従来のタクシーの欠陥の1つは、配車が遅かったことです。運よく路上で掴まえることができれば良かったのですが、急いでいるときは運任せにする人はいません。一方、タクシー会社に電話して、タクシー営業所とドライバーに無線通信で配車を急いでもらっても、需要のある日程や時間帯ではさばき切ることは難しく、どうしても時間がかかりました。
Uberの場合、シェアリングエコノミーで契約関係にある大量のドライバーが街中にいて、ビッグデータ分析から最適なドライバーを選定する技術があるので、GPS付きの配車リクエストをもらえれば、瞬時に最適なドライバーを配車することができます。このドライバーとユーザーとをつなぐマッチング・アルゴリズムは、来るべき自動運転社会においてもっとも重要な要素の1つになるでしょう。
Uberには、企業ロゴやアプリアイコンを刷新するために2年半も費やしたという歴史が示す、強いデザイン哲学があります。ユーザーやドライバーとの関係性をより良いものにしようとする執念を感じます。そして、CEO自身もUberの成功要因の1つに、信頼性のある配車・乗車体験を挙げるほどです。実際のところ、アプリを数タップするだけで配車でき、支払いは事前登録のクレジットカードで済む「簡易性」や、配車中のタクシーの現在地を見ることができる「安心感」にほれ込む方が多く、その結果世界的に普及しました。
スマホネイティブな今、スマートフォン画面内の“便利で楽しい”インターネット体験を現実社会に求める人は潜在的に増えてきています。だからこそ、スマートフォンを通じて、ユーザーが街で知覚できる心地よいサービスには価値があります。当然ですが、スマートフォンやアプリがなければUberが用意する快適な配車・乗車体験を実現できず、都市内で最適な移動手段を得られないことになります。優れたUXはユーザーが価値あるサービスとして使い続ける理由になるので、その重要性を理解し実践するUberがユーザーからも投資家からも評価されるのは当然かもしれません。
Uberはそのライドシェア機能を、他社が簡単に使えるようにAPIを提供しています。代表的なのは、飲食店予約サービスのOpen Table、ホテル大手のハイアット、ユナイテッド航空など。宿泊や航空などのサービスと今をつなぐ全てをUberが担おうとしています。
APIを提供するメリットは、アライアンスパートナーの数を圧倒的に増やし、経済圏を構築すること。そして、各APIを通じて、それぞれのエンドユーザーの行動・志向データを得られることでしょう。これを通じて、Uberはより確度の高い事業アイデアを得ることができ、勝ち筋の良い戦略を立てるという好循環が続きます。
これら3つの仕組みのように、今だけでなく将来に渡って知見を蓄えられる仕組みを、ITテクノロジで実現することが、Uberのような驚異的な成長を実現するのだと私は考えます。同時に、多くの投資家が評価するのも、未来のクルマ社会での彼らの存在感を予察すれば、納得の評価とも言えるかもしれません。
そして、こうしたITテクノロジ巧者は、タクシー業界のみならず他業界にも存在します。米国IBMが2015年に世界70カ国5200人以上の経営者を対象に実施したところ、「経営者は他業界からの新たな競合へ強い危機感を持っている」ことが分かりました。
運輸というアナログ産業を考える上で、参考になる事例があるのでご紹介したいと思います。
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