オランダ人は家にこだわる。衣食住のうち、食事はパンにハムとチーズ、衣類はファストファッションという簡素ぶりだが、住環境には手間もお金も掛けるのだ。オランダの街中を歩いていると、まるで見てくださいとばかりに家の中が丸見えになっていることが多い。少し中に視線をやると、家具、壁紙、照明などの一つ一つにこだわりが感じられ、オリジナリティあふれるインテリアになっている。
このように家にこだわるオランダ人の特性を生かしたユニークな販売手法ブランディングを取り入れているのが、家具ブランド「Vrienden」だ。ブランド名のVriendenはオランダ語で「友だち」の意味。その名の通り友だちの家を訪問することが、同ブランドの販売手法のポイントだ。
Vriendenの家具はデパートやインテリアショップの店頭には並んでいない。実物を見てみたいと思ったら、以前その家具を購入した人の家に訪問するのだ。
Vriendenのサイトでは見学可能な部屋の写真がマップ上に示され、サイト内のフォームを通して直接見学のアポイントを取る。個人宅に加え、オフィスやライブラリーなどで使われている家具も見学の対象。ショップの店員ではなく実際に使っている人から、イスの座り心地はどうか、仕事のしやすさはどうかといった具体的な感想を聞けるのが魅力だ。
見学を経て家具が購入された場合、家主には販売金額の10%がコミッションとして支払われる。インターネット上ではなくリアルな世界でのアフィリエイトサービスとも言えるだろう。家具を購入した人は次回から部屋見学を受ける側になり(希望しない場合は非公開も可能)、見学可能な部屋のバリエーションがどんどん増えていく仕組みだ。
Vriendenは2016年9月に、2人のオランダ人デザイナーEric Sloot氏とPaulien Berendsen氏によって立ち上げられた。流行に左右されないすっきりとしたフォルムの中に、ユニークなパーツデザインや素材がさりげなく組み込まれているのがVrienden製家具の特徴だ。
EricとPaulienは、Vriendenの家具をショップに置かない理由を「商業的なフィルタを掛けないようにするため」としている。この商業的なフィルタとは2つの意味で使われていると考えられる。
まず1つ目は、家具自体へのフィルタだ。小売の商流を通して店頭販売する場合、いかに多くの数量を売ることができるか、在庫場所を取らないか、といった観点でバイヤーからのフィードバックやジャッジメントを受けることになる。このような経済的な観点は、家具のデザインを万人受けする画一的なものにしてしまう側面を持つ。Vriendenは家具を直接エンドユーザーに届けることで、革新的で個性的な家具であり続けることを選んだのだ。
そして2つ目は客の意識へのフィルタだ。多くの店頭では家具が生活感なく整然と並んでいて、客はそのイメージで家具自体を捉えてしまう。しかし、実際の暮らしに家具をはめ込んでみると、使用シーンやインテリアとの組み合わせによって、まったく異なる印象となる。
たとえば、Vriendenの「FLINTER」という家具。FrankとNicoleの家では食器棚として使われ、マグカップやボウルなどが並ぶ。60年代風のインテリアの中に置かれたFLINTERは、少しレトロでカジュアルな雰囲気を放っている。
一方、FlorineとToefの家では、FLINTERが写真集用の本棚として活躍中だ。写真好きな二人の家には大きくて重い写真集が数多くあり、それらを横にして収納できる家具としてFLINTERを選んだのだという。シンプルなリビングに置かれたFLINTERはモダンでクールな印象だ。
このようにVriendenの家具が生活の中でどのように存在しているか、十人十色の実例を見せることで、自分の部屋や生活にその家具を当てはめたときのイメージがしやすくなる。こだわり抜いて作られた個人の家をショールームとし、生活の中にある家具を見せるのがVriendenの巧みなやり方だ。
Vriendenはこの販売方法を通して、オランダ初の「ソーシャルデザインネットワーク」を構築することを掲げている。自分の家という個人の好みがダイレクトに反映される空間を共有することで、デザインやインテリアについて共通の好みや情熱を持つ人たちと交流ができ、家具の見学者が“友だち”に変わっていくというのだ。
効率を重視するオランダでは、日本以上にデジタル化や無人化が進んでいる。そんな中で、個人の家に家具を見に行くというVriendenのやり方は、一見時代と逆行しているかもしれない。
しかし、Vriendenでは、デジタルの要素も大いに取り込んでおり、商品の情報収集や購入はオンラインで完結する。そしてEコマースにとってネックである「実物を見て決めたい」というニーズには、個人の家という無数の選択肢を提示することで十二分に応え、さらにリアルの世界でのソーシャルネットワーキングにもつなげていくのだ。
このデジタルとアナログを組み合わせたVriendenのやり方は、今後のデジタルトレンドの1つとなっていくかもしれない。
(編集協力:岡徳之)
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