Netflix「火花」のHDR化は“イレギュラー“な状態から生まれた--制作者が語る舞台裏

 Netflixは10月6日、9月に配信を開始したオリジナルドラマ「火花」のHDR(High Dynamic Range)化について説明会を開催した。最新技術を常に取り入れているNetflixのコンテンツ制作姿勢から、HDR化を担った映像制作会社の開発背景までが話された。


HDR。Netflixオリジナルドラマ「火花」 (C)2016YDクリエイション

SDR。Netflixオリジナルドラマ「火花」 (C)2016YDクリエイション

 火花は6月に配信を開始したオリジナルコンテンツ。芥川賞を受賞した又吉直樹氏の原作を初めて映像化した作品で、世界190カ国に配信している。HDR化コンテンツは9月16日に配信をスタートした。

 オリジナルコンテンツ制作に積極的なNetflixは、「マルコ・ポーロ」など、いくつかの作品のHDR化をすでに実現している。火花のHDR化については、元々SDR(Standard Dynamic Range)用として制作が進められており、HDR化が決まったのは、SDR版が完成する少し前だったという。

 「火花はRAWデータで撮影していたため、HDRまで持っていくことができた」と話すのは、火花の制作を担当したザフールのプロデューサーである佐藤正晃氏だ。「配信というフォーマットにこだわらない中で、技術的に作れることが実証できた。チャンスだと感じた」(佐藤氏)とHDR化を実現できたときのことを振り返る。

 一方でチャレンジングな作品だからこそ、懸念点も残ったという。ポストプロダクションを担当したIMAGICA 映画・CM制作事業部映画プロデュースグループチーフテクニカルディレクターの石田記理氏は「SDRとして一度完成版を迎えている火花のHDR化をすることで、『この作品は誰のもの』という疑問点が出てきた。見ていただく視聴者のものという考え方ももちろんあるが、監督、撮影監督といったスタッフにHDR版を見てもらう必要があると考えた」と話す。

左からザフールのプロデューサーである佐藤正晃氏、IMAGICA 映画・CM制作事業部映画プロデュースグループチーフテクニカルディレクターの石田記理氏
左からザフールのプロデューサーである佐藤正晃氏、IMAGICA 映画・CM制作事業部映画プロデュースグループチーフテクニカルディレクターの石田記理氏

 火花では、トレーラーのHDR版を監督と撮影監督に見てもらい、世界観やHDRの効果を確認したという。

 HDRは、映像に記録できる輝度のレンジを拡大し、より明るい高画質が得られる新技術。「ドルビービジョン」と「HDR10」があり、Netflixではどちらも対応しているが、納品時はドルビービジョンを採用している。

Netflixのエンジニアメディアエンジニアリング&パートナーシップの宮川遥氏
Netflixのエンジニアメディアエンジニアリング&パートナーシップの宮川遥氏

 Netflixのエンジニアメディアエンジニアリング&パートナーシップの宮川遥氏は「ドルビービジョンでマスタリングすると、HDR10、SDRも作れる。1つのコンテンツに対して、3つのストリーミングメディアを作れるため」とドルビービジョンを採用している理由を説明する。

HDR化のポイントは演者の心情がわかるようなライティングにすること

 「HDRは輝度が高いことが特徴的だが、単純に輝度を上げるだけのHDR化はしていない。撮影した素材のほうがいいという意見もあったし、どういう立ち位置で、どこを目指してHDR化していくのか明確にすべきだと感じた」と佐藤氏はHDR化する際のポイントを話す。

 石田氏も「人間がものを見る時、美しいと感じるのは主観の部分が大きい。そこに客観性をきちんともたせるために数値やモニタのキャリブレーションなどは徹底的にし、前提条件を整えた」と言う。

 そのこだわりは細部に及ぶ。例えば前方に人物、後方に赤い提灯が映っている夜のシーンでは、提灯の赤に目がいってしまう。その時に単純に人物の輝度を上げることはせず、照明の明るさを抑えることで、バランスをとっているという。「映像の質感は、演じている人の心情がわかるようなライティングをどう表現するか」(佐藤氏)と話す。

 ただし、火花のようにSDRだった作品をHDR化することはまれ。「狭いものから広いものを作るのは難しい。SDRからスタートしてHDR化することはチャレンジだった。実現できたのはザフール、IMAGICA、Netflix相互での技術提供があったからこそ」と佐藤氏は言う。

 今回のHDR化に際し、IMAGICAでは専用ルームを作り対応したとのこと。「今回すべての環境を統一していこうということで、専用ルームを立ち上げた。どうすればできるのかということを常にチャレンジしていった作品だった」と石田氏は振り返る。

 HDRは、SDRに比べデータ量が1.5倍になり、それに伴いレンダリング、書き出し時間なども増える。「私たちの気持ちの中では、(HDR化の工程は)非常に短い時間だった」(石田氏)とのことだ。

Netflix代表取締役社長のグレッグ・ピーターズ氏
Netflix代表取締役社長のグレッグ・ピーターズ氏

 Netflixは、4K映像やHDR化など、最新技術をいち早く取り入れることでも知られる。Netflix代表取締役社長のグレッグ・ピーターズ氏は「インターネットを使うことで、映像クオリティの技術革新は、テレビや映画だったときに比べ何百倍にも早くなっている。Netflixは業界の中でも技術革新の促進を助ける非常にユニークなポジション」と優位性を話す。「一方で、2016年だけで60億ドルをコンテンツ制作に費やし、2017年には140タイトルをリリースする予定だ。コンテンツを提供するだけではなく、制作も担っており、世界最大のコンテンツ制作者になった。HDR化で重要なのは実写作品だけでなく、アニメなどのジャンルにも対応していこうと思っていること。今後実写、アニメともに多くの作品をHDRで配信していく」と今後について話した。

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