3月10~19日に米国テキサス州オースティンで開催されたクリエイティブフェスティバル「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2017」に参加してきた。私なりの視点から2017年のSXSWのレポートを3回に分けてお伝えしたい。
まずはじめに、SXSWについて簡単に説明しよう。その歴史は古く、1987年にインディーズの音楽祭として始まり、1994年からは映画祭を同時に開催。さらに1998年にはインタラクティブフェスティバルも始まり、今の姿となる。約10日間の開催期間中には、世界各国から20万人が集まるとも言われる、世界でも有数の大規模イベントだ。
インタラクティブフェスティバルでは、Twitterが賞を受賞し世界的に注目を浴びるきっかけになった。今では米国のみならず、世界中のスタートアップの登竜門となっている。日本からの注目も年々増しており、これまではテック系スタートアップの参加が目立っていたが、2017年は例年の参加者に加え、パナソニックや資生堂などの大手企業もブースを出展。関係者も含め、日本からの参加者が増えた印象だ。
SXSW 2017では、キーノートとセッションが毎日200以上開催された。4日間開催されるトレードショーには321の企業やチームが出展し、街のいたるところに企業のパビリオンが併設され、市街ではゲリラ的にパフォーマンスやプロモーションが始まる。
これに加えて、アワードの授賞式やピッチ形式のイベントなどもあり、1人ですべてを網羅することは物理的に不可能だ。仮にチームで手分けしても難しい。参加者同士で情報交換をし、ようやく全体像がうっすらと見えてくる程度だ。これほど大規模なイベントであるため、何を目的にSXSWに参加したかによって、その印象は大きく異なる。
2016年はVR元年と言われ、SXSW 2016でもVRコンテンツの展示数はかなり多かったが、そのほとんどがVRコンテンツそのものを展示するものだった。たとえば、VRゴーグルが置かれたブースで椅子などに座り、ゴーグルとヘッドフォンを装着して再生されるVRコンテンツを体験するといったものだ。しかし、2017年は2016年に比べると、そういった展示が減ったように感じた。では、VRコンテンツ自体が減少したのかというと、むしろ増えた印象だ。
各ブースでは、さまざまなプロダクトやソリューションを紹介するために実機やモックアップが用意され、そこで説明用の映像が流れていたり、デモ体験ができたりした。こうした、さまざまなツールの1つとしてVRを採用している企業が多くあった。VRコンテンツが特別扱いされる時代は終わり、伝えるための1つの手段としてカジュアルにラインアップされており、いよいよVRが次のフェーズに入ってきたと感じた。また、VRが普及してきたからこそ生まれたVRソリューションも今年は展示されていた。
たとえば「InstaVR」は、VRコンテンツをプログラムなしで作ることができるツールだ。管理画面で操作することで、360度画面内に動画や画像を埋め込んだり、別の画面へのリンクや別ウィンドウで開くリンクを設定したりできる。できあがったコンテンツはスマートフォン向けアプリやウェブブラウザ、VRヘッドセット「GearVR」「HTC Vive」などに配信できる。
ゼロからプログラミングして作るこれまでのVRコンテンツと異なり、すべての設定を管理画面から行えるため、担当者が自ら360度画面を増やす、減らす、掲載内容の情報を更新するといったことが可能になり、修正のたびにいちいち外部の協力会社に修正依頼をする必要がなくなる。
これまで、VRコンテンツの制作と運用は時間とコストがかかり、とても敷居の高いものだったが、InstaVRのようなツールが出てくることで、VRコンテンツがぐっと身近で現実的なものになった。
次に紹介する「QA for VR」は、VRコンテンツを評価するサービスだ。これまで、ウェブサイトやスマートフォン向けアプリを検証、評価するサービスは数多く展開されてきたが、QA for VRはそのVRコンテンツ版だ。この1年で沢山のVRコンテンツが世の中にリリースされてきたが、より心地よくVRコンテンツを体験してもらうためにさまざまな環境から検証し、評価結果を数値化してレポートする。
VRといってもプラットフォームはさまざまで、ウェブやスマホアプリ、「Oculus Store、Steam」(HTC Viveなどに対応したVRコンテンツストア)などがある。さらに再生デバイスであるスマートフォンやPCは、それぞれに画角やスペックが異なる。コンテンツの作りによってもUIの分かりやすさや、酔いやすさなどに大きな差がでてくる。また、ウェブの検証のように、機能が正常に動作するかといったことも行う。
これらを事前に検証、評価することで、修正しなければいけない箇所、体験前の注意事項、推奨するデバイス、環境などを検証・検討できる。企業のサービスとしてVRコンテンツを事業展開するにあたり、検証、評価は欠かせないフェーズの1つだが、QA for VRのようなサービスを利用することで、専門性をもった第三者視点での検証、評価が可能となり、製品としての品質を担保できる。担当者に聞いたところ、検証や評価は日本のチームが実施しており、米国においては日本で検証するということが、安心につながっているとのこと。
これらのように、単純なVRコンテンツの展示ではなく、VRをよりビジネスとして成立させるための展示や、VRコンテンツを企業が運用するためのソリューションなど、VRマーケットが拡大しつつあることを背景とした、より多くのニーズに応える展示が前年よりも増えていたことが印象的だった。
次回はSXSW 2017で筆者が気になったプロダクト、ソリューション、パビリオンを紹介する。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス