「テレパシー技術」開発に乗り出すイーロン・マスクの危機感 - (page 2)

情報を圧縮せず思考をやりとりするBMI

 生物としての人間は構造的に進歩することがあまり期待できない。そのため、AI(マシン)がどんどん進歩して人間の能力をはるかに上回るようになれば、AIに支配されかねない。そうした事態を避けるためには、人間側の計算処理能力・情報伝達能力を引き上げればいい。MuskがNeuralinkでBMIの研究開発に乗り出す理由はそうしたもので、Wait but whyの記事には人間にとって唯一の良い選択肢は「AIになること(”To be AI.”)」という一文もある。

 Muskが人間のハイブリッド化・サイボーグ化で大きな課題とみているのが生身の人間の通信伝達の遅さ(帯域幅の狭さ)で、それを解決するためにはいくつもあるボトルネックを取り除けばいい、との考え方が示されている。人間の脳に浮かんだ考えを言葉に変換する際に生じる情報の圧縮(それに伴う欠落)をなくし、同時に音声やキーボード入力といったまだるっこしい伝達手順を省けば、相手(人間とAIの両方を含む)とより迅速に、しかも十全な情報のやりとりができる、ということだろうか。

 先日Facebookが似たような研究を発表していたが、あれを目にした際に浮かんだ「脳のインターフェースでも、やはり情報をいったん言葉に置き換えるのか?」という疑問は、NeuralinkのBMIではなくなる想定のようだ。ただし、非圧縮でやりとりされる頭の中のイメージというのが一体どういうものになるかは見当もつかない。

 BMIでは実装に外科手術が必要で、その点もFacebookの研究と違う(ただし想定する選択肢の中にはシール式タトゥーのようなものもある)。いろいろと解決すべき課題があるのは明らかだが、まずは医療向けのものを4、5年くらいで開発するのが当面の目標ともあるのはやや驚きだ。一体どんなものができてくるのか、少し先の話になりそうだが、かなり楽しみな動きだ。

 それにしても、生きているうちにこんなものに実際に行き会う可能性が出てきたとは……30年ほど昔に読んだ「グローバル・ブレイン」という書籍のことを思い出しながら、そんな感慨を抱いた。

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