システムを受諾開発する大手SIerとして知られる伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、近年“脱SIer”とも取れる動きを見せている。2015年8月にはビジネスチャットサービス「Tocaro(トカロ)」を公開。また2016年10月には、トイレの空き状況をスマートフォンから確認できる「IoTトイレ」を発表するなど、既存の事業領域にとらわれない新規サービスを打ち出している。
「我々の主力ビジネスであるシステムインテグレーション(SI)の成長が鈍化していると感じている。そこで、中期経営計画では『サービス型へのシフト』を重要テーマとして掲げた。2014年度の売上比率は製品が39%、SIが21%、サービスが40%だったが、2017年度は製品とSIを合わせて50%、サービス50%に変えていきたい」――伊藤忠テクノソリューションズ 情報通信第3本部 ICT技術統轄部 部長の望月雅王氏は、新規事業を立ち上げる狙いをこのように語る。
同社が積極的に新規事業に取り組むきっかけとなったのは、2006年にローンチされたアマゾンのクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」の台頭だという。AWSの急拡大などの影響もあり、SI業界全体の成長率が鈍化傾向にあることから、新規事業によって、SIに次ぐ“収益の柱”を生み出したい考えだ。
CTC内では3年ほど前から、サービス系の新規ビジネスを手がける社内ベンチャーが徐々に増え始めているという。そうした活動の中から生まれた代表的なサービスが、ビジネスチャットツールのTocaroだ。もともと米Evernoteのプロダクト開発に携わっていた同社の近藤誠氏を中心にシリコンバレーで開発された。
Tocaroは、社内外のユーザーとのチャット機能のほか、画像やドキュメントなどのファイルの一元管理、チーム内でのタスク共有などの機能を備えている。2015年8月にサービスを開始し、これまでに約1000社に導入されているという。顧客の業種は、百貨店や証券会社などさまざまで、最も多いのは通信・IT企業だという。従業員数が100~200人規模の企業が中心だが、月間のアクティブ率は7割に及び、解約率も0%というから驚きだ。
Tocaroの担当者であるCTC 情報通信第3本部 ICT技術統轄部 ソリューション開発第2課の松田賢司氏は、Tocaroの継続率の高さについて「我々はもともとSIとして顧客の要望を聴くことが得意。顧客が何に困っているのかを理解しながら適切なツールを紹介している」と説明する。そのため、顧客の要望によっては、Tocaro以外のビジネスコミュニケーションツールを勧めることもあるという。
現在は、ビジネスチャットツールとして展開しているが、他のサービスとの連携を強めることで、より利便性を高めていく予定。すでにファイル共有クラウド「Box(ボックス)」と連携しており、今後もCTCの持つさまざまなクラウドサービスと組み合わせることで、幅広い顧客ニーズに応えたいとしている。
このほか、同社の手がけたサービスの中でも異彩を放っているのが、スマートフォンで個室トイレの空き状況を確認できるオフィス向けの「IoTトイレ」だ。発電パネルと無線が内蔵されているセンサを使用して個室トイレのドアの開閉状態を判断し、PCやスマートデバイスから空き状況を確認できる。
利用方法はシンプルで、社員はスマートフォンから専用のウェブサイトにアクセスして、割り当てられたIDとパスワードでログインするだけ。アカウントに紐づいたフロアのトイレの空き状況を、ドア型のアイコンによってリアルタイムに確認できる。盗撮などの犯罪を防ぐため、ユーザーの性別によって閲覧できるトイレの内容は異なるという。
機器の設置方法は、粘着テープのついた端末をドアに貼り付けるだけ。そのため、1フロアあたり15分程度で設置が完了するという。端末にはSIMカードが入っており、配線工事やサーバの設置などが不要なため、小規模なオフィスでも簡単に導入できる。料金はゲートウェイ使用料が月額2780円で、個室が1つあたり月額880円。
IoTトイレは、事業責任者であるCTC 情報通信事業グループ エグゼクティブエンジニア 有馬正行氏の部下の提案から生まれたのだという。「お腹が弱い寺西君という部下が、電車の中でお腹が痛くなった時に、どの駅のトイレが空いているのかを事前に把握できるサービスを作りたいと言われたことがきっかけ。資金がなかったので社長に相談したところ、『総務によくトイレが混んでいて困っているという声が入っているから、総務予算で作っていいよ』と承認された(笑)」(有馬氏)。
そこで、2015年度に開催された、業務改善や問題解決につながるツール作成の社内コンテストにIoTトイレで応募したところ、なんと大賞を受賞。それを機に、社内で「何か面白いことをしたい」と考えている若手社員などを集めてコミュニティを作り、ライトニングトークを実施するなどして、活動の輪を広げていったそうだ。
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