NHN comicoは5月25日、スマートフォン向けの縦読み漫画アプリ「comico」が、2月にタイに進出したことを記念したイベントをバンコクで開催した。会場では、comicoに連載をもつ4カ国の作家によるトークセッションや、サイン会などが開かれ、大きな盛り上がりを見せた。
comicoのタイ版を運営するNHN Entertainment Thaiの代表であるJongbum Park氏に、タイにおける戦略を聞いた。現在、バンコクのオフィスには韓国社員3人、タイ社員17人が働いており、日本、台湾、韓国の作品のローカライズや、タイ人の漫画家の発掘などをしているという。
日本では100万部を超える漫画は数多く存在するが、タイでは3~4万部売れればヒット作と言われている。日常的に漫画を読んでいる人が少ないことも理由として挙げられるが、それ以上に「漫画は海賊版で読む」という習慣が根付いてしまっているからだとPark氏は指摘する。タイ版の少年ジャンプですら海賊版で読まれているというから驚きだ。
その点で、デジタル漫画はIP(知的財産)を保護しやすいという利点があり、少しでも海賊版を減らすきっかけになるかもしれないとPark氏は話す。2013年時点で紙の漫画と比べたデジタル漫画の比率はわずか1.8%だったが、2018年には9.4%まで上がると見られている。
タイではcomico以外にも、すでに「LINE Webtoon」や「Ookbee」などのスマホ漫画サービスが提供されており、特にLINE Webtoonの人気が高いのだという。同国は台湾と同様にメッセージアプリ「LINE」が広く普及している国であり、LINE Webtoonの認知度も高いものと思われる。
タイ版comicoのダウンロード数は5月30日時点で約40万(Androidが30万、iOSが10万)で、月間アクティブユーザー数(MAU)は20万人。直近約1カ月間のユーザー属性は、男女比が女性76.1%、男性23.9%。年齢は18~24歳が58.39%、25~34歳が23.79%で約8割を占める。作品数は、タイが52タイトル、日本が37タイトル、韓国が16タイトル、台湾が20タイトルだ。
タイ版のランキング上位は、1~3位がタイ、4位が韓国、5位以降が日本の作品となっている。Park氏によると、タイのデジタル漫画には恋愛作品や家族作品が多く、その他のジャンルの作品はまだ育っていないという。今後は、ホラーやアクションなど幅広いジャンルの作品も増やしていきたいとしている。
comicoでは従来の出版漫画のように、すべての漫画家と編集者が1対1で打ち合わせをしているわけではない。その代わりに、読者の年代や性別、読者数の増減などのデータを提供しており、作家はそのデータをもとに作品を執筆している。また、ランキング上位の一部の作家とは直接会って、データを参考にしつつ方向性を決めているそうだ。今後はスマートフォンゲーム化を見据えた漫画も企画していくという。
タイでは日本のように漫画家やイラストレーターの人材が豊富にいるわけではないため、新たな作家の発掘も一苦労だ。そこで同社では、専用のFacebookページで作品を募集しているほか、現地で開かれている同人誌の即売会などに顔を出して、有力な作家がいれば他社にスカウトされないよう、その場でスポンサー契約を結んでいるという。
ただし、契約をしても週刊連載に音を上げて途中で休載してしまう作家は多いという。日本でも厳しいと言われる週刊連載、時間に寛容な国民性をもつタイではなおさらだ。そこで、今後はある程度まとまった話数をストックしてから一気に公開するといった形も検討しているという。
現在も、タイでは漫画家のみで生計を立てている人は少なく、副業で執筆している人がほとんどだ。Park氏は、comicoからスター作家を生み出すことでそうした状況を変え、次世代の漫画家たちに夢を与えていきたいと思いを語った。タイ版のcomicoでは、2016年内に国民の約1割にあたる500万ダウンロードを目指す。
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