不動産テックビジネス研究会は10月26日、第5回研究会「不動産×ITディスカッション」を開催した。保有する不動産データを基に「trueper(トゥルーパー)」、「adwhite(アドホワイト)」などのソリューションを提供する、ターミナルの代表取締役社長である中道康徳氏が登壇し、日米の不動産データ価値の違いや、国内で深刻化する“空き家”を悪用する詐欺手口など最新動向を話した。
不動産テックビジネス研究会は、デジタルハリウッド大学大学院 尹煕元研究室「サイバーファイナンスラボ・プロジェクト」内に設置された研究会。不動産テック企業、リマールエステートの代表取締役社長CEOである赤木正幸氏が代表を務める。
研究会メンバーとして、シーエムディーラボ 代表取締役社長、デジタルハリウッド大学大学院 特任教授の尹煕元氏(ファイナンス・AI・仮想通貨・ブロックチェーン)、デジタルハリウッド大学大学院の藤田優介氏、Gash fara代表取締役社長の茂木健一氏(ブロックチェーン・ドローン)らが参加している。
中道氏は、2015年にターミナルを設立。不動産デベロッパーで、不動産営業やウェブマーケティング、業務支援システムの運用を経験した後、ネクスト(現在のLIFULL)で不動産データを使った他メディアへのコンテンツアライアンス提案を担当。ソネット・メディア・ネットワークスでは、DSP「Logicad」の商品企画などに携わった経験を持つ。
中道氏は、日米の不動産データ価値の違いを説明。「米国と日本の不動産取引では、売買価格や賃料に対する考え方が違う。米国は値上がりしたら売買する、と不動産価値を高めることに積極的なのに対し、日本は不動産価値が下がる前提で取引されている」と指摘する。
この背景には、不動産データ流通や取引の仕組みが大きく影響している。日本では、宅地建物取引士や不動産事業者のみ閲覧可能なデータ「REINS(レインズ)」が存在する。一方米国には、誰でも閲覧可能なデータ「MLS(エムエルエス)」が存在し、一般消費者も使用料を支払うことで閲覧が可能。さらにMLSに登録された不動産データを、不動産メディアや不動産事業者が運営するサイトに表示することまで仕組み化されている。
「中古不動産の取引を例に挙げると、米国は売り手、買い手の両方にエージェントやブローカーがいて取引するのに対し、日本は、売り手に多くの関連事業者が関わり、関連事業者という窓口と買い手が取引するケースが多数。売り手優位のマーケットになってしまっている」と日本の不動産業界における、パワーバランスを説明した。
日本の不動産取引では、売り手と買い手に「情報の非対称性」が存在すると言われ続けているが、取引の構造や仕組みの違いによるものが大きい。さらに、売り手優位の手段として、流通する不動産データを意図的に改ざんしたり制限をかけたりするなどの行為も、情報の非対称性を広げる原因になっている。
ターミナルでは、約1000万件の不動産賃貸データを保有している。賃貸住宅を扱う不動産事業者や大手企業協力の下、さらなる件数の積み上げも予定している。
ターミナルが保有する不動産賃貸データの特徴は、賃貸住宅に住人が「存在するか、しないか」の最新状態を把握できる点にある。他業界では当たり前である注文可能な商品在庫がいくつあるか、“在庫の概念”を持つことで、詐欺被害を食い止める重要な役割を果たしている。
国内EC市場は、1兆5297億円に成長し、現在も拡大している。規模に比例し、詐欺被害も拡大しており、クレジットカード不正利用の被害額は140億円を超え、約1%を占めている。手口も巧妙化しており、手口の1つにクレジットカードを利用したものがある。
他人のクレジットカード番号とECのアカウント情報を不正に取得し、商品を注文。注文確定後、配送先住所を不動産賃貸住宅の「空き家」に指定するケースがある。このケースでは、不動産賃貸住宅の玄関ドアの鍵破壊や、ゴミの放置など二次被害を出しており、不動産業界にまで被害が拡大している。最近では、民泊を悪用するケースも登場している。
被害を食い止めるには、空き家であるか否かの把握が必要である。ターミナルが保有する不動産賃貸データでは、住人が「存在する、しない」を判断できるため、注文確定後の配送先住所を照会するだけで、注文の確定を回避できる。これにより、詐欺による二次被害まで回避できる。
「ターミナルが保有するデータは、不動産事業者のうち、賃貸住宅の管理、運営を担う企業が業務遂行のため導入しているシステムと提携している。このデータには不動産賃貸住宅の稼働状況に関連する内容が含まれるため、住人の存在を判断できる仕組み。副産物として、市場賃料の動向や経過年数との相関など、従来見えなかったデータが見える」と、中道氏は実例を挙げる。
「各データは、不動産会社が使っている会社のシステムとターミナルのシステムをつなぐことで、取得している。このデータには契約管理のほか、入出金データがあり、家賃の入金データを元に、人が住んでいるかいないかを判断する仕組み。そのため副産物として家賃の実契約料金もわかるようになっている」と、中道氏は実例を挙げる。
不動産事業者は、詐欺グループの迷惑行為や不動産おとり広告の検知を対価に、ターミナルへのデータ提供を承認しているとのこと。中道氏は「今後は、データ件数の増加とともに、不動産賃貸物件をさまざまな負から守るソリューションを提供し続け、資産としての不動産価値向上を支援したい」とした。
ディスカッションでは、データの取得方法から海外の動向などについて質問が飛び、それに対し、中道氏がターミナル独自の手法を明かした。
Q: 米国の空き家で同じような詐欺被害はないのか。(尹氏)
A: 米国では起こりにくい。なぜなら、MLSが電子キーを販売し、いつ誰が見学したかを追える。また、不動産事業者で構成される全米不動産協会では、日本より厳しいルールでMLSを運営しており、規定違反などにより、MSLが参照できないことを敬遠するため、空き家を悪用するケースが起こりにくい。少し古い調査だが、米国インターネット犯罪苦情センターが公表した「Internet Crime Report」では、インターネット犯罪に関する苦情件数のうち、オークション詐欺や購入商品の未送、代金未払い、信用詐欺が67%を占めている。
Q: 現在1000万件あるデータのカバー率はどのくらいか。(藤田氏)
A: 賃貸全体の総数は約2300万件と言われており、当面は過半数を目指す。
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