一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は5月24日、渋谷区代々木の本部で年次定例会見を開き、2016年度事業の実績などについて報告した。
2016年度の使用料徴収額は1118億2103万円(前年100.1%)で微増。コンサート市場の好調やクラブ・ディスコなどの契約推進がプラスに寄与したほか、NHK受信料収入の増加や2015年度の利用割合確定にともなう追加請求などから放送等使用料(包括)が前年を上回った。また、インタラクティブ配信の徴収額が初めて100億円を突破した。
さらに今回の会見では、初めて使用料等分配額を公表。これまでもウェブサイトなどで財務諸表は公表していたが、「より透明感をお示しするため」(浅石道夫理事長)会見でも報告することにしたという。2016年度の使用料分配額は1124億7608万円(前年比100.8%)で、分配額としては過去2番目に大きい額となる。徴収額と一致しないのは、徴収から配分確定までに3~6カ月のズレがあるためで「全体の98%が使用報告を基にしたセンサス分配であり、サンプリング分配は1.98%」(宮脇正弘常任理事)と、改めて正確性と公平性を説明した。
浅石道夫理事長は、2016年度の活動について「大きく3つの柱があった。公正取引委員会への審判請求取り下げ、国際化の推進、演奏権管理の強化だ。特に国際化については、2019年に著作権協会国際連合(CISAC)の総会を35年ぶりに日本で開催する予定であり、アジアでの交流・協力体制強化を含めて積極的に進めていきたい」と総括。音楽教室の反発で揺れる演奏権管理強化についても、粛々と進めていく考えを示した。
京都大学のウェブサイトに、JASRAC管理楽曲の歌詞が一部掲載された件について、浅石理事長は「歌詞掲載に関して当事者に確認を行うのはJASRACの日常業務であり、今回も歌詞が掲載された内容をネット配信したことについてお話をした、というだけ」とし、問題点があるかのように報じた一部マスコミに対し「誤報である」と断じた。
その上で「すでに引用と判断しており、徴収は行わない」(浅石氏)と説明。徴収を行うという前提があった上での問い合わせだったのではないか、という質問に対しては「ネット配信における歌詞利用の考えを京大側に問い合わせただけ。徴収を前提とした問い合わせということではない」(同)と強く否定した。
音楽教室などに演奏著作権使用料の支払いを求めた件の進捗については「完全に没交渉状態」(浅石氏)とし、ヤマハ音楽振興会などが立ち上げた「音楽教育を守る会」との直接話し合いは全く行われていない状態とした。
一部報道で伝えられた音楽教室側の訴訟についても「報道で聞いている以上のことは何も届いておらず、答えようがない」(浅石氏)と説明。JASRAC側からのアプローチに対しても「演奏には当たらない、の一点張りでそれ以上の進展が望めない」(広報)という状況で、法廷での決着となるのかどうかもはっきりしないという。
一連の諸課題においてJASRACを批判する声も生まれているが、浅石理事長は「ひとつ言えることは、JASRACは作家の集合体であり、作家ひとりひとりの財産をいかに守り、円滑に活用していただくかを考える団体。そうした前提に基づいた上で、どういった批判が寄せられているのかを考え、今後の活動に努めたい」とした。
前年度の使用料分配額が多かった楽曲を表彰する「JASRAC賞」は、中島みゆきさんが作詞・作曲した「糸」が金賞を受賞。CMなど幅広い分野で利用されたほか、カラオケ定番曲として親しまれたことも金賞受賞につながった。
銀賞は、DVD付マガジンがヒットした影響から「名探偵コナンBGM」が受賞。銅賞は発売30周年を迎えた人気ゲームから「ドラゴンクエスト序曲」が受賞した。なお、国際賞は海外で人気の高いアニメ楽曲「FAIRY TAIL BGM」、外国作品賞はコンビニエンスストアのCMで利用されている「DAYDREAM BELIEVER」がそれぞれ受賞している。
いではく会長は「長く親しまれている楽曲が受賞した」と評したとおり、金賞の「糸」は1992年に発表された楽曲で、銀・銅賞も発表から20~30年が経過している曲。近年のヒット曲が弱いとする指摘もあるが、一方で使用料分配が3~6カ月後となる影響から時期によっては前年ヒット曲が受賞に届かないケースもあり、一概に「世相を反映」とは言えない状況もあるようだ。
なお「糸」は前年も銅賞を受賞しており、2年連続の受賞となった。
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