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コインチェックの「NEM」不正流出問題の要点 - (page 2)

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販売所のスプレッドと自己勘定

 さて、ここまで技術的な側面の話だったが、ビジネス的側面の話をしよう。

 今回、コインチェックが約500億円を日本円で払うと約束している。これだけのキャッシュを持っていたことが、人々を驚かせたわけだが、おそらくすべてが利益剰余金というわけではなく、預かり資産を含んでいると見られる。

 証券会社に肉薄しているとみられる収益は、主に販売所というビジネス形態と、自己勘定取引(いわゆるノミも含まれる)と他市場におけるヘッジを組み合わせた結果がもたらしたと言える。

 自己勘定は必ずしもコインチェックに優位に働くとは限らず、ユーザーが販売所でコインを買うということは、コインチェックが「空売り」をしていることになる。仮想通貨は昨年、驚異的な値上がりを示しており、すべてを呑んでいたら破綻してしまうため、海外取引所でそれをヘッジしていたことになる。

 月次取引額は4兆円とも言われており、膨大な取引量が想像される。ユーザーの買いと同時に海外取引所でコインを毎度購入するのは効率的ではないため、一定期間の間にリバランスを繰り返していたと推察できる。積極的な自己勘定取引により、ユーザーの保有分と乖離していた可能性もゼロではなさそうだ。

 「販売所」運営者はユーザーに対して優位なのは間違いない。コインチェックは販売所で1取引当たり10%程度のスプレッドを取っており、スプレッドの総額からユーザーの利益を差し引いた額がプラスになるように運営するだけで良い。仮想通貨「販売所」は投資に不慣れな層をユーザーに引き込んでいたため、大半のユーザーは頻繁な売買を繰り返し、その都度10%のスプレッドを支払っていたと考えても良さそうだ。

マウントゴックスに続く2例目の国内取引所のクラッキング被害

 さて、次は法律面に触れる。ユーザーにとってのノミ行為の弊害はユーザーの資産と金融機関の資産を混同することにより、金融機関が破綻した際にはユーザーにカウンターパーティリスクが生じることにある。業者がユーザーの証拠金や預かり資産を事業に流用し、焦げ付いたため、ユーザーが被害を受けるケースは枚挙にいとまがない。

 このため、規制当局は金融商品を扱う業者に「分別管理」をするよう規制している。仮想通貨の規制を追加し改正された資金決済法(いわゆる仮想通貨法)は、仮想通貨交換事業者に対して、法定通貨、仮想通貨ともに利用者資産と自社の資産を分けて管理することを義務付けている。区分管理の状況について、公認会計士または監査法人による外部監査を求めている。

 つまり、オペレーション上、他者から問われたときに「ユーザーの仮想通貨」「コインチェックの仮想通貨」と明確に示さなければならないことになる。金融庁のガイドラインはコールドウォレット保管している際には、ハードウェアを分ける保管を実視するよう要請している。

 ただし、他の種類の事業者に課せられているような、仮想通貨の分別管理の方法として利用者から預かる仮想通貨を保全するための供託義務、銀行との保全契約、信託契約の締結等は必ずしも求められていない。

 改正資金決済法には分別管理に関する罰則が定められている。

改正資金決済法63条の11第1項の規定による利用者の金銭・仮想通貨の分別管理義務違反に対しては、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、またはその両方がなされることになります(改正資金決済法108条

 法律をコインチェックの事案に対してどのように執行するかに関しては、金融庁のさじ加減に拠る。コインチェックは「みなし仮想通貨交換業者」なのがポイントで、この罰則が明確に適応可能ではないという論理などが出てくることも十分想定できる。

 もう一点、今回の事案は、仮想通貨クラッキングが発生した際にどのように対応するか、日本ではマウントゴックス以降二つ目のケースとなったことに触れたい。コインチェックはユーザーに対して「登録ユーザーが被った損害の賠償責任をいっさい負わない」という利用規約を提示していたが、現状はある時点での換算円レートで26万アカウントに返還すると宣言している。

 仮想通貨の法律的な立ち位置は、「法定通貨ではない、支払手段のひとつ」。これが失われたときの法的な定義付けはまだ確立しない。Twitterなどではデットコインスワップというデットエクイティスワップの仮想通貨版が検討された。コインチェックが自ら独自コインを発行し上場させ、それを債権者に配り、その独自コインでの手数料が半額になる等のインセンティブを設ける。独自コインが値上がりすればユーザーは損害分を取り返せるという仕組みだ。これは米取引所Bitfinexが盗難にあった際に実際に実施されている。

ユーザーの学習機会に

 さて、最後にユーザーの視点から見てみよう。

 今回の件で、取引所アカウントのカウンターパーティリスクに気づくいい機会だと考えられる。カウンターパーティリスクとは、取引相手が債務不履行に陥ることで取引が完結しないことを指す。ビットコインは個人でお金を管理し、銀行機能を自分自身で完結することができ、その仕組を目指して開発されてきた経緯がある。

 取引所にお金を預けている状態は、人の財布に資産を預けている状態でもある。秘密鍵の管理は手間だが、自分のお金を自分自身で管理できるようになる。ユーザー自身でコールドウォレットを利用してみるのも手だろう。

 また、販売所で課せられる過剰なスプレッドについて関知するなど、ユーザーがどれだけ正確な情報を把握できるか、さらにユーザーが仮想通貨そのものはもちろんのこと取引の仕組みや運営者の実態、技術背景を本当に理解しているかなど、取引に対するリスクをきちんと把握して行動することが求められるだろう。

◇ライタープロフィール
吉田 拓史
デジタルビジネスアナリスト。
早稲田大学政治経済学部政治学科卒。ジャカルタで政治経済記者。APEC、ASEAN首脳会議でTPP、ASEAN+3などの地域経済統合をリサーチ。帰国後、米デジタルマーケティングメディアDIGIDAY[日本版]立上げ参画。2017年10月テックビジネス戦略メディアAxionを創業。

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