山下氏は講演の冒頭で、現在のビジネス状況について「テクノロジの進化によって、働き方やワークプレイスの在り方が変わってきた」との認識を示した。
例えばテクノロジの進化により、世界中の「知」を集めるクラウドソーシングが実現可能となった。既存の職能を人工知能や機械化で置き換えることも徐々に進んでおり、余剰/遊休する設備をオンデマンド利用するといったことも実現してきている。
山下氏は、現在「価値生産の手段がパーソナル化・プラットフォーム化」していく中で、「全世界が同一条件で競争する時代が到来」し、モノの価格がひとつに集束する「一物一価の時代」になってきていると指摘する。また固定的な知識は一層のコモディティ化が進むはずだ。そのため「常に新たな価値を生み出していくこと」が、特に成熟した大企業には求められていく。山下氏が問題提起したのは、こうした状況の中で、企業はどのように新たな価値を生み出し、そのための「働く場」を作るべきか、ということだ。
「価値を生み出したい企業では、オフィスの在り方を工夫したり、ツールによる綿密なコミュニケーションを実現するといったニーズが高まっています。実際にこうした企業では、ツール活用を含むワークプレイスの機能が高度化しており、これまで面積の大半を占めていた単純作業の場はアウトソース/ITに置き換わり、またより高次の課題解決や課題探求を補えるようバウンダリースペースと呼ばれる場を整備しようとしています」(山下氏)
山下氏は、このような進化したワークプレイスの姿を「イノベーション型オフィス」と「サステナビリティ型オフィス」の2種類に分ける。イノベーション型オフィスの例としては、米Yahoo!が過去に行った施策をあげた。
同社は過去に経営が苦戦した際、CEOのマリッサ・メイヤー氏が、在宅ワークを禁止したことがある。その目的は「イノベーションの創出」だった。当時のシリコンバレーではテレワーク型のワークスタイルが主流だったのだが、「メールやメッセンジャーではなく、一箇所に集まってコミュニケーションし、熱いディスカッションを交わすことが新しい価値の創造につながる」と考えたのだ。こうしたワーカーの物理的近接性を高める考え方が、イノベーション型オフィスの基本的な戦略になるという。
これを極限まで高めたのが、Facebookだ。同社の本社オフィスは、全長500メートルほどの巨大なワンフロアに、数千名の社員が混ざり合うスタイル。一緒にいる感覚を強め、より濃厚なコミュニケーションを交わしている実感を得られる。さらに同社は、社員の住居も「半径10マイル以内」に限定するという徹底ぶりだ。緊急時はオフィスに急行でき、プライベートでもコミュニケーション促進が図れる--、というわけだ。ツール類に頼りきりにならない、より本質的なコミュニケーション強化の実現例と言えるだろう。
とはいえ、「ここまでの場作りを日本の都心で実施するのは困難です」と山下氏。そこで紹介したのが、同氏もコンサルティングに携わったドワンゴの事例だ。
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