経済開放で急速に経済が伸びている「発展途上国」。インターネットが普及して間がなく、Google検索さえ知らないネットユーザーが多い「Facebook天国」。世界ボランティア指数で2年連続1位を獲得した「ボランティア大国」。この3つを兼ね備えたミャンマーで最近人気を呼んでいるのが、Facebookによる無料の就職情報ページだ。
経済発展のもと、ミャンマーでは深刻な人材不足が起こっている。日系大手では、雨後のタケノコのように誕生した日系人材紹介会社を利用するケースが目に付くが、地場企業はどのようにして探しているのだろうか。
日本のハローワークのような行政サービスがない中、昔から行われてきたのが、社員による紹介だ。地縁・血縁の絆が強いミャンマーでは、口コミに絶大な威力がある。定着率が高く、金銭を扱う仕事では信頼をおくことができ、万一の場合は親族による補償も期待できる。
また、ローカルの人材紹介会社もある。企業が希望条件を登録し、それに見合った人材を紹介する。応募者の登録は無料で、企業側が当該人材の給料3カ月分を、手数料として紹介会社へ渡す。紹介した人が1カ月で辞めた場合は2カ月分給与額を、2カ月で辞めたら1カ月分を返金するというスタイルが多い。
こうした方法は諸外国でもよくあるが、ミャンマーでは社員の定着率が悪く、仲介手数料の元を取れないことが多い。ヤンゴンで社員3名の小さな会社を運営する社長はこう嘆く。「人材紹介会社から来た新人が、3人続けて3カ月以内で辞めた。これでは紹介料をドブに捨てているようなもの。どうせすぐ辞めるなら、無料の人材紹介を利用したい」。
無料の人材探しで利用が多いのは、就職情報雑誌や、下の写真のような新聞のクラシファイドコーナー。不動産情報も多く、人材情報はごく一部。掲載してもらえる率は低い。
会社ごとに募集人材を羅列してあり、業種別でないため探しづらい。ブランド志向が強いミャンマー人は、会社名で選びがちなのだろうか。
条件がなかなか興味深い。「コミュニケーション能力が高い人」はいずこも同じだが、「身だしなみがきちんとしている人」や「酒、タバコ、キンマ(ミャンマー人が好んで噛むビンロウの実)をやらない人」というのはミャンマーらしい。「市外に出ることができる人」というのもある。女性の遠出を嫌がる保守的な家庭が多いミャンマーでは、雇ってみたら「近場でも出張は一切できません」というケースがよくあるからだ。
もう1つの特徴は、給与などの条件面の記載がほとんどないこと。それらは面接で応募側が希望を述べ、企業側はその人の能力を判断のうえ、交渉で決めるのが一般的だからだ。また、誰もが見る雑誌に、あからさまに金額を書くのははしたない、と感じるミャンマー人の気質のせいもあるかもしれない。
こうした中で、Facebookの台頭とともに利用が増えてきたのが、Facebookを使った人材情報交換ページだ。ほとんどがボランティアベースで運営されており、募集にも応募にも費用はかからない。就職情報誌との違いは、応募する側も売り込みメッセージを書き込める点だ。
たとえば、現在人気のあるページの1つ、「Job Opportunities for Myanmar Engineers」。Facebookのグループ機能を利用しており、6万人近いメンバーがいる。エンジニアのための人材紹介ページだが、ほかの業種の情報もあるほか、仕事のやり方や面接のコツなどもメンバー同士で伝授しあっている。
また、募集側と応募側とで面接前にやりとりをしたり、応募者同士が募集情報交換をすることもできる。ちょっとやり取りを見てみよう。
応募側「大学でBE-ECを取得。AUTOCAD、REVIT MEP、SKETCH UP、MICROSOFT EXCEL、WORD、POWER POINT、M&E ESTIMATE、M&E Course、Electrical Design and Low Voltage Course がOK。1年3カ月だけだがDRAFTERとElectrical QS の経験あり。ヤンゴン市内を希望」
これに対し、「この仕事ならちょうどいいのでは?」と、情報誌や新聞の人材募集ページの写真をアップする親切な人や、「似た条件で私も探してます」と便乗する人などが現れ、最後には、「XX-XXXXXXに電話してください。希望の仕事があるかもしれません」と人事担当者とおぼしき人物の書き込みがある。
ミャンマーは治安がいい。募集・応募の両方にとって何の保証もないFacebookでの人材・仕事紹介でも、あまり大きな問題が起きずにすんでいるのは、そのためかもしれない。しかし、経済が発展すれば必ず治安も一定程度悪くなるのが世の常。この「のどかな人材探し」がいつまでも続く国であることを願ってやまない。
(編集協力:岡徳之)
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