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合併や買収の根底にあった2つのテーマ--前スクエニ社長和田洋一氏が語った当時の内情 - (page 2)

佐藤和也 (編集部)2016年06月10日 12時19分
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新しいチャレンジはノンIPでやるべきと主張する理由

 企業の取得などで規模が大きくなり、タイトーやアイドスの改革にも取り組み多忙を極めるなか、2010年に危機的状況に陥ってしまう。このときは「ファイナルファンタジーXIV」の失敗がよく知られているが、コンシューマも不振だったという。

 和田氏は、競争相手が少ないMMORPGのような定額制タイトルで底辺を支え、F2P(フリートゥプレイ:基本プレイ無料)のタイトルで短期間での投資と回収を行い、これらで培った技術やビジネスモデルをハイデフ(コンシューマゲーム)に活用していくという3階建ての構想でセグメントを切ろうとしていたいう。ところが、土台となるはずのファイナルファンタジーXIVが不振を極めてしまったがために、その構想を崩れ去ってしまう。和田氏も「このときばかりは体にきた」と、実際に倒れて1日入院したことを明かした。

 そのときの状況について、成長戦略において買収や新しい試みを行うことが中心となってしまい、スクエニ本体に関するところがおろそかになってしまい、成長につながらなかったことが反省点だったという。それからは会社の外縁を変えず、開発はもとより法務や財務、人事にいたるまで社内での勉強会や研修を行い、本体としての成長を行っていった。特にパッケージ販売に最適化した組織であったため、F2Pについては開発や運用側が理解しても、管理や経営系の部署が“悪意なき邪魔”をしてしまうことがあったため、F2Pに対する理解と組織作りを促したという。

 F2Pをビジネスモデルとして多く用いられているスマートフォン向けゲームは、ヒットタイトルが限定的で再現性も低いのが現実としてある。このあたりは日本において各社がノウハウを共有すると面白いのではと語るともに、ビジネスサイドから見たときに、いかに開発のスタープレイヤーに頼らなくても、継続してタイトルを提供し続けられるかが課題だとし、在籍時には継続性を持った体制にできたという。

和田氏は「なかなかビジネス周りでの情報共有が行われない」と、かなり踏み込んだところにまで当時のエピソードを語った
和田氏は「なかなかビジネス周りでの情報共有が行われない」と、かなり踏み込んだところにまで当時のエピソードを語った

 ゲーム業界ではさまざまなハードがリリースされ、プラットフォームが幾度も無く変化してきた歴史がある。新規のハードなりプラットフォーム向けにタイトルをリリースすることは新しいチャレンジではあるが、リスクもともなうもの。かつて和田氏は坂口氏との会話のなかで「新しいチャレンジをするときにはIPを使え」という言葉が出てきたと振り返る。実際にMMORPGでは「ファイナルファンタジーXI」、プレイステーションの参入時に「ファイナルファンタジーVII」と、ファイナルファンジーのナンバリングタイトルを用いてリリースしている。

 当初この考え方に賛同していた和田氏が、インターネット環境の普及や企業買収を通じ他の分野を見て感じたこととして、ゲームデザインはハードなどの動作環境に依存するため、違うコンテンツになるだけではなく客層までも異なることから「新しいチャレンジはノンIPですべき」と考え方を改めたという。動作環境が変わりゲームデザインが変化するときには、多少荒削りでもブレイクする可能性があり、そこにノンIPを投じて新たなIPとして確立したほうが得策というのが和田氏の考えだ。

 ただ唯一、ドラゴンクエストシリーズについてナンバリング以外は必ず違うゲームデザインにするという方針が徹底しており、この方向性を維持しているという。

ガチャ問題は「本質的にまずいところを議論して先手を打つべき」

 和田氏のCESA会長時に起きたエピソードも語られた。当時はゲームの暴力表現に対して議論がこじれていた時期でもあり「下手すれば不買運動すら起きかねない、本当にまずい状態」だったことから、解決に向けて会長を引き受けたという。

 その問題点を整理するなかで、CESA側としては表現の自由に関する問題ととらえていたが、ヒアリングを通じてある警察の方が「表現の自由はかまわないが、これを娘に見せられますか?」と、青少年の健全育成の観点から指摘していることに気づいたという。そして当時のゲーム市場は、実は子どもよりもある程度年齢層の高い大人が中心であり、仮に規制が強くなって子ども向けのものしか作れない状況になると市場が成り立たなくなる危険性をはらんでいたため、以前から取り組んでいたレーティング機構をより実務的に機能させ、なおかつ一枚岩で取り組むために、CESAの会員企業に強制ともいえるぐらいに徹底させたと振り返る。

 現在ではスマートフォン向けゲームのガチャに関しても話題となっているが、和田氏は何が本質的にまずいのかを議論したほうがいいという見解を述べた。和田氏が見る問題のポイントは「射幸性をあおる」「未成年の多額な課金」の2点にあるという。と同時に、今はデジタル財における価格付けができていないことを言及。ランダム排出による希少なアイテムを手にしたことの満足感や承認欲求といった、いわゆる“気持ち良さ”に対して支払いを行うという概念を説明して理解するすることはほぼ不可能に近いとし、業界側から本質的な問題点を議論した上で、その対策となるものを先手を打って自主的に提案や規制を行わないと、必要以上の規制が入って市場が保てなくなる危険性を指摘した。

IoT時代だからこそ日本のゲーム業界が復興する可能性がある

 和田氏はコンピュータが高性能かつ小型化が進みパーソナルなものになることと、インターネットの普及が進むという2つの流れがあり、この流れがうまくかみ合ったのが約5年前のスマートフォンだという。それによってゲーム業界も含めて大きな躍進を遂げたが、逆に言うとそれ以降の大ブレイクは考えにくく、そうなると市場の成熟によってレッドオーシャンで戦い抜く消耗戦に入ることは想定していたという。

 次の時代を見据えたとき、和田氏は2020年ぐらいにコンピュータの形が変わり、新しいコンピュータを構成する要素として、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、IoT(モノとインターネット)、クラウド、AI(人工知能)になるであろう予測のもと、これらに関する知見をためていくことが重要だと考えたという。

 VRとARはハードウェア領域にあたり当時は乗り出すのが難しく、IoTは組み込まれる側の話であるがゆえ1社で頑張っても無理ということから、最初に着手するべきと考えたのはクラウドとAI。どんなにスペックが上がってもAIをクライアント側で動かすのは難しく、クラウド側でAIを動かすようにするという、“AIにフィーチャーしたクラウド”という考えに行き着いたという。そしてそこで動作するコンテンツの試行錯誤によって知見をため、VRやARの仕様が固まったら連結させていくことが、シンラ・テクノロジーでやろうとしていたことだったと振り返る。

 和田氏は、昨今ではVR関連で盛り上がりがあり投資も活発だが、それだけでは得られるものがないため、新しいコンピュータになったときに何が起こるかを真剣に考えるのであれば作り続けること、そして失敗してもやめないことが重要だと説いた。そのなかでは投資だけではなく、開発との両面で展開しているコロプラの取り組みを評価していた。

 また、お台場で「VR ZONE」を展開しているバンダイナムコグループの取り組みを絶賛。日本のゲーム業界はソフトだけではなく、アーケードゲームと実験場ともいえるゲームセンターの文化も定着している唯一の国でもあることから、ソフトもハードもエンタメも理解している日本は大きな強みがあり、IoT時代においてのゲーム業界で復権をとげる可能性があることを示唆した。

 最後に自身の今後について、バイオ分野に対する興味やゲーム業界に対する恩返しなどを語りつつ、証券業界とゲーム業界に16年ずつ関わったことから「この先の16年をどうしていくか、これから考えたい」とコメントした。

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