと思う。人工知能は知能そのものを科学する。知能はあらゆる科学の源泉だ。これは産業革命とか比べものにならないようなインパクトだ。そして我々は幸運なことに今ここにいる」(山本氏)。
「イギリスで起きた産業革命では、蒸気によって動くものに取って代わられた。紡績も変わった。仕事を失った労働者たちが怒って機械を壊し始めた“ラッダイト運動”が起こった。現代もこの傾向があるのではないかと言われている。個人的には片鱗が見えていると感じていて、搾取される人が社会そのものを壊さんとするような勢いになってきている。私は、工場労働者たちは金を奪われたのではなく、筋肉の誇りを奪われたのだと考えている。それまで家を建てるのも橋を建てるのも、全部人間の筋肉だったのが、人間はサポート役になってしまった。今では力があると言われてもそんなに尊敬しない。今、我々が尊敬することは“賢い”こと。人工知能の性能が上がると怖いと感じるのは、我々の知能の誇りが脅かされるから。しかし、価値観はよく変わる。AIを使ってもいいと考え方を変えていかなければならない。革命のときは不安だが、後から振り返ればおもしろい時代なのだ。何が言いたいかといえば、“むっちゃおもしろい”ということ。我々がどんどん世界を変えられる状況だ。きっと世界を良い方向に変えられるのではないか」と、山本氏はAIへの熱い思いを語った。
大井氏からは、HEROZ kishin AIの活用についての説明が行われた。
HEROZでは、「将棋ウォーズ」という将棋アプリを開発している。もっとも大きな特徴は「棋神」という、5手自動で最善手を指してくれるAIだ。
この将棋AIを、HEROZ kishinとして展開しているとのこと。HEROZ kishinには、頭脳ゲームエンジン、経路最適化エンジンなど、10個のエンジンが搭載されている。これらを組み合わせてAIを作り、企業へ提供しているという。
そして、異常検知エンジンと予測エンジンを組み合わせたAIを「HEROZ Kishin Monitor」としてサービスを開始した。人工知能がリアルタイムに時系列データを解析して未来を予測し、予測に基づいた網羅的な自動監視、異常検知を行える。
HEROZ Kishin Monitorは、AIがリアルタイムのデータから統計値を再学習し、未来予測の精度を向上している。また、AIが監視対象と監視項目を網羅的に自動設定し、監視するため、人間によるしきい値の設定作業が不要であること、一見障害とは判断できない特定パスのアクセス増減や、ファイルサイズの変化などを見逃さないという特徴がある。「AIが自動監視や異常検知を行い、人はクリエイティブを創出する時代である」と、大井氏は締めくくった。
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